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南充浩 オフィシャルブログ

卸売りの重要性と個人の力の限界

2024年10月7日 企業研究 0

業界的にはそこそこに知名度が高く、かつ当方も結構な面識があったインフルエンサー的な個人が2人おられた。どちらもオリジナルブランドを展開。一方は完全に個人を前面に打ち出した展開、もう一方は小規模アパレルとしての展開で、どちらもメンズカジュアル寄りのユニセックスだった。

残念なことに両方とも活動としては終わってしまった。一方は完全に終了、もう一方は存続はしているものの実質的に活動はほぼ休止している。

活動期間はどうだろうか、両方とも5年前後ではないかと思う。

両方ともに業界外のメディアにもそれなりの頻度で採りあげられていたにもかかわらず、短命に終わってしまった。

その原因はなんだろうか。個人的には現在掃いて捨てるほど存在する有象無象のインフルエンサーブランドにも共通する課題・問題があったと考えている。

 

 

 

1、卸売りが無かった

2、個人の企画力・興味に強く依存

3、資本として成長しなかった(できなかった)

 

ざっくりとこの3点ではないかと思う。

まず、どちらもいわゆるD2Cとしてのネット通販、クラファンがメイン販路で、卸売りは無かった。一方は端からそんな卸売りなんて考慮していなかったが、もう一方は初期には卸売りを強く模索していたにもかかわらずあまり卸売りは拡販できず、実質的にはほぼ皆無の状態のまま推移した。

これはどのD2Cブランドにも言えることだが「ブランド規模の拡大」という一点においては卸売りは想像されているよりも重要だといえる。

例えば、企業規模としては全く異なるが、ナイキとて同様の失敗をおかしており、軌道修正に迫られていることは各種メディアで報道されている通りである。

この記事が一例である。

ナイキ のD2C一辺倒戦略失敗から、D2Cブランドが得られる教訓は

ナイキ(Nike)は3年前に卸売りから撤退したが、より多くのブランドがパートナーとの販売のメリットを求めるなか、現在はこのモデルを再び受け入れている。

2023年12月には、50%以上のパートナーとの提携解消が在庫管理に悪影響を与えたことが明らかになったため、卸売パートナーシップに再投資することを示唆したのだ。

卸売はここ数カ月、小売業界で大きな復活を遂げている。たとえば、ワークウェアブランドのブラント(Brunt)は2月、23社のパートナーと提携し、卸売に参入した。

 

とある。

これはアメリカでのことだが、日本でも同様である。

大手SPAチェーン店のように大資本によって自力で出店をし続けられるのであれば、卸売りは必要ない。しかし、小資本のままで売上高を拡大するのはかなり難しいため、卸売りが必要不可欠となる。もしくは、大手資本の傘下になるか、である。

大手資本の傘下になるという点においては、クラシコムの傘下になったD2Cデザイナーズブランドの「フーフー」は賢明な選択だったといえる。

 

 

卸売りは直販に比べて利益率が低く旨味が少ないとはいえ、生産数量は増えるというメリットもある。また、自ブランドのことを知らない客層にも卸売り先の店舗がアプローチをしてくれる可能性もある。

直販の場合は、自ブランドに興味の無い人は立ち寄らないし、通販サイトにもアクセスしないが、卸売りの場合は興味の無い人にも商品を見てもらえる可能性は増える。

これまでは卸売りのデメリットばかりが強調されてきたが、ナイキの停滞を嚆矢としてメリットが見直されているといえる。

 

 

次に「個人の企画力・興味に強く依存」という点である。

先ほども挙げたフーフーや、30年近いお付き合いのあるスー・ヒライのように個人でありながら長年企画し続けられているデザイナーズブランドはあるが、それは多分どちらかというとある意味で特別な才能の持ち主だろうと思う。

通常の人間、当方も含めてだが、個人の企画力なんていうのは引き出しがそんなに多くはない。洋服の企画でいえば、年に2回オリジナルを企画(春夏と秋冬)するとして、6回~10回企画するとアイデアは枯渇すると推測される。枯渇しながらも職人的にバリエーション変化で継続できるノウハウがあれば別だが、得てしてインフルエンサー的な人というのは、職人的ではないから、自分が本当に面白いと思っている企画だけを出す。そうすると6回~10回でアイデアは枯渇し、本人の気持ちも満足してしまう。結果的に3~5年でブランド終了ということになる。

ちょうど、売上高の伸びも停滞しているから、余計に本人はブランドをやめるという選択をしやすくなる。

 

 

最後に資本として成長しなかったという点だが、これは上の2つの結果的に企業規模・ブランド規模として成長できなかったということになる。

逆に如実に売上高が増え続ければ、主宰する人のモチベーションはブンブンジャー並みに爆上げとなって、商品企画のアイデアは湧き出したかもしれない。

人間のメンタルなんてそんなもんである。

 

 

大手デザイナーズブランドなら複数人のアシスタントを抱えているから、メインデザイナーのアイデアや企画力が枯渇したところで何とでも続けられる。そう考えると、個人でありながら10年以上続けられるデザイナーはビジネス的に成功しているかどうかは別として特別な才能だといえる。

さらにいうと、ビジネス的に論評されるアパレル企業だが、例え小規模・零細といえども何十年間も企画し続けられる継続力というのは、システム的にももっと評価されるべきなのではないかと改めて感じている次第である。まさしく継続は力なりだといえる。

 

 

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