
中高価格帯のレディース専門店の売れ筋は「非ウールのニット」という衝撃
2024年11月28日 売り場探訪 2
先日、LCC会という地方の婦人服専門店各社による任意団体の例会(情報交換会)を御厚意によって聴講させていただいた。
個店から数十店規模の各社が、この日は7社集まっての情報交換会だった。現在の加盟社数は10数社らしく、発足してから50年以上が経過しているとのことである。
地方の婦人服専門店だから、当然、低価格品は扱っておらず中価格帯から高価格帯の商品を中心に扱っており、必然的にそこそこの収入のある人が顧客になっている店ばかりである。
いわゆる業界メディアに毎日のように登場するような有名ブランドはあまり扱っておらず、業界内で言われる「専門店ブランド」を扱っている。
メディアが毎日のように取り上げるファーストリテイリング、しまむら、アダストリア、ワールド、オンワード、海外ラグジュアリーだけがアパレル業界ではない。こうした地方専門店やそれに商品を卸すメーカーやOEM業者がいて業界が成り立っているという点を改めて認識させられた次第である。むしろ、メディアに頻繁に取り上げられるような有名企業以外の企業数の方が圧倒的に多いというの実状である。
例会ではいろいろな意見や情報が共有され、当方も非常に勉強になったので、お誘いいただいたメンバーには感謝しかない。
今回はその中から一つ紹介したい。
先述した通り、取扱い商品は中価格帯から高価格帯に位置する物ばかりで、例えばセーター類だと最低でも1万円台前半である。
当然、客層は中間層から上となり、年齢層も高めである。平たく言えば、そこそこ金を持っている中高年(老人含む)女性である。
業界ではそこそこ金を持っている人は高品質品を望んでいると言われ、メディアもだいたいそのように報道する。ただ「衣料品の高品質」というのは、定義が難しい。
高価格品の場合、「上質な素材」がそれを指す場合が多い。(もちろん素材以外の縫製やら副資材やらも重要になる)
その上質な素材というのは、いわゆる天然繊維であり、それが希少性の高い物を指すことが多いという体感がある。
「ナンタラウールの〇番手の糸をどうのこうのして、昔ながらのナンタラ機を使って織った(または編んだ)高品質な素材」という具合だ。
そういう「高品質な素材」を使った衣料品を求めるとされている。
しかし、この会で出てきた意見は「売れ筋は非ウールのニット」だった。
非ウールというのは、いわゆるウール以外の糸で編まれたニット(セーター類)で、とりわけナイロン・レーヨンのセーター類が好調なのだという。
そしてナイロン・レーヨンニットが売れている理由が
1、家庭洗濯しやすい
2、保管に気を使わなくても虫に食われない
3、秋に買った物を春先にも再び着られる
4、暑すぎない
という4点に集約されており、実際に店頭でもそのように接客すると好調に売れているそうで、参加していた店の中には「ウールニットは全く仕入れずに、ナイロン・レーヨンニットだけを仕入れたが好調に動いている」というところもあったほどだ。
これには個人的に非常に驚いた。
というのも、原材料費を含むすべてのコスト増で、2020年以降、低価格ゾーンではウールニットはほとんど見られなくなった。24年秋現在だとユニクロと無印良品くらいだろうか。ジーユーなんかは完全に合繊ニットだけに切り替わっている。
だが、業界やメディアの通説では「そこそこにカネを持っている人は高品質な『本物』を求める傾向がある」とされているわけだから、当方としてはこのゾーンではウールやカシミヤのニットが強く求められいるのではないかと想像していたからだ。
それが、ウールやカシミヤは排して、ナイロンレーヨンニットだけに切り替えたところ非常に売れ行きが良いということは、中高価格帯を買うような中高年女性ですら、「手間のかかる上質天然素材」よりは「メンテナンスがラクで機能的な合繊素材」を選ぶ比率が高まっているということになる。
そして、その傾向は機能性素材が席巻する低価格ゾーンと同様の傾向にある。
もちろん、この会のメンバーの意見が絶対的に正しく、業界全てがそうなっているとは言わないが、「手間のかかる上質な天然素材」を強く求める人の数というのは、確実に減少しているといえるだろう。
「手間のかかる上質な天然素材」を求める人は決してゼロではないし、今後もゼロにはならないということは間違いない。ただ、そこそこに金銭的余裕のある中高年顧客といえども必ずしもそれだけを求めているわけではないし、暖冬傾向と相まって「メンテナンスがラクな機能的合繊素材」を求める比率は毎年着実に高まっているといえる。
そして、一度、快適さ・楽さ・利便性の高さを体感した人間は収入の多寡にかかわらず、そちらを求めるようになる。それは「安くない衣料品」に対しても同じということである。
極端な例でいえば、ストレッチデニムのスキニージーンズを体験してしまった今の人たちが、もう一度、分厚い綿100%のヘビーオンスデニム生地で作ったスリムジーンズを穿きたいと思うかというと、恐らくは90%以上の人が拒否するだろう。それと同じではないか。
中価格帯から高価格帯製品を供給しているメーカーやブランド、ひいてはメディアは、「高品質品の定義」について考え直してみる必要があるのではないかと強く感じた次第である。
comment
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お気楽ニャンコ より: 2024/11/29(金) 10:33 AM
最近増えているように感じる肌弱いピーポーの存在もあるように感じます
僅か数%であっても、肌着等に使われたウールに対しとにかく『チクチクする』と低評価が必ずと言って良いほど見受けられます
獣毛関連は往々にしてその点のクレームが多い気がします
チクチクに関しては化繊にするか高額になっても良いならラクダの肌着にするかだと思います
私も高級ウールもしくはカシミア等はほとんど買わなくなりポーラフリース等のアウトドアブランドが出す軽くてイージーケアなアイテムばかり購入するようになりました
とは言えテック素材もやたら高機能を謳っていてもテイジンのソロテックスのように価格の割に、イマイチ効果が体感出来なかった素材感もあって…
軽くて暖かいそしてイージーケア
これは寒さがこたえる中年には大変ありがたいのです
このお話、様々な要因があるかと思われるが、LCC会の小売業の方々の差別化戦略の一つなのでは?
地方の富裕層の女性に限らず、お金持ちでも百貨店、専門店、ユニクロなどを買い回りをしているだろうし
どのチャネルで何を買うか?を決めてると思われ、店の使い分けをしているだけで
決して、高級ウール素材を買わなくなってる訳でもないのでは?
ちょっとしたお出かけにはロロ・ピアーナのカシミヤニットかもしれないし。
インポートブランドを扱う専門店でない限り、ネームバリューのない商品を筆者のいう
「ナンタラウールの〇番手の糸をどうのこうのして、昔ながらのナンタラ機を使って織った(または編んだ)高品質な素材」とセールストークで熱く語ったところで
お客側はその店(チャネル)にはそうゆうものを求めていないだけなのかもしれず
そうゆうのはハイグレードな店で買ってるのかもしれない。
セーターと言えば高級ウール素材という概念を捨て(諦め)て目新しさ、使いやすさを訴求し
手軽なニットに切り替えてみたらうまくいってるということなのでは?
昔と違ってファッションの傾向として冬はアイリッシュセーターやフィッシャーマンズセーターが1枚あればってこともなく
ダウンの下には肩の凝らない薄く軽いニットで充分ということなのかもしれないと私は思うのだけど。