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南充浩 オフィシャルブログ

「映え」だけが強くてもビジネスは長続きしにくいという話

2025年1月21日 SNSについて 1

今年の大河ドラマ「べらぼう」が始まった。

人気が落ちていた吉原へ客を呼び込むためにプロモーションを工夫して、その後、一時期は江戸のメディア王になり上がる蔦屋重三郎の話である。

2話には平賀源内が登場したが、土用丑の日にウナギを食べるという習慣も、この平賀源内が考案したウナギ屋のためのプロモーションである。本来、ウナギの旬は冬であり、本来は夏に食べる物ではなかった。それゆえ、夏場にはウナギ屋の売上高が激減していたのだが、それを解消するためにウナギ屋の依頼を受けて平賀源内が考案したのが、土用の丑の日にウナギを食べましょうというキャンペーンだった。

 

現在では土用丑としてすっかり夏の風物詩として定着しているウナギだが、土用丑キャンペーンが行われる直前と平賀源内によるキャンペーン直後では、当時のウナギという商品そのものが大きく変わったのかというと変わっていない。品質も変わっていない。変わったのは宣伝手法・キャンペーン手法だけである。

このことから、いかに「宣伝」「キャンペーン」「プロモーション」が重要なのかということが分かる。

ただし、宣伝・キャンペーンだけが巧みで、商品やサービスはイマイチという物が世の中には今も昔も多々ある。その場合、その商品・サービスの寿命は往々にして短命に終わるから、結局のところは商品・サービスも重要、宣伝・キャンペーン・プロモーションも重要という当たり前のことに落ち着くのだが。

 

 

この「宣伝」「キャンペーン」「プロモーション」の一環として捉えられるのが、現代のSNSにおける「映える」「バズる」だろう。

特にプロモーションの最有力手段として各種SNSは必要不可欠なものとなっているが、逆に過度にSNSを重視しすぎると「映える」「バズる」ことが最優先課題となってしまい、肝心の商品やサービス、需要量の想定、ビジネスモデルの確立、などがおろそかになってしまい、羊頭狗肉という評判が立ち、商売としては短命に終わりやすい。評判が立たないまでも客は静かに離れてしまい、商売が成り立たなくなる。

 

そんな事例は国内のインフルエンサーブランドやポッと出のDtoCブランドには掃いて捨てるほどあるのだが、中国のこれもその事例の一つと言えるだろう。

有力書店が相次ぎ閉店、「中国映え書店」の夕暮れ

西安蔦屋書店が、2024年10月に閉店した。21年3月のオープン当時は「中国で最も美しい書店」の一つと称賛され、大きな話題を呼んだものの、わずか3年半で幕を閉じることとなった。この閉店は、中国の書店業界が直面する苦境を象徴する出来事であると同時に、“映え”を武器に成長してきた大型商業施設のビジネスモデルが、転換期を迎えていることを示唆している。

とのことだ。

奇しくもプロモーションの達人、江戸のメディア王から名前を取った蔦屋書店の「映え」ビジネスがなぜ中国で短命の終わったのかは以下にまとめられている。

10年代に中国で巻き起こったのが、いわゆる“映え書店”ブームである。13年の「鐘書閣」を皮切りに、14年に「言几又」、15年には台湾の「誠品書店」が上陸するなど、斬新なデザインを売りにした大型書店チェーンが次々と誕生した。20年に中国初進出を果たした蔦屋書店は、このブームの最後尾に位置しながらも、日本での知名度を背景に大きな注目を集めた。これらの新興書店チェーンが支持を集めた最大の要因は、圧倒的な“映え”度だ。映画「ハリー・ポッター」の世界観をほうふつとさせるヨーロピアンテイスト、中国の伝統的な建築様式を取り入れたデザイン、近未来的なSFの世界を体現した空間など、まさに「美しすぎる書店」が中国各地に出現。「網紅打卡」(SNS映えするスポット)として、若者を中心に絶大な人気を博した。

ただ、この“映え書店”ブームには、当初から根本的な課題が内在していた。人々は“映え”る写真を撮るために書店を訪れるものの、肝心の書籍の売り上げは伸び悩んでいたのだ。では、どのようにして収益を確保するのか?そこで打ち出されたのが、「書店+X」という戦略だった。「書店+X」とは、“映え”をフックに集客し、書籍以外の収益源を確保するビジネスモデルである。具体的には、カフェやレストランなどの飲食スペース、自習室、楽器などのカルチャースクールを併設するほか、大型商業施設がテナントとして“映え書店”を誘致し、集客の目玉とするケースも増えた。そもそも、中国のショッピングモールはデザイン性の高さを競い合ってきた歴史がある。“映え書店”は、その延長線上にある存在として受け入れられていった。

この「書店+X」戦略は、本当に持続可能なビジネスモデルだったのだろうか?

“映え”を目的とした来店は、せいぜい1~2回で飽きられてしまうのが常だ。

 

とある。

まず、背景としては中国の経済状態が、20年以降続けられたゼロコロナ政策の失敗によって相当に悪化していることは外せない要因だろう。

それを踏まえた上でも、やはり「映え」を強く意識しただけの書店ビジネスは長続きしないと見るべきだろう。

大型書店という業態の中では蔦屋書店は内装や配置は美しいが、国内の場合だと他の大型書店よりも書籍の配置がわかりにくいと感じる。あと、別に当方は買わない本を何時間も椅子に座って読みたいとも思わない。そのため、当方は蔦屋書店の開店内覧会には参加するが、書籍購入で利用したことが無い。それならジュンク堂の方がよほど使いやすい。もしくは紀伊國屋書店や文教堂の方が使い勝手が良い。梅田のルクアに蔦屋書店がオープンした際の内覧会に参加したが、冊数は45万冊という説明だったが、他のベテラン流通記者は「大型書店の中では少ない方」と評していたことを鮮明に覚えている。

 

おまけに扱っている「本」という商品は、ジュンク堂、紀伊國屋、文教堂、旭屋どころか、街の小さな書店とも変わらないわけだから、ああいうオシャレ空間が好きという人以外は、蔦屋書店を積極的に利用する人は少ない。

これは中国とて同様だろう。映え客以外は「本という商品そのもの」が欲しいわけだから、それが手に入れば、買い場はオシャレ空間でなくとも別に構わない。

結局は、商品自体は他店と全く同じで、映えだけが異なるというビジネスモデルは3年程度の持続が限界だったと見るべきではないかと思う。

ちなみに当方は今後も蔦屋書店を使うことは無い。ジュンク堂・紀伊國屋・文教堂・旭屋・丸善があれば十分である。

 

 

翻って繊維・アパレル業界はどうか。映え・バズもたしかに重要だが、それのみにかまけていて商品やサービスが大したことがないというブランドは珍しくない。しかし決して長続きしない。3年~5年で終わるのが常である。10年続けばそれは特異な才能があったと見るべきだろう。

当方のSNS上でも映えとかバズをやたらと気にしているブランドを見かけるが、商品やサービス内容もそれと同じくらい熱心に高めてもらいたいと思いながら生暖かく眺めている今日この頃である。

 

 

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 comment
  • どこにでもいるおじさん より: 2025/01/21(火) 12:23 PM

    食べ物は誰が買ってもわりと同じ『映え』になるのがデカいですね
    映えがダメというわけではなく、何事もフリーライドせず違いを理解して適用させないとアカンですね

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