
カジュアル服業態でフランチャイズ店主体の体制が成り立ちにくい理由
2025年2月7日 企業研究 3
ちょっとしつこいが、ワークマンの「ワーク強靭化」リリースについてである。
前回紹介したように、内容を大雑把にまとめると
「一般カジュアル客に向けたワークマン女子に注力しすぎて、本体のワークが落ちてきたから強化をします。開発人員がこれまでワークと女子で半々だったから、それをワーク8、カジュアル2に変更します」
というものである。
そのほかにも、ワークで防寒アウターを作り過ぎ・仕入れすぎて過剰在庫になって苦しんだこと、猛暑による夏の長期化で9月・10月が閑散期になってしまったこと、気候区分を変更して夏を7カ月間にすること、など盛りだくさんな内容である。リリースは何せ、用紙5枚にも渡る長大さである。
これを受けて各メディアが報道したのだが、概ね「カジュアルへの反省 原点のワーク強化」という論調である。
ただ、このリリースを全文読むと単純に「ワーク強化」とは言い切れない。なぜなら、カジュアル業態であるワークマンカラーズの出店も積極的に行うと書かれてある。
店名を女子から男性客も集客しやすい「WorkmanColors」に改名します。25年の Workman Colors 新店は地方/路面店/フランチャイズで40店の出店が決まっています。25年5月には100店を超えて、7年半後には400店を達成します。
との一節がある。
各報道の論調のように決して、「ワーク再強化・カジュアル化反省」ではない。どちらかというと「ワーク再強化、カジュアルも出店強化」という二正面作戦宣言である。
二正面作戦は、軍事的には良しとはされない。戦力の分散につながるし、指揮官はマルチタスクを強いられるからだ。また、昔から「虻蜂取らず」とか「二兎追う者一兎をも得ず」とか言い慣わされている。
個人的にはここに懸念を持っている。
ただ、ワークマンに限らず、作業服業界各社が企業規模を成長させるとなると、カジュアル分野かアウトドア・スポーツ分野の客を取り込むしかない。
なぜなら、国内の作業服需要というのはだいたい需要量が決まっているからである。だから現状を遥かに超える企業規模拡大を目指すなら、カジュアル・アウトドア・スポーツ分野の客を取り込むしか方法が無い。そのため、ワークマンに限らず、多くの作業服アパレルが昔からカジュアル衣料を製造卸・販売してきた。かつて自重堂がディッキーズのチノパンをライセンス生産していた事例などはその典型である。
実際このリリースにも作業服市場の厳しさが触れられている。
最近は作業客の人口自体が減少しています。若者の建設業離れも顕著で、流入が少ないです。高年齢の作業者は気象条件の過酷化もあり、引退が急増しています。猛暑や腰痛が原因で辞める方が多いです。
との一節がある。
生産者人口自体が減少している上に、若者の現場離れも起きている。これは明らかに「コンクリートから人へ」という民主党政権時代の政策の失敗もそれを手伝っている。稼げない業界にわざわざ入ってくる若者は少ない。
そして、作業服はあくまでも仕事着として捉えている人が多いので、一人の人が購入する枚数が爆発的に伸びる事例は少ない。
作業服市場自体はある程度、天井が決まっているので、ワークマンが企業規模をさらに拡大させるのであれば、カジュアル業態を成長させるしか手は無い。そのためカラーズ業態は拡大せざるを得ない。これがワークマンの置かれている現状といえる。
余談だが、ワークマン自身で作業服業界の苦境を指摘しておきながら
本リリースで紹介する5種類の強靭化新製品の売上増加分だけで50億円になります。これらに酷暑用のファン付きウェアの25年新モデルの増産分10億円を加えると、猛暑対策品だけで60億円のワーク強靭化効果を達成します。
という強い自信を見せているが、その根拠は「機能性」「低価格」だとしている。ただ、その2点だけで自ら指摘した作業服業界でシェアをそこまで獲得できるのだろうかと当方は疑問を持っている。
さて、カジュアル業態についてだが、規模を拡大させるにおいてこれからフランチャイズを増やすことが先ほどの一節で明言されているが、これはかなり厳しいのではないかと見ている。増やすことは可能だろうが、弊害が大きくなると考えられる。
ワークマン女子の変遷については
女子店は製品開発要員をフルに投入して「専売製品化」(以前は既存店との共通品が多かった)を進めた結果、今後は主力である路面店の大量出店期に入ります。女子店は第1段階で都会の大型モール内に40店を直営展開して大盛況でした。都会発のブランドイメージが本命の地方まで浸透したため、第2段階として24年秋は3万〜8万人の地方都市で路面出店の攻勢をかけました。全店が当社平均超えの繁盛店になりました。但し、人口が少ない地方ほど広い客層の取り込みが必要
と振り返っている。
