ユナイテッドアローズが今期大幅黒字転換を実現するのは難しいのではないか?
2022年1月31日 企業研究 6
ラグジュアリーブランドよりも少し安く、ファッション感度の高い商品だけを扱って、国内売上高1000億円以上を毎年維持ないし成長させ続けるというのは極めて難しいと当方は見ている。
あまり深刻に報道されないのが謎だが、ユナイテッドアローズの苦戦は、それが原因ではないかと思って眺めている。
数億円とか数十億円、100億円くらいならこの手法は可能だろう。ファッション変態みたいなニッチ客だけで売上高を稼ぐことが可能だからだ。だが、1000億円を越えるとそれはマス層からの買い支えが定期的になければ不可能である。
もうすぐ第三四半期決算が発表されると思うが、ユナイテッドアローズの2022年3月期第二四半期連結を振り返ってみよう。
売上高 504億3700万円(対前期比5・3%減)
営業損失 26億4800万円
経常損失 21億8200万円
当期損失 19億9400万円
となっている。
ちなみに2021年3月期連結は
売上高 1217億1200万円(同22・7%減)
営業損失 66億1300万円
経常損失 48億7800万円
当期損失 71億9700万円
となっている。これは明らかにコロナ禍によるところが大きいが、コロナ禍が比較的軽微だった2020年3月期連結(要するに2020年3月末締め決算なので、コロナ禍の影響は2020年2月後半以降の1ヶ月半にほぼ限定される)でさえ、微減収大幅減益となっている。
2020年3月期連結は
売上高 1574億1200万円(同0・9%減)
営業利益 85億5800万円(同20・8%減)
経常利益 88億300万円(同22・2%減)
当期利益 35億2200万円(同45・1%減)
である。
決算を見ていると、すでに2019年中にピーク時の勢いからは陰りが出始めていたことがわかる。
そして、2022年3月期第三四半期の月次速報もパッとしない。
2021年12月の月次既存店売上高は前年を上回ったものの、2019年12月と比べると約9%減に終わっていて、回復しているとはとても思えない。
さて、その理由について考えてみたいが、財務分析やらその手の類は、絶大なる知見と実績を持ったマサ佐藤氏にお任せするとして、周囲の購買行動などから当方は考えてみたいと思う。
たしかにその昔、2010年頃までユナイテッドアローズの商品は、業界内のうるさ型の人々にもそれなりに好評だった。多分、ファッション感度が高かったのだろう。そういうカンドタカイ系の著名人も支持していたから、それに釣られて支持した予備軍も多かった。
売り上げ規模は今よりも小さく、カンドタカイ系(自称も含めて)とその予備軍を取り込むことで売上規模の拡大は可能だった。
しかし、1500億円規模ともなるとそういう層だけで売上規模を拡大させ続けることは不可能である。なぜなら、そういうタカイ系やその予備軍の人口はそこまで多くないからだ。
そこにコロナ禍が来たが、コロナ禍という要因を除いても、1500億円規模がピークだったということが決算の推移からわかる。
1500億円規模を維持ないし拡大しようとすると、圧倒的に人口数が多い「カンド高くない系マス層」の支持を獲得しなくてはならないが、ファッションでございとお高く止まったユナイテッドアローズにマス層が興味を示すとは到底思えない。ちなみにカンド高くない系の当方もユナイテッドアローズの各屋号の店舗には全く興味がない。覗いてみたいとも思わない。
UAやビューティ&ユースはもちろんのこと、グリーンレーベルリラクシングも全く覗こうと思わないし、コーエンですら同様である。
低価格好きの当方から見ると、コーエンですら、ユニクロはおろかグローバルワークよりも割高に感じられる上に、商品的にも見劣りしてしまうので買う気にならない。ユニクロ、ジーユーで固めすぎて、ほかのブランドもたまには着てみたいなと思ったときには覗くが、それなら当方ならグローバルワークかライトオンあたりで良いかということになる。
UAやビューティ&ユースは店内に人がいなさすぎて入りたくないし、グリーンレーベルもショッピングセンターに入っている割には競合ブランドよりも値段が高いくせにベーシック過ぎるし、店内に人がおらずに販売員が待ち構えているので入りづらい。
ファッション好き、ユナイテッドアローズ好き以外は入りづらい店がほとんどで、それらを合算して1500億円規模からさらに拡大するのは至難の業だろう。
同じくらいの規模ではパルがあるが、パルの最大ブランドは低価格雑貨店の「スリーコインズ」である。パルの洋服店にはさっぱり興味は出ないが、スリーコインズにはお世話になっているというマス層は想像よりも多いだろう。
また、競合にはビームスがあるが、ビームスはそれこそ訳の分からない取り組みが多く、売れるとは思えないが、例えば木刀の販売や神棚の販売があり、何というか親近感がわきやすい。一言でいうなら「お高く止まっていない」というイメージがある。
大阪弁でいうところの「シュっとした」ファッション然とした取り組みだけでは、マス層の支持は獲得できない。近年、本来はUA以上にお高く止まっているはずのラグジュアリーブランドがアニメコラボを頻繁に行うのは、その点を考慮している部分もあるだろう。
つい最近もロエベが「千と千尋の神隠し」とのコラボを発表している。
ロエベ×スタジオジブリ『千と千尋の神隠し』カプセルコレクション (loewe.com)
