ワールドによるライトオンの買収劇は「独自のジーンズ村」の終焉を意味する
2024年10月10日 企業研究 3
ライトオンがワールドに買収されたのだが、金融機関からの資金調達が困難に陥っていたライトオンからすると存続できることになるので、非常にメリットがあったといえる。もちろん、ライトオン内部にはデメリットを被る人もおられるのだろうが。
しかし、その一方でワールド側のメリットというのは見えにくい。買収したとて、現在のワールドが展開するブランドとはシナジー効果は見込みにくいし、ライトオンに限らずジーンズカジュアル専門店チェーンという業態自体が大幅に成長する可能性は限りなく低い。
買収したのはよいけれど、業績はさっぱり上向かず、数年後には解散させるという事態も十分に想定しうる。
ワールドのメリットについてはこんな記事が掲載された。
W&Dインベストメントデザインがライトオンを子会社化 事業再建進め、上場は維持 | 繊研新聞 (senken.co.jp)
公開買い付けの完了後、ワールドグループ常務執行役員の大峯伊索氏が、代表取締役社長執行役員に就任する。「再建できれば大きな実績になる。ロードサイドの販路が手薄なワールドにメリットがある」(大峯氏)としている。
とのことで、「企業再生業務」という視点に立つなら、ライトオンという低迷が続く企業を黒字転換させたというのは大きな実績になり、今後、同様の案件も取りやすくなる。
また、ワールドという企業は、ロードサイド路面店やGMS販路には弱く、一方のライトオンはロードサイド路面店、GMSへのテナント出店がメイン販路なので、弱い販路を補強できるというメリットもたしかにある。
仮にライトオン自体の業績が今後も低迷し続けたとしてもロードサイド路面店、GMSテナントの運営ノウハウや現状の情報を入手できることはメリットといえるだろう。
なお、今回の公開買い付けの価格設定は110円である。ところが、発表があった10月8日のライトオンの株価は305円前後で推移しており、大幅なディスカウント販売となる。
「取引金融機関から単独での事業継続は困難との見解を示され(記事中より引用)」、実質的には存続不能に陥ったライトオンという企業の投げ売りバーゲンセールだったといえる。
それにしても今回の一件は、「いわゆるジーンズ業界」が完全に一般アパレルへの組み込みが完了したということを意味するのではないかと思う。
以前にも書いたように、ジーンズの企画・製造、ジーンズ小売店というのは、長らく総合アパレルにはなかなか参入できない分野だった。ワールドやオンワード、その他の大手総合アパレルが展開するブランドには長らくジーンズは存在しなかった。エドウイン、リーバイス、ラングラー、ボブソン、ビッグジョンと同等のジーンズを企画・製造するノウハウを大手総合アパレルは持ち合わせていなったし、販売も手掛けていなかった。ジーンズ業界も大手総合アパレルとは一線を画した存在だった。
それが徐々に変わり始めたのは、2000年ごろ以降のことになる。
この辺りから、大手セレクトショップへのナショナルブランドジーンズの入荷やコラボ商品、大手総合アパレルブランドとのコラボ商品などが次々と発表された。
ただ、当時の大手ジーンズメーカーからすると個々のブランドとの取引額というのは小さかったようで、当時のボブソンの担当者に質問したところ「取引金額は小さくて、当社の主要販路ではない」との答えが返ってきたことを今も覚えている。
彼らからすると、100億円を越えるような自社の売り上げ規模を支えるのは、年間何十万本も販売しているジーンズカジュアル専門店だという認識だった。そしてその当時は極めて当たり前の見方だったといえる。
だが、その後も徐々に一般アパレルや大手セレクトショップとジーンズ業界との垣根は低くなる一方で、2005年ごろから盛り上がった高額な欧米インポートジーンズブームによって、一層の拍車がかかったと感じた。
大手総合アパレルや大手セレクトショップの取り扱うズボン類というのは、当時、定価1万円台半ばから後半くらいが主要価格帯だったが、ナショナルブランドのジーンズはビンテージレプリカは別として通常ラインだと8900~9800円くらいがメインで、価格的に釣り合わないという状態だった。強いて例えるなら、ノースフェイスのダウンジャケットの中にタイオンのダウンジャケットを混ぜて売るようなイメージである。
