国産品だからと言って無条件に神聖視されるべきではない
2014年11月4日 未分類 0
世間一般に「日本製は高品質」と信じられている。
筆者も概ね賛同するが、「すべての日本製」に当てはまるわけではない。
繊維製品では粗悪な国内製品というのもそれなりの割合で存在する。
とくに縫製という工程でいうなら、粗悪な国内縫製品というのもけっこうな割合で存在する。
ニット製品でも中国工場でないとできないというものもある。
日本人である筆者は日本製品がさらに注目されれば良いと常々考えているが、国産だから手放しで賞賛を浴びることはまた本質から外れているとも考えている。
無条件に神聖視されるべきではない。
そんなことを考えていたら、先日、こんな記事が東洋経済オンラインに掲載された。
「日本の伝統工芸を改革するイギリス金融マン
伝統と職人は、本当に守られるべきなのか?」
http://toyokeizai.net/articles/-/51177
イギリス金融マンが神社・仏閣の修復・施工企業の社長を継いだというお話なのだが、
主眼としては、この伝統工芸の大手企業はそれまで手抜き工事が多かったというところにある。
「職人の世界は聖地だと思っていました。しかし、自分が経営者として参画した時には、小西美術工芸は業界最大手にも関わらず、経営から品質までさまざまな問題がありました。だから、自分が必要とされたのだと思います。そして、自分が改革しようとした時には、特に年配の職人からものすごい反発がありました。国の予算がないから、業界が疲弊している。いい仕事をしても、でたらめな仕事をしても同じ給料をもらえるし、誰も見ていない。いい仕事をしても無駄だ、だから手抜きでいいという風潮もあったのです」
とある。
日本の縫製工場でもとんでもない不良品を縫製することがある。
某OEM会社を経由して国内工場で縫製したカジュアルジャケットのサンプル品だが、破れていたことがある。
OEM会社はお気楽に「とりあず両面テープで貼る?」なんてことを言っていたが、まあ、こういう事例も珍しくはない。
私たちは、無意識に伝統の老舗企業で手抜きなどあるわけないと考えてしまいがちです。日本の伝統工芸の職人と聞くと、どうしても意識が高く崇高なものと見てしまいます。もちろん、意識も技術も高い人は大勢いるのは事実でしょう。一方で、全部が全部そうだと決めつけるのは、間違っています。
とあり、まさしく伝統工芸にかかわらず繊維製品だって状況は同じである。
で、この記事は伝統工芸業界の問題点をさらに指摘する。
これは伝統工芸を保護・支援する政策という点からも、モラルハザードを生む可能性があることを示唆しています。支援する主体(文化庁など)が専門知識を有し、伝統工芸の価値を評価する明確な基準がなければ、伝統工芸をひとくくりにして、補助金を提供していくしかありません。
しかし、その結果、何とか新しい価値を作り出そうと努力している伝統工芸も、そうではなく単にフリーライドしている伝統工芸も、すべて支援の対象として一緒くたに含まれてしまう。それが本来、予算対効果が高い伝統工芸にきちんとした予算が行き渡らないという結果を生むことになるのです。
これって、日本の繊維製造業でも同じではないだろうか?
経産省による繊維製造業への支援事業、助成金はモラルハザードを起こしていないだろうか?
筆者の目にはフリーライドな製造業者も多数存在するように見える。
ここに、伝統工芸のお客様とはいったい誰なのか?という問いが生まれます。アトキンソンさんが言うとおり、もし伝統工芸とは現代社会で否定された技術であるとするならば、そこには一般のお客様はほとんどいません。
一般のお客様不在で、技術を残すことが目的化された場合、お客様は技術自体=職人であるという矛盾をはらむことになるのです。国の補助金などで保護・支援されている場合にはなおさらです。
そして、一度保護されることが決まってしまえば、一般のお客様がいないため、然るべき評価をされない、だから努力しなくなってしまう可能性があるのです。いずれにしても、何らかの評価軸を持たなければ、現場から努力するインセンティブが奪われてしまうことになります。
ここでの指摘も繊維製造業にも共通する問題ではないかと思える。
とくに「現代社会で否定された技術=伝統工芸」という視点から見るなら、着物に携わる産業にも当てはまるのではないか。
技術自体=職人=無条件の保護という図式が成り立ってはいないだろうか?
もちろん和装に限らず洋装に関する製造業にもこういう風潮はある。
この記事の最後は伝統工芸の後継者難についてまとめている。
「伝統工芸に興味を持つ若い後継者がいない、というのは幻想です。それは自分の立場を強くしようとしている年配の人が言っている言葉だと思います。やりたい若い人はいるのですが、予算が増えない中、寿命も延びて、現役が強いので、なかなか席が空かない。それと、業界として然るべき採用活動をしていない。この業界で幅広く、工夫して、採用求人を出しているのは私たちの会社だけだと思います。求人を出すと若い人の応募はかなりありますよ。それが事実なのです。後継者がいないのは本人たちの問題も大きいのではないでしょうか?」
とあるが、これも繊維製造業にも当てはまるのではないか。
毎回、なかなか考えさせられる問題提起を行っている連載である。
マザーハウスの女性社長には3,4年前に一度インタビュー取材をさせていただいたことがある。
この連載は同社の男性副社長の手による。
インタビューさせていただいた感想でいうと、さすがの熱意を感じさせていただいた。
またそのビジョンの提示も非凡なものがあると感じた。
しかし、製造業をいかにしてビジネス化するかという点はちょっとそのインタビュー内では見えにくかった印象もあった。
不幸にして副社長にはお会いしたことがないが、毎回の連載を拝読していると、物作りをビジネス化するという仕組み作りはこの副社長が構築しているのではないかと感じる。
彼こそがマザーハウスの頭脳といえるのではないか。
そんなわけで、次回も楽しみに待ちたいと思う。