国内生地産地を活況にできる特効薬は受注が増えること
2024年11月26日 産地 0
23年5月に新型コロナ感染症が5類に移ったことによって、コロナ自粛が終わった。
その結果、24年は多くの業界イベントも復活ないしは誕生することとなった。
その一つが今秋に集中的に各地で開催された「産地フェス」だといえる。繊研新聞とWWDで特集が組まれていたので、メディアとしてもかなり大々的に取り上げている。
《次世代が拓く産地の未来①》フェスで連携、「開かれた産地」へ | 繊研新聞
今年秋、全国の繊維産地で工場見学などの産地フェスが相次いだ。担い手は30~40代の次世代や後継ぎが中心。どの産地も廃業、撤退、高齢化、人手不足などの厳しい環境の中、産地内で連携し活性化を目指す新しい局面を迎えている。
とのことで、まとめた表を記事中から引用させていただく。
生地の生産効率のために集積しており、同業者はライバルとなる。
独自のノウハウやレシピを知られないように、どうしても「縦割り」「閉鎖的」にならざるをえなかった。「本当のことを言わないのが商売だった。工場を見せるなんてもってのほか」と、テキスタイルメーカーの経営者は話す。
「国内の繊維産業が盛んだった頃はそれで成り立っていた」とも振り返る。ただ、今はかつてのような旺盛な需要は無く、産地全体で一定の生産規模を維持するために協力しなくてはならなくなってきた。賃加工だけしていればいいという時代でもなく、自販や製品事業に取り組む企業も増えてきた。
とのことで、国内縫製工場の苦境も伝えられるが、同時に国内生地産地も衰勢となっており、これまでのような姿勢では立ち行かなくなってきた産地企業も多いことから、新しい動きを模索した結果が今回の産地フェスラッシュにつながったといえる。
今回取り上げられた「産地フェス」以外でも同業者の有志による任意グループなんていうのも2010年代後半くらいから各産地でポツポツと見られるようになり、例えば、児島地区を中心とした洗い加工・染色整理加工業の集まりである「倉敷染め」なんかもその一つといえる。
記事中にもあるように国内産地は
産地は戦後の旺盛な需要に応えるため、紡績、撚糸、織布、染色加工など工程ごとに細分化し、分業による生産効率化で発展してきた。大規模な生産ロットが必要な染色整理加工と、数量をまとめる複数の織布企業が集積、産地が成立していった。
というスタイルで確立されており、メディアでの報道は得てして織布工場や編み生地工場に偏重しがちだが、以前からも書いているように、紡績・撚糸・染色・整理加工という工程ごとの独資工場が産地内に点在して一つの生産ユニットとなっている。
国内産地の生地工場だけが残ったとしても、撚糸・染色・整理加工と言った工程の工場が消えれば、生地工場もっ物作りはできなくなる。現に整理加工は他産地に依頼しているという産地も少なからず出てきた。
さて、活性化を目的とした新しい「産地フェス」だが、国内生地産地を存続させるために必要なのは生地製造の注文量が増えることである。
どんな綺麗事を並べたとて、生地製造の注文量が増えないことには国内生地産地の衰退は止まらない。もちろん、産地内には個々には受注量を増やしている工場はあるだろうが、産地全体を潤すほどの圧倒的な受注量増が無ければ、産地フェスをいくら力説しても無意味である。
産地や生地製造といった工程は、繊研新聞や繊維ニュースのような業界紙にとってはかつての支援者であり、現在の読者層でもある。また、ある程度(出稿金額は別として)の広告スポンサーでもある。
WWDも某個人記者の趣味なのかそれなりに生地工場や国内生地産地についての記事掲載は少なからずある。
以上のような背景や歴史から業界メディアは基本的には国内産地の存続、あるいは業績の復活を望んでいる、後押ししていることは間違いない。国内生地産地を応援していないと公言できる業界メディアは一つとしてないだろうというのが当方の見方である。
当方とて、顔見知りの社長さんも多いので、現在はどの産地企業とも業務上何のカラミもないが草葉の陰からひっそりとは応援している。(まあ、心の中で応援しているだけである)
でこれらの国内産地応援というスタンスからすると、各メディアがSDGs(笑)の観点からこちらも無駄に力を入れている「古着賞賛・リユース賞賛」報道や「新しい物を作らないことが素晴らしい」報道はスタンスが矛盾するため両立できないと思って生暖かく眺めている。
もちろん、産地企業の中でも染色工場なんかは、別の染める物が糸や反物でなくても構わないわけだから、古着の染め替えやリユース品の染め替えを新しい業務として行っている場合もある。
しかし、織布工場や編地工場は新しい生地を製造できなくなれば倒産してしまう。要は生地工場は新しい生地を作って販売することしか存続ができない。そしてその製造・販売量は多ければ多いほど生地工場は潤って、ひいては他の工程工場も潤う。
小売業は売れる物なら何を売ってもよいので、新しい服が売れなくなったのなら古着を売れば存続はできる。製品問屋も同様である。
しかし、繰り返すが国内産地の中核である生地工場は新しい生地を作って売らないことには存続ができなくなる。
メディアとしてはSDGs(笑)動向の事実を報道する必要もあるし、国内産地の動きを事実として報道する必要もある。ストレートニュースとしてはどちらも報道すべきである。だが、どちらも同様に持ち上げ賞賛し、世論を誘導するということは矛盾しており両立は不可能だということを認識すべきではないか。別にメディアは必ずしも中立である必要も無く、それこそ産地寄りメディア、SDGs(笑)寄りメディアとスタンスを明確にしても全く構わないだろう。だが、中立のふりをして両方を賞賛し、それをもって業界をリードするということは全く不可能なので、どちらに加担するかということを各業界メディアは明確化すべきだと当方は考えている。