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南充浩 オフィシャルブログ

そんなにこだわらなくても

2014年9月26日 未分類 0

 昨今のファッションブランドはファッション性のみの打ち出しだけでは消費者の興味を引くことができないので、物作りの姿勢も同時に打ち出すようになった。
その際にやたらと使用されるのが「こだわりの〇〇」である。

ファッション雑誌にしろ、ウェブメディアの記事にしろ、こだわりの大安売りである。

世の中ってそんなにこだわった商品ばかりが流通していたのだろうか?と不思議になる。

ところで、「こだわる」という言葉には元来、マイナスの意味しかない。
ポジティブイメージが与えられたのはつい最近のことであり、衣料品や繊維製品に使われ始めたのは90年代半ばのビンテージジーンズブームからではなかったのではないか。

なるべく記事を書く際には気を付けて使わないようにはしているのだが、筆者も使ってしまうことがある。
一層気を付けたい。

その「こだわり」について、京都で着物の染み抜き・染色補正などの仕事をしておられる栗田裕史さんが、的確なエントリーをご自身のブログでアップされた。

その「こだわり」とやらは誰のため?
http://kimonono.com/blog/archives/256

まず、こだわりという言葉の意味。

1 ちょっとしたことを必要以上に気にする。気持ちがとらわれる。拘泥(こうでい)する。「些細(ささい)なミスに―・る」「形式に―・る」
2 つかえたりひっかかったりする。
「それ程―・らずに、するすると私の咽喉を滑り越したものだろうか」〈漱石・硝子戸の中〉
3 難癖をつける。けちをつける。
「郡司師高―・って埒(らち)明けず」〈浄・娥歌かるた〉

[補説]1は、近年、「一流の材料にこだわって作った料理」のように、妥協しないでとことん追求するような、肯定的な意味でも用いられる。

これが元々の意味である。
昨今のポジティブイメージは補説1の用法である。

さて、染み抜きや染色補正というのは職人仕事であり、中でも栗田さんが属する和装業界は、傍から見ていてもさぞかし「こだわり」が満載なのだろうと感じてしまう。
一言でまとめるなら「めんどくさい」である。

例えば、ボクの仕事である染色補正だと、「昔ながらの道具と薬品だけを使って仕事をするのがこだわり。新しい機械とか薬品とか技法とか、そんな物に手を出すような職人は恥」とかいう人がいるんですが、いやいやいやいや・・・、そのこだわりとやらでアナタ自身が気持ちよくなれるかもしれませんが、お客さんにとってそれはいったいなんのメリットがあるんでしょうか?

技術の世界は何かを守ることで受け継がれてきたのではなく、切磋琢磨してたゆまぬ向上心を持ち続けてきたからこそ、今があると思うんですよね。

ああ、まさしく、和装業界あるあるだと感じる。

これと一脈通じるのが繊維・洋装業界ならデニムとジーンズであろう。

やれ「ストレッチ混デニムは邪道。綿100%が王道」だとか、
やれ「ムラ糸によるタテ落ち感がナンタラ」だとか、
やれ「オンスは重ければ重いほど良い」だとか、

そういう「こだわり」が満載されている。

しかし、そういう「こだわり」って一般消費者に必要とされているのだろうか?
筆者はされていないから、ここ数年に渡るジーンズの消費不振があるのだと思う。

はっきり言えば、ダボダボシルエットが流行最先端という時代なら綿100%デニムでも動きにわずらわしさがなかったが、2008年以降のようにスキニーや細身テイパードシルエットがトレンドになれば綿100%デニムでは動きにくい。

消費者の大部分がストレッチ混デニムを求めるのは自然な流れである。

色落ちにしてもそうである。
激しく色落ちしても穿きつづけられるのはジーンズだけである。
通常の衣類であんなに色落ちしてしまうと、みすぼらしくて着用することは難しい。
色落ちしたウールのスラックスなんて作業着以外で着用できますか?

そこにジーンズの特殊性があるのだが、しかし、昨今の消費者の多くは色落ちを楽しみたいとはあまり思っていないように感じられる。
それゆえのワンウォッシュジーンズ人気ではないだろうか。
さらにいうと、色落ちしない・色落ちしにくいワンウォッシュジーンズがあるとさらに消費者は喜ぶのではないか。

もっとも買い替え需要を起こすことを考えると、ジーンズは激しく色落ちした方が良いのだが・・・・。

ジーンズ需要の復活を目的とする活動は業界にさまざまある。
筆者の見るところ、その活動の根底には「業界の‘こだわり’を消費者に受け入れてもらおう」という考えが根強く流れているように感じる。

例えば「色落ちのすばらしさ」だとか「綿100%デニムの重量感」だとか、そういう類のこだわりである。

そういう物に対する需要は確実にあるが、今のところそれは少数派の需要である。
多くの消費者はそういうものを求めていないのだから、需要を回復するためにはそこに向けた提案をする方が簡単であろう。

すごく伸びて柔らかいストレッチデニムだとか、
超軽量なデニムだとか、

そういう物を提案すれば良いのではないかと外野にいる筆者は思う。

染み抜き・染色補正職人ではないがまさしく「そのこだわりとやらは誰のため?」である。
まさか作っている人たちが満足するために打ち出しているのではないよね?(笑)

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