夏物の販売期間を延長して奏功した百貨店
2024年9月10日 天候・気候 0
天気予報というのはなかなか的中しにくく、特に長期予報は外れることが珍しくない。
それほどに先の天候を予測するというのは、気象衛星などの科学技術をもってしても難しいということになる。8月末に台風が過ぎてから少し暑さが落ち着くかと思いきや、また先週後半から猛暑がぶり返している。この猛暑は水曜日で終わるようだが、それでも秋分の日までは最高気温30度越えが続くようなので、まだまだ夏服生活は終わらない。
今夏は、夏の長期化に対応して、夏服期間を長くとるMDに変更したブランドや売り場が増えた。
今後、気候変動で夏が短くなるとまたMDを変更せねばならないが、そうなるまでは夏を長めにとるMDが正解だろうと当方は考えている。
ざっくりとした概要では、百貨店やSPA型専門店、大手セレクトショップは夏を長くとるMDに変更したところが多く、大手スーパーは従来通りのMDを維持したままというのが多かったといえる。
そんな中、百貨店の具体的な今夏MDに関する方針がまとめられた記事が掲載された。
《どう作るどう売る》阪急阪神百貨店 執行役員 佃尚明さん 長い夏に対応しMDを再構築 | 繊研新聞 (senken.co.jp)
23年9月ごろから一度作り直すことと、長い夏に対応できるMDサイクルとして夏を2回足し算する計画を進めました。セールはどの時期が最適かと考えた結果、19日からにしました。7月の店頭売り上げはプロパーが前年同月比で25%増、セールが27%減、全体では10%増とイメージ通りに推移しました。
MDの多サイクル化に合意してくれたのは、151のうち95売り場。うち54売り場では、新たに盛夏物の投入がありました。足し算に対応してくれた売り場は総じてプロパーが売れています。これまでの阪急だったら、8月からプロパーに切り替えて秋物を先見せしようとするところですが、セールを続けてしっかりと売り切ろうとしています。8月もセール品は売れています。
とのことである。
以前にも書いたが、90年代後半から百貨店、ファッションビルの夏のバーゲンセールは、冬に比べると集客力が大幅に減った。
それこそ、80年代後半、当方が高校生だったころは夏休みシーズンとDCブランドブームが相まって、7月の夏のバーゲンセールでも徹夜で並ぶ若者が多数いたほどである。それに比べると90年代以降の集客力は大幅に衰え、2010年ごろからは「正月」という区切りがある冬のバーゲンと異なり、6月下旬からなし崩し的に夏のバーゲンが各施設で五月雨式に始まるようになり、いつからが正式な夏のバーゲンなのか分からないという状態が続いている。
特にファッションビル、ショッピングセンターは五月雨式の典型で、施設はだいたい6月20日ごろから夏のセールを開始し、テナントはバラバラにそれ以降始めるという感じである。
しかし、気温的なことでいうと、6月末や7月頭は梅雨真っ最中で、湿度は高いが気温はさほど高くない。何なら肌寒い日もあるくらいである。
となると、6月下旬から夏物衣料をバーゲンセールすることは気温には沿っていないということになる。
平年並みだと、関東から九州にかけて、だいたい7月中旬から25日ごろに梅雨明けする。夏物衣料を本格的に着用するのは梅雨明け以降ということになる。
体感気温に則して売るなら、9月までは夏物衣料を売るというのが正解になる。当方なんかは10月下旬まで半袖で暮らしているから9月でもまだ夏物衣料を買いたいほどである。
MDを変更するということは、生産側のスケジュールも昨年までと変更せざるを得ないため、工場にも負担がかかることは言うまでもない。
しかし、いくら「8月からは秋物衣料を着るのが先取りオシャレ」と叫んでみたところで、真夏日が続けば、よほどの変人でない限りは半袖の夏服を着続ける。
そうなると間接的に工場も業務が滞るから、まあ、売り場と一体になってMD変更に応じる方が得策だろう。
この記事で紹介されている阪急の婦人服フロアの場合、全体の3分の2の売り場がMD変更に理解を示し、全体の3分の1の売り場が8月に夏物新作を投入したということになる。理解を示した売り場のうちの半分が新作夏物を投入している。
今夏、特に売れ行きが通常では厳しいとされる8月に効果が出たので、来年夏はさらに多くの百貨店、専門店、セレクトショップが夏期間を長くとるMDに変更することになるだろう。
果たして、大手スーパーは相変わらず効果の無い従来型スケジュールを墨守するのだろうか。
ただ、気になるのは、今夏の初め頃からエルニーニョ現象が終わって、ラニーニャ現象が始まりつつある点である。ラニーニャ現象が始まると、夏涼しくて冬は寒いという気候になりやすいので、来夏が今夏同様に長い猛暑になるのかどうかはかなり不透明ということになる。
ようやく体感気温に沿った夏のMDに変更し、効果が出始めただけに来夏が涼しくなるのは、当方としては大いに歓迎したいが業界としては厳しい商況になると予測される。
各社はこれまで以上に気象情報を敏感にキャッチする必要があるだろう。