百貨店全体でも今上半期の衣料品売上高は19年比で減少しているという話
2024年10月2日 百貨店 0
百貨店を巡る報道というのは結構難しい環境にあると思っている。
もう少しややこしく言うと、百貨店の置かれている環境を専門外の人たちにもわかるように報道するのは結構難しいのではないかと感じる。
理由は
1、百貨店全体では不調で地方店の閉店・撤退が相次いでいる
2、都心大型旗艦店だけは過去最高売上高を更新し続けている
という2つの状況が並立しているからである。
だから、「伊勢丹新宿が過去最高売上高を更新」と単純にそれだけを報道すると「百貨店業界は絶好調」と受け取られかねないし、逆に「〇〇百貨店〇〇(地方の名前)店が閉店」と報道されると「百貨店業界は不振」と受け取られかねない。
だが、例えば、これをプロ野球で例えてみると理解しやすいのかもしれない。
今シーズンは西武ライオンズが絶不調で10月2日時点で49勝91敗で圧倒的最下位である。いまだに50勝に到達していないし、負け越し数は42もある。
しかし、この圧倒的最下位の西武ライオンズにも10勝を挙げているピッチャーがいる。このチーム成績でよく10勝もできたと感心するほかない。
百貨店業界はこういう状況である。業界としては西武ライオンズと同様に厳しい状況だが、中には10勝できるピッチャーもいる。この10勝できるピッチャーが都心大型旗艦店だということである。
百貨店の中で好調な都心大型旗艦店のうちで好調な部門は、恐らく食品、化粧品、特選(ラグジュアリー系)だろう。あとそこに外商が加わる店舗もあるだろう。名古屋松坂屋なんかは外商比率が高い。
衣料品は店舗によって好不調の差はあるだろうが、好調店でもそれほど大きく伸びていないのではないかと推測される。
こういう背景があって、前回書いたように池袋西武は、リニューアル後のメイン売り場を特選・食品・化粧品の3つに絞り込んだと推測される。
さて、先日掲載された記事に興味深い一節があったのでご紹介したい。
インフレと社会負担増に賃金上昇が追いつかず実質賃金が減少を続ける中、衣料消費が抑制されているからで、好調を続ける全国百貨店の24年上半期売上高19年比も、総額こそ100.7と上回ったものの衣料品は89.4と回復が鈍い。
とある。
まあ、これは公式発表されている数字を計算すれば導き出せるのだが、計算してくれていて手間が省けてありがたい。
24年上半期(6か月間)の売上高を19年と比べると、総額売上高はほんの少し微増(0・7%増)だが、衣料品だけを比較すると10・6%減に終わっているということになる。
衣料品売上高が10%以上も低減しているにもかかわらず、総額売上高が伸びているということは衣料品以外の部門の売上高が伸びているということに他ならない。
衣料品売上高の低下を補っているのが、恐らくは食品・化粧品・特選ではないかと考えられる。
もちろん、店舗ごとに好不調はあるだろうが、総じてラグジュアリーを除く衣料品は大きく伸びている店は少ないということになる。
さらにいうと、19年に比べると24年の衣料品の店頭販売価格は総じて上昇しているから、販売数量は10%どころではなく大きく減少している可能性が高い。
客単価は上がっているのに売上高が10%減少しているなら、販売数量は10%以上減少しているということになる。
ではその理由はなんだろうか。もちろん理由は一つではなくて様々あるだろう。記事がいうように可処分所得の減少(または伸び悩み)もあるだろうが、それだけではないだろう。
百貨店の衣料品売り場というのは所得に余裕があるとともに、ある程度のファッション好きが支えていると考えられてきた。所得に余裕が無くともファッション好きで、節約して気に入った1枚か2枚を百貨店で買うというファッション好きもおられるだろう。
個人的には、そういう「ファッション好き」の人の人数が減っている、もしくは衣料品への関心が薄れている人が増えたのではないかと考えている。
以前から、当方は加齢による精神的老化が進んでいるのか、衣料品への物欲が極度に薄れてしまっているが、そういう人が増えているのではないかと痛切に感じている。
以前にも書いたが、メルカリの取引品目の1位は10年前は衣料品だったのが、最近ではホビー品・エンタメになっている。メルカリだけで判断はしてはいけないが、いわゆるCtoCの市場では衣料品への需要は伸び悩み、それを上回っているのがホビー品・エンタメだということがわかる。
毎週・毎月日本全国の家電量販店全店舗で繰り広げられるホビー品の新商品争奪戦もそれを物語っている。コロナ禍を契機として転売ヤーが参入しなければ、今でもAmazonや楽天、ヨドバシカメラドットコムなどのネット通販で多くの人は買っていただろう。当方もそうだった。しかし、転売ヤーの高額出品と短時間での品切れによって、実店舗で並んで買った方が確実性が高いことから、今の行列ができるようになったわけである。そしてその消費行動は3年以上も続いている。
衣料品にはこういう争奪戦の話は少ない。あっても一時的なもので毎週・毎月のことではない。
そう考えるとマス層の衣料品への需要と関心が低下しており、百貨店の売上高にもそれが反映されていると考えた方が辻褄があう。
衣料品業界はマニアのようなコアな層に向けて特化して売るのか、それとも何とかして、大衆の需要や関心を拡大させるのか(手法はわからないが)、その二択を迫られているのではないかと思う。