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南充浩 オフィシャルブログ

合繊素材が増えて色数展開が絞り込まれた低価格ブランドの利便性の高さ

2024年11月15日 商品比較 0

一時期、「匿名性の高い服が欲しい」みたいな洋服好きの発信を見ることが少なからずあったが、最近は見かけない。まあ、わざわざ「匿名性の高い服」なんて物を買いたがること自体がマス層とはだいぶとかけ離れた嗜好だとは思う。

昨年か一昨年あたりから、すっかりと色数が減って黒・グレー・オリーブの3色展開アイテムがやたらと増えたジーユーだが「面白味」は無くなったものの、匿名性は格段に高くなっており、例えば、黒無地の合繊スタンドカラーブルゾンなんかは特別コラボ品でない限りは一見では見分けにくい。すっかり匿名性が高くなってしまったと言え、匿名性の高い服が欲しければ、今のジーユー商品でよいのではないかと思っている。

 

2021年以降の円安基調と原材料費の高騰が進んだことによって、いつの間にか、多くのマスブランドでポリエステルやナイロンといった合繊素材に置き換わっており、ウールやダウンの使用はかなり減ってきている。ウールやダウンを大々的に使用しているのは、百貨店向けブランドとそれ以上のラグジュアリー系がほとんどだろう。綿花価格はある程度落ち着いているようで、各社ともに綿素材は使用しているが、それ以外だとジーユーはすっかり機能中綿とポリエステル、ナイロン、アクリル素材アイテムばかりになってしまった。

ユニクロとてプレミアムラムウールとメリノ、カシミヤと1万円台半ば以降でのダウンアウターは継続しているが、1万円未満はほぼ機能中綿アウターに切り替わっているし、他のセーター類はウール配合率が極端に低いか合繊100%になってしまっている。

ネット通販で買い方を継続的に研究しているアーバンリサーチ、アダストリアも同様の傾向にある。

 

 

30年間業界での仕事に一応携わってきた人間としてはウール素材やダウンが減ったことに対して一抹の寂しさは感じる。繊維業界では長らく、ウール素材やダウン、それ以外の天然素材への信仰というものがあり、それらを目の当たりにしてきて年を重ねてきた当方にも薄っすらとした信仰が今も残っている。

しかし、今年は11月も異常高温であるため、ウールセーターやダウンアウターを着用できない。また、11年前に離婚してから炊事・掃除・洗濯を自分でやるようになってからは、手の込んだ希少性のある高額と思われる天然素材よりも現在の低価格合繊素材服の方が洗濯や保管に便利であるということを痛感するようになった。そのため、一抹の寂しさはあるものの、日常生活を考えると実は現在の服の方が便利だと強く感じている。

 

 

元来、日常作業や業務上の作業に対応した服としては、ワーキングユニフォーム(作業着)というジャンルが存在していて、確かに低価格で機能的ではあるが、デザインやシルエット、色柄は二の次という物だった。業務として着用するのは仕方がないとしても、それをデイリーカジュアルや他の仕事用、お出かけ着として着用することは難しかった。そんな服装で過ごしていたら「仕事の帰りですか?」と尋ねられるのがオチである。

しかし、ワーキングユニフォームのデザインや色柄もデイリーカジュアル寄りになってきているし、それを除いたとしても合繊素材が増えた低価格カジュアルは洗濯や保管という観点でははるかに扱いやすく、怪我の功名なのか、日常作業に適した物となっている。

これで80年代~2000年頃までのGMSの自主企画カジュアル服のようなダサいデザインや色柄なら、見向きもされなかっただろうが、ジーユーやユニクロに限らずどの低価格ブランドでも、一見したときのデザインや色柄はそんなにダサくなくなっている。特に色柄は販売効率を高めるために「鉄板」に絞られる傾向が強まっているので、これも怪我の功名だろう。

かくして、ジーユーに限らず合繊素材を主軸として「鉄板色柄」に絞り込んだ匿名性の高い低価格ブランド品が普及するわけである。

 

 

そうなると、日常の家事や作業もこなす人にとっては、なまじ高級でめんどくさい素材を使用した服よりこちらの方が利便性が高いということになる。

特に男女ともに独身世帯が増え続けている現状はそのように感じる人が多いのではないかと思う。

 

 

今は定年退職されたが、以前は瀧定大阪に勤務されていた先輩に話を伺ったことがある。

 

「若い頃にボーナスでうきうきしながら、30万円くらいのイタリアの高級ウール使用スーツを買ったことがあった。2~3日続けて着用して勤務していたらそれだけで袖口が擦り切れたり、膝が出たりした。ああいう服というのは1日着たら休ませないとだめになる。サラリーマンが2日とか3日間連続着用するような物ではない。メイドがいるような金持ちの人が、5着くらい買いそろえてローテーションで毎日1着ずつ着用するような生活スタイルにしか適さない」とのことだった。

正直「めんどくせー服だな。それなら青山商事あたりの3万円のスーツを3日間着続けて勤務している方がよほど楽チンだわ」と感じた。

それでも2000年代前半までは青山もアオキもはるやまもダサいオッサン向けスーツしか売っていなかったが、2000年代半ば以降はシルエットもスッキリしており普通に着用できる。

 

いささかニュアンスは異なるが、山本晴邦さんが先日アップしたブログの根底は当方と同じなのではないかと思っている。

いいもの。 | ulcloworks

売れていくにはやはり客観的にみて利他の要素がある『いいもの』をきちんと発信していくことが大事なんじゃないかなって思う。

 

結局何が言いたいのかというと、

1、怪我の功名で合繊使用率が高まり色数が絞り込まれたことで低価格ブランドの匿名性が高まった

2、それによって利便性も高まった

3、職業を持った独身世帯が増え続ける状況ではそれらの衣料品はさらに重宝されやすい

という3点であり、今後、手のかかるめんどくさい素材を使った高級ブランドを好む少数な富裕層と、今の使い勝手の良い割安ブランドの方が便利だと考える大多数のマス層はますます乖離して行くのではないかと思えてくる。当方はもちろん後者に属しているし、少数の富裕層のような生活スタイルは実現できないし、したいとも思わない。

 

 

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