生地工場だけが残っても国内産地で生地は製造できないという話
2024年11月5日 製造加工業 0
一般的に「繊維の国内産地」といえば、織り・編みともに「生地工場」がクローズアップされる。断続的に8年間ファッション専門学校で非常勤講師をさせてもらった経験で言うと、ほとんどの生徒は「産地=生地工場」というイメージしか持っていない。
この傾向は恐らく、一般・業界向け問わずメディアでもほぼ同じではないかと思う。かく言う当方とて、業界紙記者時代は産地=生地工場だという認識がほとんどを占めていた。当方がいた業界紙は産地系に強い先輩記者が多かったので、生地工場以外の染色・整理加工や撚糸、洗い加工場などの存在も教えてもらったものの、ざっくりとした各工程をある程度(全部ではない)覚えるのには時間がかかった。業界紙記者でも産地担当以外は産地=生地工場としか思っていない人は多いのではないだろうか。
近年は、繊維製造業に焦点を当てたイベントや展示会、販売会などが行われる回数が増えたが、そこでクローズアップされているのは体感的には99%は生地工場だと感じる。
必然的に、国内の繊維製造業に興味を持っている業界外の人も「産地=生地工場」というイメージしか持たないだろうと推測される。
JFW推進機構 古茂田博事務局長に聞く新素材総合展 日本産地の底力を見せる | 繊研新聞 (senken.co.jp)
日本ファッション・ウィーク推進機構(JFW推進機構)は来年から新たな総合素材展「東京テキスタイルスコープ」(TTS)を始める。年2回開くプレミアム・テキスタイル・ジャパン(PTJ)と年1回のJFWジャパン・クリエーション(JFW-JC)を再編し、発展させる。産地の物作りに焦点を当て、次世代を担う若手の雇用創出にも取り組む。
とのことで、新たな総合素材展「東京テキスタイルスコープ(TTS)」を開始する。
この手の総合素材展や産地素材展も何度か訪問させてもらったことがあるが、展示されているのは99%は生地である。必然的に出展者は生地工場だったり、生地の産元だったりする。
その結果、産地=生地工場のイメージがさらに強いものとなりやすいことは否めない。
こうした取り組みや展示会を否定する気は全く無いし、意義のあることだと思っている。
だが、生地工場のイメージが強くなればなるほど、当事者以外の人たちは「生地工場さえ残っていれば産地は存続する」と考えやすくなる。
しかしながら、実際のところは生地工場だけが残っても国内の生地生産は立ち行かなくなる。これは以前から何度も書いてきているように、染色整理加工、撚糸、洗い加工などが揃って初めて生地生産が可能になる。
生地工場の存続も重要だが、それ以外の工程の工場が年々減っている。少し以前に北陸の合繊産地の見附染工の倒産をご紹介したが、コメントをいただいたように近隣の染色整理加工場に発注するか、遠く離れた愛知界隈の尾州産地に発注して何とかしのいでいる合繊生地工場がほとんどである。
当面の間はそれで何とかやりくりしたところで、近隣の染色整理加工場や尾州の染色整理加工場が倒産・廃業すればどうするのだろうか?
後継者問題というのはどの工場にも時間差はあるものの平等に訪れる。死なない人間はいないのである。
記事中では
日本の繊維産業の未来に思いを巡らせたとき、若い人の雇用が深刻な課題だと見ています。全体で就業人口が減っている中、若い人が繊維産業に魅力を感じ、就職したいと思えるか。業界で活躍している将来有望な人が目標を持ち、力を発揮してきらっと輝く場や一緒に物作りしていく取り組みが重要になってきていると感じます。
産地の優れた製品を見てもらったり、学校と連携して産地から提供してもらう素材を使った作品制作と発表を行うなどの企画をTTSで計画しています。学生が企業や産地、職人と出合い、繊維産業で働きたいと思える場面を今後TTSで作れれば。一つの企業、産地ではなかなかできないことを私たちがサポートし、若い人に積極的にアプローチしていきたい。
とある。
工員の後継者として若い人の雇用を促進しようという話だが、現状の打ち出しや他の取り組みから類推すると、若い人が集まるのは「生地工場」に対してだけだろう。何せ、産地=生地工場というイメージが定着しているからだ。恐らく、少しでも予備知識をもって染色整理加工や撚糸、洗い加工に就職したいという若者はほとんどいないだろう。何せその存在自体を知らないのだから。知られていないのは存在しないのも同然なのである。
まあ、実際、出来上がった生地を展示することは難しくないが、染色整理加工や洗い加工、撚糸などの工程を展示するのは難しいしから、どうしても生地工場が製造した生地を展示するという手法になることはいたしかたない。
当方に名案があるわけではないが、全てのイベントやメディアは何か工夫を凝らした方が良いだろう。生地工場だけが残ったところで、生地は完成しないのだから、それ以外の工程も発信し後継者(工場、経営ともに)を確保できることが望ましい。でないと、生地工場だけは残ったが産地で生地は製造できないという笑えない未来が実現してしまう可能性はありえるだろう。