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南充浩 オフィシャルブログ

今年を振り返る~川上大手企業の繊維撤退・売却が進んでおり今後その流れはますます強まるだろう

2024年12月27日 企業研究 0

さて、販売ではない多くの企業が今日で仕事納めだろう。

当方には納めるほどの仕事なんて無いが、仕事納めとしたい。

さて、年末ということで多くのメディアや識者が今年を振り返っている。当方には振り返るほどの大したことなど一切起きていないが、印象的だった業界ニュースについて振り返ってみたいと思う。

 

 

一口に「繊維・アパレル業界」と言っても川上・川中・川下で全く性格が異なる。また業務内容や商品知識も異なる。川上から川下まですべてに通暁している業界人は存在しない。もちろん、当方とて同様でいまだに日々学ぶことばかりである。

その中でも比較的、当方は川上・川中に近い取材が多いのでその分野においての印象的だった事案を振り返ってみる。

ネット通販やそれに付随するアパレル企業、ファッションブランドの振り返りはこちらが参考になるだろう。

2024年のファッション業界振り返り -気になったニュースを総括してみた

この分野において当方の知見は無いに等しいが、概ね同意見である。

 

 

さて、川上で印象的だったのは

1、三菱商事ファッションがワールド傘下に 商社OEMを取り巻く事業環境を象徴 | 繊研新聞

2、大阪の繊維大手「ユニチカ」祖業の繊維事業から撤退を正式発表 | NHK | 小売業

この2つである。

 

どちらも川上の超大手企業においては、「繊維は儲かりにくい」産業になったということである。もちろんその傾向は90年代後半以降ずっと続いてきたわけだが、いよいよそれが2024年に顕在化したと捉えるべきだろう。

別にここ5年間やそこらで急激に悪化したわけではない。ジワジワと悪化して、ついに2024年に支え切れなくなったと見るべきだろう。

 

まず、三菱商事ファッションがワールドに買収された件について見てみよう。

三菱商事ファッション(MCF)は、三菱商事が保有する全株式をワールドへ譲渡し、25年2月28日付でワールドの100%子会社となる。三菱商事の傘下から外れるため社名変更も行う。譲渡価額は93億2500万円。MCFは今年5月、良品計画に無印良品向け衣料製品販売事業の権利業務を譲渡。良品計画は、OEM(相手先ブランドによる生産)供給を担ってきたMCFの機能を自社に取り込むことで、企画・生産・販売までの仕組みの内製化を進展させた。この間のMCFの動向の背景には、商社OEMビジネスを取り巻く環境の変化と厳しさがある。

とある。

三菱商事ファッションがワールドに買収されたわけだが、ちょっと変わっているのが、実質的に「分割買収」されたという点である。

記事にもあるように、今年5月に無印良品担当部門を良品計画に売却している。その残りが今回ワールドに買収されたということになる。

商社には総合商社と専門商社が存在し、三菱商事は総合商社の中でも超大手である。どれくらい超大手かというと24年3月期の連結決算売上高は19兆5676億円である。

通常の繊維・アパレル業界の決算とはケタが2桁くらい違っている。

三菱商事は様々な物を扱っており、エネルギーや資源と言った分野も手掛けている。そうした分野に比べると、衣料品のOEM事業というのは、売り上げ規模も利益額も格段に小さい。小さい割には手間暇がかかる。そして、国内向けアパレルのOEM事業というのはどんどん利益率が悪くなっている。

平たくいえば、こんな儲けも少ない割にめんどくさい事業は売却してしまえという話である。

三菱商事としてはそれ以外の分野の方が設けやすいという判断を下したことになる。

 

次にユニチカの繊維撤退である。

大手繊維メーカーの「ユニチカ」は、赤字が続いていた祖業の繊維事業から、撤退することを正式に発表しました。

これに伴って主力銀行などがおよそ430億円の債権放棄に応じる見通しです。

大阪に本社がある「ユニチカ」は、1889年に「尼崎紡績」として創業したあと、主力メーカーの一角として、化学繊維の輸出などを手がけ、日本の繊維産業の近代化や戦後の高度経済成長を支えてきました。

発表によりますと、衣料品向けなどの繊維事業は、近年は中国メーカーなどとの競争の激化で赤字が続いていたことから、事業から撤退することを決めました。

とのことである。

ユニチカの場合も同様で、繊維事業は儲けが少ないどころか赤字続きなので会社再建のために、不採算部門として切り捨てるというわけである。

ちなみにユニチカの24年3月期連結決算は売上高が1183億4100万円(0・3%増)である。繊維事業のほかに高分子事業、機能資材事業があり、今後はこの2事業だけで再建を目指すという決意表明といえる。

 

 

外野からの個人的感想としては両社ともに歴史ある繊維事業が無くなることに対して多少の感傷はあるものの、企業としては儲けが少ない、儲からない事業から撤退する・切り捨てるというのは至極当たり前の決定である。そして、川上の繊維・衣料品製造というのは、これら大手企業からすると全く旨味の無い産業になったということがわかる。

分野は少し異なるが、以前にグンゼの決算をご紹介したことがある。祖業は肌着・靴下などのアパレルメーカーで、売上高は約1400億円くらいで、今でもアパレル事業が売上高の半分前後を占めている。しかし、営業利益額はアパレル事業は低く、グンゼの営業利益額を支えているのは機能ソリューション事業とメディカル事業である。

社全体としては営業利益が稼げているため、祖業のアパレル事業は温存されるが、もし、仮に今後ユニチカのように企業全体の赤字が継続すれば、恐らく真っ先に祖業のアパレル事業(肌着・靴下)を切り捨てるという決断が下されるだろう。

 

 

「繊維は儲かる」と鼻息の荒い人も業界内にはおられるが、もちろん儲かっている企業もある。しかし、その数は少なく、大多数は儲かりにくい企業が業界内にはひしめいている。さらにいうと、三菱商事やユニチカ、グンゼなどの大手企業はどんどんと繊維事業が儲かりにくくなっている。

繊維専門商社やアパレル事業のみの企業であれば、儲かりにくいからと言って繊維・衣料品から撤退するわけには行かないが、繊維・衣料品以外の事業部があってそれが稼げているなら、儲かりにくい繊維・衣料品事業は切り捨てられるのが当たり前である。そして、2025年以降、大手や超大手がそういう決断を下すというケースはますます増えるだろう。

極端な言い方をすれば、繊維・衣料品は「小さく儲けられる」産業になったということではないかと思う。大手や超大手で繊維・衣料品以外の好調な事業部を持っている企業は今後どんどんそちらに全集中することになるだろう。

 

 

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