
大手スーパーの衣料品不振は気温変動に対応できていない商品投入計画も原因の一つ
2024年9月6日 天候・気候 0
猛暑日のピークは過ぎ、朝晩はかなり涼しくなってきたとはいえ、まだ暑くていわゆる秋服は当分着られそうにない。
当方は相変わらず半袖で過ごしているし、特にかしこまる場ではない限り半ズボンで過ごしている。
多くの人も同様で、繁華街やビジネス街を見ていてもまだまだ半袖スタイルの人が多い。恐らく、一部の店舗でしか9月も秋物はさほど動かないだろう。
もしくは、コラボ品や限定品くらいしか9月中には秋物は動かないだろうと思う。
かねてから、このブログでは、何度も「夏服を着る期間が延びている」「夏服を年間半分着ている」ということを書いてきたが、近年は当方ごときに言われるまでもなく、これまでのシーズンMDを変化させ、夏服を強化重視する店やブランドが増えた。百貨店でもその手の施策は進んでいる。
例年通りというか、例年を越えるというか、今年8月も猛暑が続いた。
百貨店が夏服強化、夏服の展開期間を伸ばすことで売上高が好転したことは以前にもご紹介した。上場しているSPA型専門店も8月は猛暑のおかげで夏物衣料が動いて前年増を達成したところが多い。
まとめ記事を引用すると例えば
専門店チェーン、セレクトショップの2024年8月度業績(速報値)は、軒並み数%〜2ケタ%の増収だった。台風による休業などのマイナス要因はあったものの、猛暑により夏物衣料の実需が高まり、業績をけん引した。
国内のユニクロ(既存店ベース)は前年同月比25.3%増。
しまむらは前年同月比5.5%増(既存店ベース)。Tシャツやブラウスなどの売れ筋商品の追加仕入が奏功した。行楽需要によりサンダルや帽子、アームカバーが好調だった。アダストリアは前年同月比5.7%(同)だった。
ざっとこんな具合だ。
ちなみにワークマンの8月度月次も
売上高 前年同月比 8・0%増
客数 同 4・3%増
客単価 同 3・6%増
と好調だった。
理由は
当月は、ワーク・カジュアルともに夏物衣料が売上を牽引したほか、アームカバー等の防暑小物も好調に推移しました。また、降雨の影響でレインウエアや防水シューズなどが大幅に伸長しました。
とのことで、夏物や防暑小物が好調だった。
こうなると、20~30年前までのように「8月のお盆を過ぎたら秋物を季節先取りで買う」なんていう消費者の数は年々減っていると考えられるし、そういう売り場作りでは支持されなくなっているということが分かる。
実際に、あの保守的な百貨店でさえ今夏は大幅に夏物の投入期間を延長して成果を出している。
今後、再び気候変動があるかもしれないが、2010年代からは日本の夏は長くて暑いのが標準となってしまったから、百貨店やSPA型専門店、一部のセレクトショップは近年その気候に対応した商品計画へと変更してきたことは極めて当たり前の施策といえる。
先日、某大手卸売型肌着メーカーから今夏の大手総合スーパー向けの商況をザックリと伺う機会があった。
このメーカーによると全国的に総合スーパーの今8月の商況は芳しくないところが多かったとのことで、ちょうど価格的にも競合するユニクロ、しまむら、ワークマン、アダストリアが好調だったのとは対照的といえる。
これは単純にこれらに客を取られているというだけではなく、大手スーパーの商品計画が現状に則していないという点も原因として挙げられるようだ。
90年代後半からだいたい7月の上旬に夏服バーゲンセールが始まり、夏物の追加投入は7月までに終了し、8月10日からお盆明けくらいからは秋物が投入されるという商品展開が業界全体としては一般的だった。
しかし、実際の気候は7月頭はまだ梅雨で実際はそこまで気温は高くない。だから夏物をバーゲンセールする必要が無い。そして何度も書いているように9月末までは確実に夏日が続き、それが近年は10月も夏日が続くようになっている。
そうなると、この商品投入計画では実需に沿っていないということになり、それがようやく変わりつつあるというのが今夏の状態で、変更して百貨店や専門店は奏功したわけである。
しかし、大手スーパー各社は従来型の商品投入計画を維持しているところが多く、8月になると夏服は追加補充されずに品薄になり、秋服が入ってくるが、高気温のためにその秋物が売れないという状態にある。しかも気温に最も売れ行きが左右される肌着・靴下・パジャマ類なら尚更である。
撤退閉店が相次ぐイトーヨーカドーのみならず、多くの大手スーパーで不振が伝えられている。好調なスーパーでも衣料品は苦戦していることが多い。
スーパーの衣料品不振の原因の一つには、気温に対応していない商品投入計画があるのではないだろうか。
元来、スーパーは総じて食品が強い。そしてその食品売り場を日々見ていると、気温に対応した打ち出しができている。気温に応じた野菜を揃えたり、気温に応じて嗜好品を増やしたり減らしたりしている。
食品でできていることがなぜ衣料品でできないのか不思議でならない。理屈は同じである。
そして保守的な百貨店でさえ、今夏は夏服販売期間を伸ばして効果を出している。極言すれば、今のスーパーの柔軟性の無さは百貨店以上だということになる。それでは売れなくなっても当然である。
ビジネスでの不振が長期化すれば、従来のやり方の何かを変更することは鉄則である。スーパー各社の不振・衣料品不振が報道されるようになってからゆうに10年以上が経過している。10年以上も不振が続いているのに商品の投入計画を買えないというのは、愚策の見本だろう。
ユニクロ、しまむら、ジーユー、ワークマン、ハニーズなどの低価格ブランドに衣料品客を奪われたと言われているが、取り返す努力の方向がスーパー各社は明後日の方向だったともいえる。現在のスーパー各社の衣料品不振は、百貨店以上に硬直した社内体制にも問題があるのではないだろうか。