しょっぱなの出店のうち、40店は直営だったということで、この40店については恐らくは店舗間移動などで在庫処分は効果的にできていたのではないかと思う。昨年11月に六地蔵店オープンの内見会にお邪魔したが、その際、六地蔵店はフランチャイズとのことだったので、40店以降はほとんどがフランチャイズではないかと考えられ、今後はフランチャイズで出店強化をすると、先述の箇所には書かれてある。
フランチャイズで出店規模拡大というのは本体のワークマンで成功をおさめた手法だが、カジュアル店でこれを適用させるのは難しいと考えられる。特にカジュアルは不良品番が大量に発生する可能性があるため、必ず在庫処分の方法を用意しておく必要がある。
在庫処分の主な手法は
1、店頭値下げ
2、店舗間移動
3、公式ネット通販での値下げ販売
4、アウトレット店での販売
5、在庫処分屋に投げ売りする
あたりだが、各店オーナーが自腹で商品を仕入れるフランチャイズ業態だと、1の店頭値下げ以外は極めてやりにくい。特に通常のチェーン店で多用されている2、3、4は実現しにくい。実現するためには途方もない労力と契約が必要になる。特にワークマンはアウトレット店は無いし、ネット通販は本社運営なので強化することはフランチャイズ店から反発を受ける。ワークマンのネット通販があまり拡大しない(できない)のはその理由からである。
さらに売れている店舗へ商品を店舗間移動させることは、各店の経営者が異なるので基本的には不可能である。
そして、カジュアルという業態は「ブーム」が起きて予想以上に売れることはあるが、逆に予想以上に売れないこともある。だからこそライトオンはピーク時の4分の1程度にまで縮小してしまっている。
ある程度需要量が決まっていて、売れ残っても来年、再来年でもお客に買ってもらえる作業服とはお客の購買動機が全く異なるのである。
ワークマンのかつての「同じ商品を2~3年かけて値下げせずに売り切れる」という強味はまさに作業服だから可能だった販売サイクルであり、それゆえにフランチャイズ店95%でも成り立っていたのである。
これをそのままワークマンカラーズに当てはめてしまうと大失敗する可能性は極めて高い。逆に成功率が高いなら今まで他のカジュアル業態がとっくにやっている。
カジュアル強化が必須だからこそ、カジュアル衣料の恐ろしさを熟知して、作業服フランチャイズ体制とは全く別の販売システムを構築する必要がある。カジュアルは「安い」「機能的」だけでは必ずしも売れる世界ではない。それだけで売れるなら自重堂のカジュアル服製造はとっくの昔に大成功している。
その辺りを虚心坦懐に見直すことをお勧めする。
comment
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偽ずんだもん より: 2025/02/07(金) 9:47 PM
記事通りに不良在庫を抱えてしまうリスクが、普通のワークマンFCオーナーと比べてカラーズFCオーナーは高そうで、在庫処分方法も店頭投げ売りか自分でネットオークションとかに出品しての投げ売りくらい。
流行りのデザイン商品も流行り時期を過ぎたら全く売れずに、500円以下に値下げしてもまだ残っている事なんて珍しくないです。
最後はショーイチなどの在庫処分屋に捨て値で買い取ってもらうとか。
(こんな事になったらFCオーナーは本部を激しく逆恨みしそうですが)今後のワークマンは直営主体が一番良いと思います。
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さくらざか より: 2025/02/09(日) 11:29 AM
女性と子ども(それとメンズのユニクロのようなカジュアル路線も扱うなら)ワークマンカラーズに集約して小さな店舗ながらも直営でやるしかないと思います。
近隣のフランチャイズと共食いしないように以前から扱ってるアウトドや、キャンプ、スポーツ関連のアイテムはカラーズに置かないようにしないといけないですけどね・・・・
ファストリもユニクロとGUを隣同士で出店してるので一応は両者の棲み分けはできるかと思います。今は週末ともなると店内に2割ほどしか置いてないレディースのために、来店する女性で駐車場が埋め尽くされてたりしますからね・・・・
ワークマン最大の失敗は、ちょっとカジュアル的に使えるワークマンの製品が売れたからって、それで儲かると思ってそこに注力しちゃったことなんでしょうね。
私は、作業服はもうワークマンで買ってませんし、なんか細身の作業服ばかりになっちゃって駐車場狭いから、今後も行くこともないでしょう。作業服は駐車しやすいホームセンターで買います。ワークマンより他の商品も色々あるし。
日本の人口はあと20年以上は減り続けるの確定で、恐らくその後も子どもは増えずにどんどん減るばかりだろうから、昭和の昔のように拡大路線で成功するのは難しいんじゃないっすかね~