フーディーは元々若者向けの衣料品ではなかったという話
2024年12月10日 トレンド 0
今、パーカーが燃えている。とは言ってもこの手の炎上なんてどうせ後1か月もすれば、みんな忘れて違うことで炎上エンジョイすることになる程度の事でしかない。
40歳以上のオジサンがパーカを着るのはどうなのか?
と20代後半に差し掛かったそう若くはない女性が言ったとか言わないとか、そういう話である。
ただ、パーカ、もしくはパーカーと言っても商品デザインは様々ある。
前開きのアウターとして着用する布帛のパーカ。例えばマウンテンパーカとかフード付きダウンジャケットとかである。
もう一つはいわゆる「スエット素材(裏毛、裏起毛)」と「ダンボールニット」の物である。これも2種類あって前開きと頭被り(プルオーバー)である。
ここで揶揄されたのは、完全な推測でしかないが、恐らくはプルオーバータイプのスエットパーカではないかと思われる。(件の発言にはデザインまで言及されていなかったので)
プルオーバータイプのスエットパーカは現在の業界やファッションメディアでは「フーディー」と呼ばれている。この呼び変えはだいたい2010年代後半から始まったと記憶している。
呼び変えが始まった当初は「また、業界お得意の呼び変えによるイメージチェンジかよ」と邪推したものだが、調べてみると、欧米では「フーディー」と呼ぶのが普通だと知って、正式名称に改められただけなのだということを知ったわけである。スパッツという誤用がレギンスに正されたようなものといえる。
とりあえず今回はフーディーということで話を進めるが、件の女性に限らず、フーディーは若い人が着る服だというイメージを持っている人は恐らく少なくないのではないかと思っている。
だが、歴史を調べてみるとフーディーは若い人のために開発されて、普及されたものでは無いということがわかる。
いわゆる「裏毛」素材が開発されたのは、スポーツ用途として1920年代だとされている。日本でいうところの「トレーナー(正式名称 スエットシャツ)」の誕生である。
フードを付けたフーディーも恐らく近い年代に開発されたと考えられるのだが、1930年代になると肉体労働者向けの作業着として普及したとされている。
ということは、この時点でフーディーは現場で働く若者だけではなく現場で働くオジサンたちにも愛用されいたということになるので、件の女性の認識は根本から間違っているといえる。
ただ、その後、1970年代からアメリカのロック歌手などが愛用したり、1976年上映の「ロッキー」でスタローンのトレーニング衣装として着用したりしたことから、若者向け衣料品の一つという認識が始まったのではないかと個人的には推測する。
それと前後して、アメリカのアイビーファッションにフーディーや前開きのパーカが取り入れられたことも「若者イメージ」を加速させる大きな要因となったのではないかとも考えられる。
日本でも80年代・90年代前半の大学生がフーディーを愛用するようになり、32年前にピチピチのイケメン大学生だった当方(嘘)とその友人もフーディーを愛用していた。
この辺りで日本国内における「若者向けイメージ」は定着したのではないかと思う。
ただ、当方の記憶では2000年前半からフーディーはあまりマス売場では見られなくなり、一時期はほとんど姿を消していた。
マス向け売り場に大々的に復活するのは2010年代半ば以降のことになるだろう。
約10年間強、フーディーがマス向け売り場から絶滅した理由はわからない。ただ、当時のピチピチタイトブームとは相性が悪かったのかなとは思っている。
そしてビッグシルエットの復活とともにマス向け売り場にも復活を果たし、今となっては老若男女を問わず広く着用されるアイテムとなっている。
幅広い層に支持されている理由は様々あるだろうが、
1、コーディネイトがラク
2、ブルゾンやコートの首筋を皮脂汚れから守る
という2点があるのではないかと思っている。
最近はメッキリ寒くなって中綿やダウンアウターが欠かせないが、今ほど寒くない時期だとブルゾン無しのスタイルがほとんどである。丸首のトレーナーを1枚で着用するのは何となく物足りない。中にシャツか外にアウターを重ねたくなる。しかし、重ねると暑い。
一方、フーディーはフードという装飾品がある結果、1枚で着ても何となくさまになる。丸首トレーナーよりははるかにさまになる。
そういう意味で「コーディネイトがラク」なのである。
次に、現在のように寒くなると上からブルゾンやコートを着るが、フーディーの上から着用すると襟に皮脂汚れが付きにくい。丸首だと襟の首筋は汚れの首輪がくっきりと付く。
そしてブルゾンやコートを家庭洗濯することは極めて心理的ハードルが高い。そんなわけで当方も54歳だが、ブルゾンやコートのインナーとしてフーディーを着用することが増えている。フーディーを着用しない場合は、襟付きのシャツを着るか、タートルネックかモックネックを着る。丸首のむき出しの首筋に直接ブルゾンやコートを触れさせることは絶対に無い。
以上の2点から考えるとフーディーは非常に「利便性が高い衣料品」だといえ、利便性が高ければ支持される確率も高くなりやすいのは当然ではないかと思う。
さて、若者イメージが強いフーディーだが、実際にかつて愛用していた世代は現在、40~60代になっている。だから今の40代~60代がフーディーを着るのは若い頃に来ていた服を今も着ているということに過ぎない。
この行動に対して奇異に思われる方もおられるかもしれないが、フーディーに限らず、現在の日本人は服装のエイジレス化がどんどん進んでいる。例えば、以前にも書いたが、この時期になると各種ダウンジャケットを年寄りも若者も着用している。また、ナイキのエアナンタラに代表されるハイテクスニーカー類を年寄りも若者も履いている。
我々世代が幼いころの祖父母は一発で理解できる「年寄りらしい服装」をしていたが、今、そんな服装をしている年寄りはほとんどいない。ダウンジャケットを着てハイテクスニーカーを履いている。合理的に考えると軽くて暖かいダウンジャケットは年寄りにこそ最適だろうと思われるし、クッション性が高いハイテクスニーカーも足腰が弱っている年寄りにこそ最適だろうと思われ、それゆえに年寄りもそれらを愛用するようになったのだろうと思う。
欧米社会に住んだことはないが、インバウンド客を見ていたりすると、欧米人のカジュアルは割とエイジレスであ若者と年寄りがほぼ同じ服装をしている。(体型は全然違うがw)
それを考慮すると、日本も明らかに欧米寄りのエイジレスな服装の社会に向かっているといえ、フーディーもその一つだろうと思われる。
中高年男性のフーディーを槍玉にあげるのは、フーディーの出自からしても的外れだし、なぜフーディーだけを取り上げるのかも意味がわからない。だったらダウンジャケットやハイテクスニーカーにはなぜ何も言わないのかということになる。なんならスキニージーンズを穿いている年寄りさえ少なからず存在するがそれは気にならないのだろうか。
まあ、元々が炎上商法の人のようなので、今回の炎上もいつものやり口ということなのだろうが、フーディーの幅広い層の着用は、日本人の服装のエイジレス化が進み欧米諸国に近づいているということを明確化できたのではないかと思う。