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南充浩 オフィシャルブログ

ブランドの顧客は必ず高齢化するから若い世代の取り込みが不可欠という話

2024年6月13日 トレンド 3

54歳にもなると、社会的にも業界的にもかなりの年寄りということで昔の話を聞かれることも多い。

今年初めには某週刊誌から「石津健介さんのVANのことを教えてください」という取材申し込みがあった。当方は1970年生まれなのでVAN全盛期のころにはまだ物心はついていない。もちろん石津氏とも会ったことがない。そんなわけで「業界で通説として流布されていること以上は知りませんよ」ということを前置きして、業界の通説をいくつかお話させていただいた次第である。

VAN全盛期のころを生きた業界の先輩方に話を聞くと、それはそれは当時すごいブームだったという話である。しかし、そんなVANも倒産してしまい(経営手法も杜撰だったのではないかと思われる)、現在はそんなに知られていないし、当方も含めてそれ以下の世代から支持を受けているわけでもない。

 

80年代から90年代前半にかけてあれだけ熱狂されたDCブランドも倒産したり、買収されたり、企業規模を大幅縮小したりと、隆としたまま残っている方が少数派というのが現状である。

VANになると当時の支持者は鬼籍に入られた人も多いが、DCブランドなら当時の支持者は現在、当方と同年代か少し上程度なので、まだ存命の方の方が多い。

にもかかわらず、旧DCブランドに盛時の面影はない。

 

 

 

成功を収めたブランドや企業もその栄華はそんなに長続きしない。長くてもせいぜい15年くらいである。栄華に限りがあるのは、経済的環境の変化や世の中の風潮の変化など様々な理由があるが、その大きな要因の一つに、人間は必ず置いて死んで消え去るということが挙げられるだろう。

老いると肉体的にも精神的にも嗜好的にも変化が起きる。

例えば、中年太りで今までのサイズの服が入らなくなるとか、逆に老人痩せで今までのサイズの服では大きすぎるということにもなる。

精神的にも当方のように衣料品購買の意欲が若い頃に比べて薄れるということも少なからずある。

また嗜好も変わってくるし、容貌の変化(老化)によって若い頃と同じ服では似合わなくなるので、選択肢を変えるようになる。

加齢する顧客に合わせた商品を提案し続けているとブランドのテイストも当初とは変わってくる。これが俗にいう「ブランドの老化」ということになる。そしてこれはどんなブランドにも容易に起きる。

 

 

「アースミュージック&エコロジー」復調 20代23%の現状打破なるか

「アース」は設立から25年がたち、顧客の高齢化が進んでいた。

(中略)

23年9月の年代別買い上げ客数比率は、20代が23%で、40代〜60代が50%を占めていた。今後は20代〜30代の比率6%増を目指す。

 

とある。これはまさに「ブランドの老化」の典型的な見本だといえる。

 

 

 

当方世代からすると「アースミュージック&エコロジー」なんて新参ブランドという印象が強いことだと思われるが、ブランド設立から25年、一躍注目を集めたテレビCMの放送が2009年だったことを考えてもすでに15年が経過している。

2009年にアースを知ったという人が当時25歳だったとして、現在はもう40歳になっている。

40歳から50歳になってもいろんなことがあまり変わらないという人も少なからずいるが、25歳が40歳になるのはいろいろなことが大きく変わる。職場での立場も変わっているだろうし、出産を経験しているという人もいるだろう。また体力的には随分と衰えてしまったという人も少なからずいるだろう。

そうなると、衣料品への嗜好やニーズも変わってしまう。

 

 

アースはいつの間にかすっかりオバ中高年女性向けブランドになっていたというわけである。時間が経過するだけでもブランドは中高年化するものだが、それ以外にも今の日本では中高年化しやすい要因がある。71年~75年生まれの団塊ジュニア世代を中心としてその上下世代は人口が多い。それに対して今の20代は「団塊ジュニア世代+前後世代」よりも圧倒的に人口が少ない。ザックリとした感覚だと半分くらいしかいないのではないだろうか。

そうなると、自然と20代客数は減少せざるを得ない。

それも踏まえつつ、20~15年前にアースを買い始めて今も変わらず買い続けているという人は意外に減らず、そのまま年齢を重ねたということだろう。ある意味でブランドロイヤリティーを高めるという施策は成功したといえるが、新規客の取り込みは人口問題があるとはいえ、上手く行かなかったということになる。

