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南充浩 オフィシャルブログ

ターゲットの嗜好に合わせた商品を提案する必要があるという話

2022年5月11日 ジーンズ 2

衣料品業界にはターゲットに向けた提案が下手くそな人が少なからずいる。

愛好者が好む「本物」をマス層にまで押し付けようとすることがままある。

いくら「本物」だろうと不便な製品なら大衆は支持しない

ここでも触れたが、いわゆるデニム生地論争も結果としては、色落ち・色移りしにくいデニム生地を好むマス層は少なからず存在するということがわかった。

いわゆるジーンズという商品に限っていえば、色落ち・色移りしても我慢はできるが、ソファーやバッグ類などの家具や雑貨になると、色落ち・色移りはしない方が良いということになる。

最近のデニム生地はジーンズとして使用されるよりも家具類・雑貨類・トップス類として注目されることの方が多い。

国内最大手のデニム生地メーカー、カイハラの堅調は、新素材としての「色落ちしにくいデニム生地」の開発も一因となっている。

自分も激しく色落ちした薄青いジーンズは、みすぼらしいジジイに見えるため、あまり好まない。それよりも濃紺のワンウォッシュジーンズの方がまだマシに見えるので、色落ちしにくいデニム生地で作られたジーンズの方が欲しいと思う。

 

しかし、デニム業界の年配層にはいまだに「デニム生地は色落ちしてこそ」という方が少なからずおられる。

個人の嗜好は何でも構わないと思うが、「本物ガー」とわめきながら、色落ちしないデニム生地を好むマス層に押し付けることはビジネスとしてはナンセンスと言わざるを得ない。ガンダムのプラモデルが欲しいと言っている人にダグラムのプラモデルを売りつけるようなものである。

先ほどのブログに、業界の大先輩からコメントをいただいた。要約するとこんな感じだ。

 

「個人的には、60歳以上の年配層に向けて色落ちしやすいビンテージ感覚のデニム生地を作って販売してみるのが面白いと思っています。ただし、売上高は数億円くらいのスモールビジネスとして」

 

である。

 

自分もこの意見には大賛成である。

思い返してみると、96年にビンテージジーンズブームが到来するまで、80年代後半から90年代半ばまでは、デニム生地も滑らかさや色落ちの少なさ、光沢感、つややかさ、ソフト感などが求められてきた。

かつて日清紡が誇った液体アンモニア加工デニム生地というのは、それらを具現化した加工法だったし、一世を風靡したレーヨン混デニムによるソフトジーンズブームはその究極形だったといえる。

これと真逆のコンセプトを仕掛けて盛り上がったのがビンテージジーンズブームで、2008年のスキニージーンズブームまでの10数年間、国内のデニム業界は、ビンテージ風デニム生地が最上の価値とされてきた。

2008年のスキニージーンズブームには、ストレッチ混デニム生地が必須だが、これと国内デニム業界の年配者からは「邪道である」として嫌われたものだった。

 

だが、当方も含めて今のマス層はどうだろうか。

デニムに限らずストレッチ性の無い生地は窮屈だと感じるようになっているし、厚くて硬い生地よりはソフトで軽い生地を好むようになっている。

おまけに色落ち・色移りするデニム生地に対して「不便さ」を感じている。

 

となると、マスに向けてはストレッチ混で色落ちしにくいデニム生地を使った製品を供給すればいいということになる。

 

ビンテージジーンズブームは90年代半ばだった。1970年生まれの当方は25歳くらいでそのブームを体験した。

その自分も今では52歳であり、ビンテージ風デニム生地を好む年代というのは、若くても自分よりも10歳下ということになり、その当時にビンテージジーンズを企画していた年代は同年配かそれよりも上ということになる。

現在彼らは40代前半~70歳になっていると考えられる。

いまだにビンテージ風デニム生地を好んだままの人もこの年代には少なからずいるだろうから、その彼らに向けて商品企画をすればどうだろうか?