正直、全然欲しいと思わないし、こんな商品はアニメイトかジブリのショップの売り物ではないかと思ってしまうほどで、シュっとしたカッコよさは微塵もないと当方には見える。
だが、こういう取り組みをしなくては集客できないというのが今の時代なのだろう。その時代の気分にはUAは沿っていないように感じられる。
ユナイテッドアローズの2022年3月期連結は
売上高 1248億円(同4・8%増)
営業利益 30億円
経常利益 35億8000万円
当期利益 17億5000万円
と増収・大幅黒字転換を見通しているが、恐らく達成は不可能に近いのではないかと思う。
第三四半期・第四四半期は春夏物よりも単価の高い秋冬物が主体となるとはいえ、売上高増はまだしも、大幅黒字転換はかなり難しい。
第二四半期で20億円の赤字があるのに、最終的に30億円の黒字にするということは、残り半年で50億円もの利益を稼ぐ必要があるということになり、現在のコロナ禍や月次売上速報に見る昨対増減からすると、現実的ではない。
低価格雑貨店やアニメコラボに類した「マス層向けの施策」が無くてはこれ以上の拡大は望めないと思うが、上場してしまっているので、株主への配慮も求められることとなり、大きく方向転換もできないというのが今のユナイテッドアローズではないだろうか。
勢いがあったころに書かれた本をどうぞ~
comment
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とおりすがりのオッサン より: 2022/01/31(月) 2:19 PM
出典不明ですが、評論家の寺島実郎氏の公演で
分野別消費支出(2000→2020年)
光熱・通信+13.4%、食+8.6%、衣-47.1%、住-11.3%、こづかい・交際費-49%、教育・娯楽-28%というデータを挙げてたという個人ブログ見ました。食はそこそこ増えてるのが面白いですが、衣の分野にお金を使わなくなってるのが如実で驚きました。そりゃ、アパレル企業は傾きますね。
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別のとおりすがり より: 2022/01/31(月) 2:50 PM
お高く止まってるのは商品だけじゃないと思いますけどね。
何がとは書けませんが・・・。 -
BOCONON より: 2022/01/31(月) 9:03 PM
まあこういうスーツ姿を「カッコいい!」と思う一般人はあんまりいそうもない。僕もこんな上衣の丈が短くて後から見たらたぶん判ケツ状態,ズボンは股下が合ってない上にツンツルテンというくせの強い・・・もっと正直に言えばばかに見えるようなスーツはタダでも要りませんね。「イタリアではこれが流行ってるんだから」「このヌケ感がいいんだよ!」って言われたとしてもね。
↓
http://www.district.jp/blog/2017/12/epiphone.htmlそれはそうと,僕も好きかと言われれば好きではないからセレショなんてあまり入りませんが,南さんほどのお人が比較的お安くてガキっぽい服置いている UA グリーンレーベルごときに入りづらいというのはちょっと可愛い気がしないでもないですな(笑)。
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はっさん より: 2022/02/01(火) 6:15 PM
アローズはインポート商品の生産国偽装や組成偽装等があってからそれらを好むニッチな層からも嫌われた感が否めない。売り場の販売員の環境も安月給でイジメ、パワハラまみれとも聞くしアパレル業界でも全く良い話を聞かない。まあこのままだとまた不祥事を起こしてそのまま身売りの可能性が極めて高い。
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南ミツヒロ的合理主義者 より: 2022/08/22(月) 11:06 AM
今回も南さんが何度も指摘している「市場規模にあった商いを」
ということに尽きると思いますK氏:>通勤途中での買い物にもこだわりを持ってます的な人
>青山のカフェから絵はがきを書いて同僚を引かす人そんな人間あたま数がいる訳ないし、20世紀ならまだしも
2022年にやったら「時代おくれ」と陰口を叩かれるでしょうプラス高額店wで物を買うのが
もはや若者のステイタスではなくなっている裁判中のホリエモンのスーツがUA購入品だったそうですが
あの手の人お好みのお店でたくさん物を買いたい人は少数ですといっても、服好きだけが顧客対象だった頃の規模に戻れるわけが
ないですよね・・・最終的には量販店が株を全部持つのでは?
大内順子さんがご存命の頃のファッション通信ではスポンサーになっていましたから
まさに意識高い系の会社でしたね(地上波しか見ないのでBSは知りませんが)
毀誉褒貶が激しいアパレルですが こちらもまたその一つですね
通勤途中での買い物にもこだわりを持っています的な人をターゲットに
駅への出店を増やしましたが 最早そういう人種は絶滅ですよね
羽田空港の店に行きましたが 紛失可能性の高い旅のグッズは高価なものよりも
失っても痛くない値段のものを選びます おのずMUJIやユニクロですよね
靴下とか わざわざ高い買い物をする人は
わざわざ 青山のカフェから絵はがきを書いて同僚を引かすことができる酔狂な人と
いうことでしょうかね