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南充浩 オフィシャルブログ

アパレルの物作りを支えてきたOEM屋も急速に素人化が進んでいるという話

2022年2月1日 製造加工業 2

アパレルは参入障壁が低い。

それはOEM・ODMを手掛ける会社が無数に存在して、そこに依頼すればド素人でもオリジナル商品が作れてしまうからだ。

今ならインフルエンサー、昔なら読者モデル、タレントなどがいとも簡単にオリジナル商品を作れてしまうのは、OEM・ODM会社が存在するからだ。(以降OEMに統一する)

 

小規模OEM業者の生き残りも厳しい状況となったアパレル業界 – 南充浩 オフィシャルブログ (minamimitsuhiro.info)

 

そのあたりのことは以前にも書いた。

以前に書いた内容は、OEM屋が異常に増えすぎたのと同時に、売上高が見込めるブランドが上位何十社かに限られており、そことつながるために過当競争となり、小規模OEM屋はふるい落とされてしまうのが現在の実情である。

では今、ある程度の受注を確保できているOEM屋(商社の製品製造事業部を含む)が、盤石なのかというとそうではない。

OEM屋の方々には、以前から製品のこと、縫製のこと、生地のこと、加工のことなど様々教えていただいた。しかし、そういう方々も引退されたり、鬼籍に入られたりで徐々に世代交代しつつある。

最近ではOEM屋でもまったく生地にも縫製にも加工にも詳しくないという人が多数おられて、そういう方々が若手の駆け出しではなく、部署のリーダーや中堅となっているというところが増え、生産が滞り始めているという。

一口に洋服と言っても、生地からしても織物と編み物がある。

織物と編み物は生地の構造が全く違う上に製造方法も全く異なる。また各アイテムによっても製造ノウハウは全く異なっているので、全分野に通暁している人など当方は見たことがない。

織物も編み物も天然繊維も合繊もジーンズもセーターもワイシャツもスーツも何でも通暁しているという人はお会いしたことがない。

どんなに優れた人でもせいぜい3つぐらいの分野でスペシャルな知識を持っている程度である。

 

つい先日、ニット専門の人とお会いした。

この人はいわゆる「セーター」専門である。

ちょっと余談だが、Tシャツ、カットソー類、ポロシャツも「ニット」である。日本語でいうと編み物の製品である。

業界では、セーター類を「横編み」、Tシャツ・カットソー類を「丸編み」と呼ぶことが多い。

 

で、最近はOEM屋が横編みについてのレクチャーを受けに来るそうで、ニット製品を強みとしてきた某OEM屋ですら、レクチャーを受けられるかどうかという相談をしてきたことがあるという。

これは業界としては非常に危うい構図になりつつあるといえる。

 

これまでは、ド素人が気軽にオリジナルブランドを立ち上げられたのは、OEM屋がしっかりしていたからである。ド素人が、他社製品の画像を見せて「こんな感じでお願いします~」なんて工場に言ったところで、まったく通じない。画像で見ているような製品など出来上がりはしない。

今までは生地や縫製、加工について詳しいOEM屋が中間に立って、いろいろと工場と折衝していたからまともな商品が上がってきていたのだが、このOEM屋も素人になってしまうと、まともな製品など上がってくるはずもない。

テキトーな指示で工場が作ると、とんでもない製品が出来上がり、その後何度も修正を依頼することになる。

工場側とすれば「指示の出し方が悪いんじゃ。ボケが」ということになり、関係が悪化してしまう(国内外の工場ともに)。関係が悪化するだけでなく、修正をすればするほど修正費用が発生し、それを踏み倒せばさらに関係は悪化する。また修正を繰り返せば繰り返すほど納期を遅れてしまう。

サンプルを修正すると言っても、2時間くらいでできるわけではない。何日もかかってしまうから納期は簡単に1ヶ月くらいズレてしまう。

 

OEM界隈にもまだ知見のある人は残っている。だいたいが引退間際の契約社員だったり雇用延長の委託社員だったりする。また、高齢者でなくてもわずかに知見のある中堅やベテランも残っている。

今はまだ完全にクラッシュしていない業界インフラだが、いずれそれらのベテランや中堅も必ず年老いて仕事ができなくなるだけでなく、死んでしまう。

インフルエンサーなどの個人がド素人であることは言うまでもないが、大手アパレルの企画担当者も相当にド素人化している。

これは以前から何度も書いているように、大手アパレルが不況で、ベテランの企画マンをどんどん解雇した結果、物作りの知見が残った人に引き継がれなかった結果でもある。

また当時は「素人の消費者目線を大事にしたい」と言って、本当に素人ばかりで固めてしまうことが正解だと考えられてさえいた。今から思うとアホそのものである。

素人ばかりで物作りが可能なら、服に限らず世の中の製造加工業に専門家は不要ということになるが、当時はそういうアホな人がメディア上に多数露出して、それを信じてしまう残念な人が多かった。

首切りでド素人化したアパレル企業をプロのOEM屋がこの20年間支えてきたが、ついにはこのOEM屋もド素人化が急速に進み始めており、国内のアパレル企業は単に商品の差別化ができなくなっているばかりでなく、サンプル修正の異様な繰り返しの多さによって製造段階でのロス高が増え、生産リードタイムも長期化しつつある。まさに危機的状況にあるといえる。

 

いなくなって初めて分かったんだ。君(製造に知見のある人)の大事さが~

 

なんていうクサい恋愛ドラマのセリフのようなことが、あと少しで顕在化しそうである。

 

 

君の瞳に乾杯というTシャツを着て、夜景の見えるレストランで「君の瞳に乾杯」と言ってもらいたい

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 comment
  • ヒデ より: 2022/02/01(火) 10:04 PM

    最近の南さんの記事を読んでいると、新しく生産される服を買う意欲がますますなくなります。まぁ、僕はもともとセコハン派なので構いませんが。😁

  • kta より: 2022/02/04(金) 1:06 PM

    安い給与、長い労働時間、酷い扱い、感覚便りな引継や指導、これらをベテランないし知見があったりする人間が是正しないままに胡坐をかいてきた結果とも言えますよね。

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