ただし、売上高は50億円とか100億円にはとうてい届かず、数億円規模、多くても20億円くらいまでにしかならないだろう。

 

・マス層には、ストレッチ性があって色落ちしにくい合繊混デニム生地

・年配マニア層に向けては、本物の色落ちするデニム生地

 

という具合に使い分ければ良いだけのことではないかと思う。ただし、売り上げ規模でいえばマス層は何百億円、年配マニア層は10億円前後、という具合だから、それに適したコスト計算をして、販売価格を決めれば良いということになる。

 

要するに消費者の嗜好に沿って、それぞれ異なる商品を提案し、住み分ければ良いというだけのことなのだが、なぜかこの主張を理解しない?できない?人が少なからず存在して閉口してしまう。

なぜか、「本物」がマス層に売れねばならない、マス層は「本物」を支持すべきだ、と頑なに信じている。

もちろん、自分の好きな商品が世の中に広まってもらいたいと思う気持ちは当方も理解できる。しかし、これが置物とか遠隔操作する機械類ならば、種々のデメリットにも目をつむることもできるが、直接身に着ける衣服や衣服と密着する家具類・雑貨類ということになると、種々のデメリットを許容することが難しいと感じる人は多い。

商品の特性上、大好きな本物をマス層が支持してくれることは不可能に近いだろう。

こういうターゲット設定に個人的な好悪の感情が必要以上に入ってしまうことが、衣料品販売が上向かない原因の一つになっているのではないかと思ってしまう。

 

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 comment
  • とおりすがりのオッサン より: 2022/05/11(水) 12:01 PM

    大衆にはサザビーを!マニアにはシャアザクを!(・∀・)

  • BOCONON より: 2022/05/11(水) 11:27 PM

    年輩マニア向きな “ヴィンテージ・ジーンズを再現した本格派” なジーンズならたとえば上野アメ横の山手線挟んで反対側の通りにある HINOYA などがたまに作って売ってたりしましたな。僕もジーパンはどっちかって言えば苦手で着こなしに自信がないのになぜか欲しくなって一度買いました。1本およそ2万円也というのは高いのか安いのか。ボタンフライはメンドくさいし洗うと色落ちするのはもちろん,何よりびっくりするくらい縮むのでじきに穿こうにも穿けなくなってしまった。こういう商品をマニア以外に売ろうというのはそりゃ無理がありますわな。

    と言ってもジーンズの場合,昔から僕がどうにかした方が良いと思ってきたのは素材や色落ちの問題もさることながら「基本アメカジのチェックのネルシャツにストレートジーンズ…なんてのは日本人にはあんまり似合わない。何だか子供服みたいに見える」という問題ですね。洋画でアメリカやオーストラリアの田舎の大男の貧乏白人などが着ていると格好良く見えるけれど,ああいうのは日本人の “一体に背が低くて頭が大きく体に厚みがない” という特徴(敢えて欠点とは申しますまい)をカバーしてくれずむしろ強調してしまうので,なんだかひねた子供みた様なおかしな感じになりがちだ。
    というわけで僕としてはずっと「ジーンズメーカーはもっと日本人に似合うジーンズを考え,提案するべき」と思っていたので,先日書いたデニムのワークパンツなんてのもその一つですね。僕が試したものではユニクロのワイドテイパードジーンズなどは僕(あるいは日本人全般)の小さすぎる尻や細い脚/貧弱な下半身にぴったり張り付く感じではないので悪くないシルエットだと思いました。あるいは昔のリーバイスの silver tab バギージーンズとかね。

    しかし今の若い男子は洋画観ず洋楽も聴かないからそもそもブルージーンズ,アメカジに憧れなんぞ大して持っていない様子。別にオシャレでもない男が「ジーンズはおっさんや爺さんの穿くものだ」「ベージュのチノパンはオタクの穿くものだ」などと実につまらぬ事は一人前に言う有様で,と言って “いかにもなアメカジではなく日本人に似合うジーンズ” とはどんなものかなんて彼らにはたぶん見当もつくまい。
    僕はもう「チノパンやジーパンなんて男の服の基本みたいなものがイヤだというのならもう,ユニクロや GU 行って安っぽいカンドーパンツでもジャージみた様なジョガーパンツでもシェフPでも,なんでも好きなもの勝手に穿けや」という気分ですね。おおやんぬるかな。

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