しかし、欧米インポートジーンズの店頭販売価格は当時、安くても1万9800円、高い物だと3万円台だったから、大手総合アパレルやセレクトショップ、百貨店もMD的にも扱いやすかった。
そしてこれ以降はブランド名は別としてジーンズという商品が総合アパレルの直営店やセレクトショップ、デザイナーブランドにも並ぶのが当たり前という状態となり、今に至る。
ジーンズカジュアル専門店チェーンとしては業界1位を独走し続けてきたライトオンが、実質的に存続不能になるまで売り上げ規模が縮小(ピーク時から約65%減)し、そして大手総合アパレルのワールドの傘下になるというのは、2000年以降のジーンズというアイテムが一般アパレルに呑み込まれていく様の完結型だと感じられてならない。業界二位のマックハウスの業績も縮む一方で回復する見込みも甚だ薄い。戦後長らく「独自のジーンズ村」を形成してきたジーンズというアイテムが、様々ある衣料品の一分野として完全に取り込まれてしまったということだろう。
comment
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ミナミさん的節約主義者 より: 2024/10/15(火) 10:19 AM
それにしても、この記事は秀逸な内容です
ボトムス特にメンズの
80年代~2010年ごろの流れが
手に取るように分かります80年代はNBジーンズの最低価格が7980円程度で
イコールおしゃれボトムスの最低価格でしたちなみに日本リーバイスをはじめとして
おしゃれコッパン等の非デニム商品も
展開していました当時はおしゃれカジュアルボトムスの選択肢が
非常に少なく、Gパンメーカー以外となると
アウトドア用品や、メンクラが実際に勧めていた
こうきゅう作業着の下!ぐらいしかありませんでしたそして90年代のヴィンテージブーム
00年代のレディス主体の高価格帯ブーム
で各社無茶な単価を取るようになりますメンズボトムスの平均単価は
30年の間に下記のように上昇します8500円、13500円、20000円
しかし、それと同時に
Gパン以外の快適そこそこカッコ良いボトムスが
現れて、デニム全般に需要が無くなります87年に502(9800円)
00年にラングラー(上代14800円)
10年にRota(上代22000円)を履いていた私が23年現在履いているのは
AEONオリジナル(購入価格700円w)
30年超で、単価は10分の1になりました
しかし、履き心地や実用性は向上しています
そして、程よくダサくないこうした激安商品の設計や工程管理をしているのは
元NBジーンズメーカーの人たちですから
物が悪いはずがないんですよ少々抜けていたのは10年~の御本尊様
ライセンス物ぷちブームでしょうか?でも単価設定に無理があったので、
あっという間に飽きられた
感がありましたよね・・・ -
ミナミミツヒロ的けち生活者 より: 2024/10/18(金) 10:11 AM
https://minamimitsuhiro.info/archives/322.html#google_vignette
ミナミさんが10年以上前に書いた記事です
当時はエドウィンも健在でした厚手のデニム製品業界は
「失われた30年」をやっちゃったんですね・・・この記事の時点で行動を起こしていれば
違った結果になっただろうに・・・裏を返すと、この記事が書かれた2012年から
10年持ったという事は、
市場が自然に縮小する今の日本でも
安定した一定の売上があったという事ですだからこそ大ナタを振るうことが
出来なかったんだろうな・・・気をつけないと「明日のわが身」ですねぇ・・・
>戦後長らく「独自のジーンズ村」を形成してきた
そんなものがありました・ねぇ・・・
最盛期は80年代じゃないのかな?
当時はナショナルブランドの
ジーンズ・メーカーの製品だけで
上下アウター、インナーからベルトまで
すべて揃える事ができました
そして90年代になって
徐々にGパン特化の商品ラインナップ
になっていったような気がします
たま~にRight-onをのぞくと
今ではGパンメーカーの商品は
お店の奥にひっそりと安置された
各種Gパンのみのようですね
あとはネームのみどこかから借りてきた
商品が山盛り・・・
メンクラは90年代、ジーンズ専門店は00年代に
社会的な役割が終わっていたのでしょう・・・
00年頃だったかな?
ヴィンテージ風味高価格帯物が廃れてきて
こともあろうに百貨店内で
7割引の復刻ラングラーを買った記憶があります