この辺りの舵取りは実に難しいと感じる。逆に上手く行ったブランドの方が少ないだろう。

 

 

先日、セブンアイが通販大手のニッセンを売却したという報道があった。

「ニッセン売却」が象徴するセブン&アイEC構想の大失敗 カタログ通販に残された利用価値とは:小売・流通アナリストの視点(1/4 ページ) – ITmedia ビジネスオンライン

カタログ通販自体が苦戦傾向だったが、これをウェブへ振り替えようとしたところ、団塊世代顧客が中心だったため、さらに客離れを起こしたということが指摘されている。

この記事の中にこんな一節がある。

 団塊世代はECがお好みではなかったかもしれないが、これから高齢者になるバブル世代、団塊ジュニア世代はECが当たり前だ。少子高齢化を前提に、シニア向けのビジネスやマーケティングというのはよく聞くが、年代と世代を混同した認識を目の当たりにすることが少なくない。「高齢者」とは年代を意味するが、その時代により構成している世代が変わっていく。10年も経過すれば、その嗜好(しこう)は全く違うものとなる。「ゆく川の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず」なのである。

要するに、今の60代は10年後に70代の高齢層になる(個人的には60代も十分に高齢者だと思っているが)わけで、今の70代と10年後の70代ではその嗜好や生活スタイルは大きく異なる。

 

アースだって、今の最年長顧客層である60歳は10年後には70歳になっている。70歳になると体力的にも健康的にもまた大きく変わっており、嗜好も変わっているだろう。(変わらない人もいるだろうが)

そうなると、また新たな施策が必要になるということになる。

 

 

人間相手の商売がやっかいなのは、多数のファンを獲得してもそのファンはいずれ老いさらばえて死んでこの世から消え去ってしまうから、自社のファンもいずれは残らず消えるというところにある。

そのために常に若い客層を獲得しなければならないという宿命を背負っている。

その作業を思うと、無気力人間たる当方は、石を積み上げては鬼に崩されるという賽の河原しか連想できないため、一層の倦怠感と無力感を覚えてしまう。そんな今日この頃である。

 

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 comment
  • とおりすがりのオッサン より: 2024/06/13(木) 11:42 AM

    衣料品の販売って、こういう視点から見ると難しいんでしょうね。
    野球ファンとかだったら年取っても応援してるだろうから、あんま変わらなかったりするかもですが。

    で、総務省統計局の2023年の日本の人口ピラミッドからざっくり人数を見てみると、
    ・団塊Jr.前後の46~55歳:約1800万人
    ・20~29歳:約1250万人
    くらいでした。

    で、更に下の10~19歳が1100万人、0~9歳が900万人くらいになっちゃう感じですね。
    ざっくりなんで、プラマイ10%くらいはずれてると思いますが、ここ数年が特に激減してるようです。
    今後は加速度的に若者が減っていく未来しか見えないっすね。少子化対策とか何をやってももう無理w

    ホントに我々団塊ジュニア世代の年金がヤバい(←そこかよw)

  • ミナミミツヒロ的けち人間 より: 2024/06/13(木) 1:22 PM

    サラリーマン経済小説ぽい書きくちでいいなぁ
    ここにも高齢化の影がw

    コロス会社が分かりやすいのは、1つのスタイルを
    伴って流行って、流行りが廃れたら会社も傾いた点です

    裏を返すと、流行もスタイルも伴わない服を
    作っていれば、こうした波乗りをしなくても済む

    いうまでもなくウニクロGUがそうだし
    Honeysにもそういう所があると思います

    そういえばふぁっしょん文化人にもタレントにも
    なり損ねたコロスのセクハラマンはどうなりました?

    昨今のこの業界は、名前が廃れるとともに創業者が
    失踪状態になるところが少なくないですねぇ・・・

  • 読者 より: 2024/06/13(木) 1:50 PM

    アースが高齢化って驚いたが、データで冷静に言われるとそりゃそうだよな思う。

    普段自分おっさんなったなと嘆くことが私的には多いのだが、
    世の中も高齢化してるわけでそりゃそうだよなと。

    客観的に考えると現代ファッションのブランド戦略みたいなのも薄っぺらくて寿命は短いということなんでしょうな。
    やはり京都の老舗みたいな長期戦略老獪で嫌味なくらいなしたたかさがクレバーっていう
    つまらん結論が真実なんでしょうな。

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