不思議な経営判断
2014年9月29日 未分類 0
アパレルブランドの取材を行っていると、各社から現在の店頭の売れ筋を教えていただく。
生業として洋服の企画・製造・販売を行っているわけではないから、そういう情報は非常に参考になる。
しかし、そういうアパレル各社は時々、耳を疑うような決定を行うことがある。
これはどうにも不思議である。
どういうことかというと、たとえば、某ジーンズアパレルを例にとる。
この某社は、2007年に欧米からのインポートジーンズ導入を発表した。
価格帯は2万円以上だった。
店頭投入は2008年からになるという。
この決定には首を傾げざるを得なかった。
なぜかというと、欧米からの高額インポートジーンズのブームは2007年の時点でかなり下火になっており、
2008年には完全に終了してしまった。
ブームの走りは2003・2004年ごろ、
ブームのピークは2005年。
2007年には明らかに下落基調になっていた。
2万円以上という価格が受け入れられにくくなっており、
カイタックインターナショナルが「ヤヌーク」を自社ライセンス生産主体に切り替えたのもこのころである。
なぜ、この2007年という時期にわざわざ終わりかけている欧米インポートブランドというジャンルを新規導入するのだろうか。
この某社の売上高が絶好調であるなら、中長期を見据えた実験的取り組みと言える部分もあるが、某社の売上高は2007年当時すでに低迷していた。
そんなお遊びを行う余力はないはずである。
2007年当時にこの発表を業界メディアで目にしたとき、経営者の判断の甘さに驚いたものだった。
結果は案の定、1年弱でインポートブランドとの契約を終了している。
売り上げが不振だったから当然である。
日々、自社製品の店頭の売れ行きと他社製品の店頭の売れ行き情報が手元に入る立場にありながら、経営陣がどうしてこのような考え違いをするのか理解に苦しむ。
これに類した事例は業界には掃いて捨てるほどある。
傍目から見ても明らかに終わっているジャンルに向けて新規ブランドを投入してみたり、自社の規模を考えずに低価格ゾーンに挑戦してみたり。
情報は持っていながら、それを活用できていない経営陣は意外に多いというのが筆者の感想である。
そういえばこんな考え違いも耳にしたことがある。
百貨店やファッションビルを主販路とする大手某アパレルが、某素材メーカーに「ユニクロでバカ売れしたあの商品と同じ素材をうちにも売ってくれ」と頼みに来ることがままあるという。
それも現場担当者ではなく部長級・取締役級の人間がくる。
ちなみにこのアパレルの商材の価格帯は中級から高額である。
ユニクロよりは最低でも数千円から1万円以上高い価格設定のブランド群を展開している。
よく考えてもらいたい。
価格設定が異なるということはユニクロとは客層が異なるということである。
自社の客層をまったく把握していないということになる。
また生産ロット数もユニクロとは全く異なる。
おそらくユニクロの生産数量の100分の1以下だろう。
ということは、1枚当たりの縫製工賃はユニクロよりも高くなるということである。
同じ素材を使って、ユニクロよりも高い商品を提供しても爆発的に売れるはずがない。
第一、彼らはその商品をどのようにアピールするつもりだったのだろうか?
まさか「ユニクロのアノ大ヒット商品と同じ素材を使いました」とでも打ち出すつもりだったのだろうか。
結果的に上記のような理由で素材メーカー側が販売を断ったのだが、何とも冗談のようなエピソードである。
ユニクロのその商品が売れたのは、素材が良かったこと以外にも価格設定、PR・広告宣伝、販促活動が消費者の心理をつかむことができたからだろう。
価格設定もPR・広告宣伝も販促活動もすべて異なるのに、使用素材が同じというだけでその商品がユニクロ並みに何十万枚と売れることなどありえない。
ましてやその素材すら「ユニクロと同じ」とはアピールすることはできない。
こんな企画で、なぜ売れると考えたのか不思議で仕方がない。
こういうことがまかり通っている業界だから、今後も好況に転じることはちょっと考えにくいと言わざるを得ない。