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南充浩 オフィシャルブログ

衣料品業界にOEM屋が必要不可欠な理由と製造段階の多層構造化の必然性

2022年2月2日 製造加工業 0

今回は上手くまとめられるかどうかは分からないが、衣料品業界のOEM(ODM含む)の話を。

まあ、いつもまとまってないじゃないかと言われると返す言葉もないのだが。

 

アパレルの物作りを支えてきたOEM屋も急速に素人化が進んでいるという話 – 南充浩 オフィシャルブログ (minamimitsuhiro.info)

 

前回のブログにいろいろと反応をいただいたのだが、衣料品業界でも製造に多少は携わっておられる方々にとっては初歩的な話である。ただ、衣料品業界と言っても、川上・川中・川下と別れており、川上(製造業)と川下(店頭、ECなど)とでは異世界ほどその景色やルーティンワークは異なっている。

川下に近い方々にとっては多少なりとも川上の風景が知れるのではないかと思う。

 

このブログでも何度も書いてきたのだが、今の衣料品業界について、川下界隈やメディアでは流通構造の多層化を指摘する声が大きく、それと結びつけてD2Cガーという謎のキャンペーンが続いている。

小売店頭にも立った立場からいうと、現在の国内衣料品市場においては流通構造はかなりシンプルになっている。たしかに2000年頃までは、問屋が何重にも存在するのが普通でそこを指摘され、SPA業態が注目されて、ユニクロの成功も手伝ってそれが業界の主流となった。

現在でも卸売りブランドは存在しているが何重にも問屋が関与していることはほとんどない。

逆に多層化しているのは製造段階だといえる。川上だろうが川下だろうが「むやみやたらな」中間業者の排除は賛成しないが、極度に多層構造化した製造段階を使ってD2Cなんて言ってみてもはっきり言えば意味がわからないし、割安効果は出にくい。

まず、ザックリとした一般的な製造段階の多層化をまとめてみる。

 

、まず、著名ブランド・大手ブランドの多くは大手の繊維商社(生地問屋)の製品製造部門(ODM事業部)で製品の製造を請け負っていることがほとんどである。(例:豊島、ヤギ、モリリン、瀧定、タキヒヨー、サンウェルなど)

 

、大手とは言えそれぞれに得意分野がある。または祖業があるなのでそれから外れたアイテムは外注するしかない。逆に、大手ブランドや著名ブランドに対しては、大手商社は「全部やります」「なんならブランドの年間の商品計画の立案までやります」というスタンスで受注するから不得意アイテムは外注するほかない。

 

、大手商社は、不得意アイテムを仲の良い、関係が密接なOEM屋(実質はODM屋)に外注することになる。

ここで最初のマージンが発生する。

 

、2005年以降は、大手商社が使う工場は基本的に中国、今なら東南アジアやバングラデシュなので、海外の工場や海外のエージェントへ打診する。1型当たりの生産ロットが多いものは海外で生産することになるが、生産ロットの小さい物は国内業者へ流れる。

この時点で、直接国内工場へ行くこともあれば、国内の小規模OEM業者へ流れることもある。

ここで2回目のマージンが発生する。

 

、しかし、国内工場であろうとも、工場をハンドリングするにはそれなりのノウハウが必要だから、そのノウハウや勘所のない国内OEM屋は、国内工場のハンドリングに長けた別のOEM屋に発注する。

ここで3回目のマージンが発生する。

 

ざっとこんな感じで商品の企画から生産までが流れている。

かなりまとめて書いたが、実際は、ここからさらに同業他社に依頼したりすることもざらだからマージンはもっと発生している場合も決して珍しくない。

自分が商談に立ち会った経験でいうと、

大手アパレルから、中堅アパレルがODMを受注した。この中堅アパレルは懇意にしているいつものOEM屋に発注する。しかし、このOEM屋の不得意分野アイテムも注文には含まれている。(例えば、得意分野がTシャツなのに、ジーンズの発注があったなど)そうすると、このOEM屋はジーンズを得意とする同業他社へ発注することになる。

さらにいうと、TシャツOEM屋がジーンズを得意なOEM屋を知らない場合は、知人や取引先の伝手で、ジーンズOEM業者を紹介してもらうことになる。この時に紹介料が発生する場合が多いことは言うまでもない。

 

これがかなり簡略にまとめた現在のアパレル生産の流れである。

じゃあ、これをシンプルにすることはできないのかと言われると、かなり難しいと言わざるを得ない。衣料品の場合、生地やアイテムにそれぞれ特別な知識が必要になるので、全分野を極めることは不可能に近い。解決策は大資本となって、全ジャンルの専門家を雇うことで、それが今の大手商社ということになるが、スタッフが代替わりするとその知識は徐々に失われてしまう。それが顕著になり始めたのが現在だといえる。

 

コメント欄に「インフルエンサーやインスタグラマーはどのようにしてOEM屋に知り合うのか?」というコメントをいただいたが、これはケースバイケースで、衣料品業界にとっかかりのある人に紹介してもらうというケースは珍しくない。実際にそれで商品作りを開始したブランドは多い。

あとは、マネージメント事務所と契約している場合なら、そのマネージメント事務所と面識のあるOEM屋が紹介される場合もあるだろう。

 

ざっとこんな感じで、個人的には、OEM屋や大手商社無くしては、ファクトリーブランド以外の洋服の企画生産はOEM屋無くしては成り立たないというのが実態である。

それだけに、OEM屋や繊維商社の現場スタッフが素人化してしまうと、業界のほとんどのブランドは商品力が落ちるだけでなく、製造コストも上がり、納期も遅れることになり、業界全体の商況はさらに悪化する可能性が極めて高いので危険だということになってしまう。

 

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