大サイズでも衣料品の値段が変わらない話と半ズボンがあまり安くないという話
2023年7月4日 製造加工業 2
ファッション専門学校の改革案については様々な方が提言をされている。
ただ、全員の意見をそのまま反映することは「船頭多くして船山に上る」ことになりかねないので、どれを取り入れてどれを取り入れないのかという精査が必要になる。
個人的に生徒のもっと教えた方が良いのではないかと思う事案として「衣料品の製造コストの構造」を挙げたい。業界に携わっていない人はほとんど衣料品の製造コストの構造について知らない。もちろん、当方も知らなかった。そのため、「まともな」業界人からすれば意味不明でナンセンスな衣料品製造のコストがSNS上で日常茶飯事的に取りざたされている。
世間が思っているよりも製造コストが高いこともあるし、世間が思っているよりも安い製造コストもある。千差万別である。
例えば、先日、山本晴邦さんがアップしたブログである。
今回のタイトルは分かりやすい。要するにサイズ別に値段が変わらないのはなぜか?という話である。
Twitterでネタかもしれんけど、某ファストファッションチェーンバイトが中学生から質問された内容が目に入ってきた。SとLで値段一緒なのか?と、マックのポテト理論が服には採用されていないのか?と。
考えたこともなかったという意見もちらほらあったが、まぁ確かに、昔からそうだったから気にも止めなかったというのが実際のところだろう。
たしかに、飲食店でいうと、サイズが大きくなればその分値段は高くなる。ポテトしかり牛丼しかりピザしかりだ。牛丼大盛は牛丼並盛よりも高い。ポテトLサイズはMサイズよりも高い。
しかし、サイズごとに衣料品の値段が変わらないのは、いろいろな背景はあるものの、最も大きいのはこれだろう。
だってサイズで値段違ったら、文句言う人だっているでしょ。そういう人の方が、多いでしょ。
である。さらにいえば、我が国で既製服ビジネスがマス化してからすでに50年以上が経過している。それまでずっと変わらなかったものがいきなり変わると、これはかなりの反発を招くことになる。今更変更することはあり得ないだろう。ただし、製造コストはサイズ事に異なる。特に大きいサイズになればなるほど生地の用尺も増えるから製造コストは高くなる。
大手ジーンズメーカーのジーンズにはこの名残がある。メンズでいうと36インチくらいまでは値段は変わらないがそれ以上の大サイズは値段が高くなる。だから厳密ではないがサイズが大きくなった分高くなるという衣料品がゼロではない。
ただ冒頭の疑問通り、洋服だってサイズが違えば当然生地の使用量や縫製時間の長短が変わるので『コストはサイズごとに違う』が答えだ。
例えば150cm幅の生地だったら、全部150cmの幅の生地がくる。その決まった幅の中に大きさの違うパターンを入れていくわけだから、サイズによっては当然生地幅に収まらず縦に並べて〜なんてサイズも出てくる。
そうなればサイズによって要尺ってのが変わってくるので、要尺が増えれば生地コスト分価格は上昇するのが普通である。縫製時間云々ももちろん関係してくるが、サイズごとに価格が変わる大きな要因としてはやはり生地を使う量が変わるからというのがしっくりくるのではないか。
とあるのはその通りである。
だからと言って、SサイズとMサイズとLサイズはそれぞれ値段が変わりますと言っても、多くの消費者は納得しないだろう。だから、少なくともマスサイズであるS・M・Lサイズは同一値段で販売してきたのが衣料品だといえる。
一方、理由は全く同じだが、一般のマス層が思っているよりも安くなりにくいのが「半ズボン」である。
2011年のスーパークールビズ以降、成人男性の半ズボン姿が随分と市民権を得たが、数年前から成人男性の真夏の半ズボン姿が減った。特に10代後半から30代頭くらいの若い成人男性の半ズボン姿はランニングなどのスポーツ時以外ではほとんど見かけなくなった。
今年6月は、例年よりも暑さがマシだと感じていたが、下旬ごろからクーラー無しでは耐えがたい暑さになってきたのだが、それでも大阪市内の中心地を歩いてみると、半ズボン姿はオッサンかインバウンド外国人がほとんどで、日本人の若者の半ズボン姿はほとんどいない。
「若者の半ズボン離れ」については以前にもこのブログで採りあげたのでそちらを一読いただきたい。
今や、オッサン専用の夏服に成り下がった半ズボンだが、この半ズボンは世間の人が思っているよりも安くない。安い半ズボンが欲しい人はユニクロとジーユー、両方の値下げ品を狙うべきだろう。
世間一般からすれば、長ズボンが高くても納得できるだろうが、半ズボンがそれと同等の値段というのは納得できないという声も大きい。当方とて、高い半ズボンなんて買う気はさらさらない。
しかし、製造コストでいえば、半ズボンと長ズボンの差というのは生地の用尺くらいしかない。通常の長ズボンが用尺2メートルだとしたら、半ズボンの用尺は1メートルくらいだろう。1メートル700円の生地を使っていたとすると、製造コストは700円しか違わない。縫製工賃は原則的には長ズボンも半ズボンも変わらない。
となると、製造コストは700円しか違わないということになるため、世間一般の人たちが思っているよりも半ズボンの値段は安くなりにくいわけである。
そんなわけでこうした「製造コストの構造」というものを原理だけでも良いからファッション専門学校では生徒に徹底的に教えるべきではないかと思っている。
結局、いくらイキったブランドコンセプトを作ろうが、儲からなければブランドやショップを続けることはできないし、資金繰りが行き詰まれば事業継続もできない。
世の中は銭でっせ。ほんまに。
comment
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忍者猫 より: 2023/07/05(水) 10:31 PM
ミニスカートとロングスカートの値段が変わらないのがとても不思議でした。
半パンもそうですね。
工数としてはあんまりかわらなくて用尺だけ違う。
サイズによって値段が違うのが、ワコールのブラジャー。Gくらいから品数が減り廉価版がなくなります。
ワールドの服も大きなサイズになると高くなるブランドがありました。
布の幅にパターンが置けないから、同じ布の長さでも取れる数が変わるからというのは、裁縫をしていれば気が付くのですが、そうでないと、デブ差別だ!とかいうんでしょうね。ポケットの多いArtisanのポーチとかバッグはやたら高く感じるのですが、工数が多いですもん。
子供服が明らかに使う布の量が少ないのに、値段がそんなに安くないのは、工数は同じくらいあるからでしょうね。
作ってみないとわからないです。ドール服だって、同じ工数を掛ける人がいるかもしれませんが、独特のつくり方でした。人の服とちょっと違ってました。
あれは使う布が少ないから、内職にはよいかもと最近思います。
南さん、はじめまして。こんにちは。
いつも楽しく拝見させてもらってます。
洋服のサイズの値段が均一なのは当たり前のことと感じていましたが、ジーンズで値段が変わるサイズがあったのは初耳でした。
ハーフパンツも靴も子供サイズと大人サイズで価格差あまり無いですもんね。