
ラグジュアリーブランドの生産体制も決して身綺麗ではないという話
2024年7月12日 製造加工業 2
普段、低価格ブランドが製造コストや下請け工場の待遇について槍玉にあがることが多いが、ラグジュアリーブランドがこの手の報道をされることはあまりない。
あまりないが、今回は珍しく報道されたのでご紹介したい。
40万円のバッグを作るのにディオールはいくら払っていたか…イタリア当局が搾取的な製造業者を捜査 | Business Insider Japan
ミラノの検察当局は、LVMH傘下のディオール(Dior)がここ数カ月で利用した第三者のサプライヤーを捜査した。検察によるとこれらの企業は労働者を搾取してバッグを製造している。支払っているのは店頭価格のほんの一部だ。
ロイターが当局による調査文書を引用して報じたとことによると、ディオールがバッグの製造に対し業者に支払ったのは57ドル(約9200円)で、それを約2780ドル(約44万9100円)で販売していたという。皮革などの原材料にかかるコストは含まれていない。
とのことだ。
ディオールの場合、ここに原材料や副資材代が含まれていないので57ドルというのは、バッグ1個当たりに対する縫製工賃と見なすことができるのではないかと思う。
当方は皮革材料費に関して知見が無いので、ほんとにぼんやりとした推測しかできないのだが、恐らく原材料費は1個当たり高くても10万円は越えないだろうと思う。恐らく数万円くらいではないだろうか。
工賃57ドルをざっくり1万円とすると、工賃+原材料費+副資材代の総額は最高で10万円、高い確率で3万円~6万円の間という感じになるのではないかと個人的には推測する。
商売というのは「できるだけ安く仕入れて(作って)、できるだけ高く売る」というのが原理原則だから、5万円で作ったと思われる物を45万円で販売するというディオールの姿勢は高く評価されるべきだろうと思う。高く売るためにラグジュアリーブランド、スーパーブランドは高い販促費用を毎年支出している。
ただ、今回のこの記事の眼目は金額の問題ではなく、労働環境問題にあると考えられる。
同じく、ディオールの下請け工場の環境に言及している箇所があるので、引用する。
ディオールの関連部門は「請負業者の実際の労働条件や技術力をチェックするための適切な措置」を取っていなかったと検察の文書には記されているとロイターは伝えている。
3月から4月にかけて行われた捜査で当局は、労働者らが施設内に寝泊まりして、24時間体制でバッグを製造している証拠を掴んだとロイターは報じている。電力消費データも入手し、夜間や休日も稼働していることが分かったという。
下請け業者は中国企業だと検察は述べた。検察によると労働者の多くは中国から来ており、うち2人は不法滞在、7人が必要書類のないまま、労働を行っていたという。
調査によると、接着やブラッシングの機械からは安全装置が外され、より速く動かすことができるようにしていたという。
とのことである。
それにしても、ディオールの40万円のバッグが24時間・月間無休体制で製造されるというところがすごいと感じた。それくらい売れているということになる。
ディオールの販売力の高さ、ブランド力・ステイタス性の高さがうかがえる。
ただ、24時間・月間無休という製造体制は全く褒められたものではない。低価格グローバルブランドを非難する論調として「下請け工場工員が休む間もなく働かされている」というものがあるが、それを言うならディオールも全く同じということである。
一般的な日本人からすれば45万円もの高額品が24時間・月間無休体制で製造されていると知った方が、印象は悪いのではないだろうか。
さらにいただけないのは、この下請け工場は中国企業で、不法滞在者や必要書類のないままの中国人を使っていたという点と、安全装置が外されていたという点である。
不法滞在者や必要書類の無い者を使うのは給料を安く抑えるためだろうし、安全装置が外されているというのは、工員の安全に全く配慮していないという証左である。
よく低価格グローバルブランドが「工場内の安全性が保たれていない」と非難されているが、それはディオールという高級ブランドとて同じということになる。逆に粗利率が20%~40%もあるディオールの方が劣悪な対応だといえるだろう。
記事ではアルマーニにも言及しており
調査の手は、ジョルジオ・アルマーニ(Giorgio Armani)の請負業者にも及び、同社はサプライヤーの監督不行き届きで告発された。
アルマーニが請負業者に支払ったのは、バッグ1つにつき99ドル(約1万6000円)で、それが店頭では1900ドル(約30万6000円)以上で販売されているという文書をロイターは引用している。
とある。
恐らくはディオールと同様にアルマーニもここに原材料費・副資材代は含まれていないだろう。繰り返すが、金額については当方は特別に悪いとは思わない。むしろ「さすがはアルマーニ」とその販売力・ステイタス性・ブランド力の高さに感心してしまうだけである。
ただ、記事では下請け工場の職場環境には言及されていないのでその辺りは不明だが、あくまでも個人的にはディオールとさほど変わらないのではないかと思っている。
ディオールだけが特別に悪逆非道ということは考えにくい。
現に記事でも
検察当局によると、高級ブランド大手が労働規定に違反して高い利益を上げることが日常的に行われているという。
とされている。
それにしてもラグジュアリーブランド、スーパーブランドについてこの手の記事が出てくるのは珍しい。この手のブランドはフランス、イタリアの両国にとってはいわば「国策業界」であるから、これまでの成り行きや経緯や政策を見ていても結構、国家から保護されているという印象が強い。
にもかかわらず、こういう報道がしかも欧米から出てきたというのは、これまでと何か現地のムードが変わってきたのではないかと思う。この辺りは現地の情勢に詳しい方々に報道・解説いただきたいと強く願っている。
comment
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キム ゴンウ より: 2024/07/15(月) 12:02 PM
私 職業クソジジイですから
スーツを新調する年齢でもありませんし、ネクタイも同様です。
それでも式典にスタッフとして参加する仕事についていますから
紺のスーツするケースが多いです。そして紺のスーツでも彩りを加えたいものです
そこで 2ndストリートやらに行って ネクタイを探してみました
エミリオプッチのいかにもプッチらしい柄のを発見
お値段¥1500。うれしいね。
まぁクソジジイの自己満足ですからねと思いつつ当日着用すると
若い女性の同僚達からkimさんそのネクタイいいですね、おしゃれですねと
すごく褒められました 非常に嬉しい!!
もっとも私ではなくて プッチのデザインがすごいわけですが…
そんなわけで これ3000円の安っすーいシャツ屋で売ってる
安いネクタイなら こんな望外の体験はできません 間違いない
高級ブランドが支持されるかされないか トーシローの私には皆目わかりませんが
高級ブランドってなんか違うんだなと思った経験です
ハイブランドに関しては「堕落する高級ブランド」という本が2009年に出てWWDでも紹介された。
というか自分はWWDでこの本知った。たしか三浦さんが紹介してたんじゃないかなぁ。
小島健介がこの本出てからハイブランド批判をしだして流石意見変えるの早いと感心したの覚えてるw
南さんもハイブランドへの見解が深いので読んでるか読んだ人に話を聞いてるのだと推測する。
工場の批判は数年前グッチが中国人で作ってるのを大々的に報じられ日本でもテレ東が特集してた。
ゲストがジローラモでコメントしにくいだろと思ったら、結構真剣に事実を話し批判していてビックリ。
あのあとブランド側との関係どうなったんだろとか気になった。
他にもドルガバやプラダで中国で部品作ってタグだけイタリアで貼ってメードインイタリー完成!
とかこすいことは色々やってますな。
日本でハイブランドが育たないのはこの辺の狡猾さが足りないってのもあると思う。
まともに作ってるのはエルメスだけなんだけど、
最近裁判でバーキンだったか製造原価バラされて驚きの減価率でしたなw