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南充浩 オフィシャルブログ

国内衣料品生産を増やすという大手アパレルの「正論」は実現不可能に近い

2021年12月24日 製造加工業 1

少し前に大手総合アパレルが国内生産比率を大幅に高めるという報道に対して実現不可能ではないか?とこのブログで書いた。

その考えは今も変わっていない。

大手アパレルの国内増産計画は「画に描いた餅」ではないのか? – 南充浩 オフィシャルブログ (minamimitsuhiro.info)

 

以前から、比較的製造加工業者の知り合いが多い方だと思っているが、この10年間を見ていても、新規参入者よりもリタイアする人の方が多い。

60代以上の工場経営者、工員というのが業界ではほとんどで、これが加齢とともに引退する。

経営者の場合、御子息を始めとする親族が継ぐ場合もあるが、誰も継がずに廃業することの方が多い。

工員の場合は、御息子・御令嬢に継がせたところで、はっきり言ってメリットは無いので継がないことがほとんどだ。

いくら継続する意欲があっても先代・先々代からの負債によって倒産してしまう場合もある。

 

当方の体感的に言って、後継者不足などで廃業・倒産する工場を10とすると、20~50代で後継する工場・新規参入する工場が1くらいの割合しかない。

だいたい10対1とか9対1の割合で、工場が減る方が多い。

以前のブログでも書いたように、海外工場のコロナ停止・停電停止・政情不安停止などの要因で、昨年夏前くらいから国内生産回帰が起きていたが、すでに現状でも生産キャパシティは満杯に近い。

そこに、記事中で出てきたようにTSIホールディングスのような大手アパレルが、国産比率を今よりも最大40%増加、最低でも20%増加させるなど、ほぼ不可能である。

大手アパレルの経営者は一度国内生産工場を長期間かけて視察してみてはどうか。現場を知らないからこそ気楽なことが言えるのだろうと思う。

 

アパレル国内生産回帰は進むのか?~仕入原価が上がっても、値下げを抑えることで、利益を高める商品調達戦略へのチャレンジを: ファッション流通ブログde業界関心事 (cocolog-nifty.com)

 

この記事も同様だ。

ブランド側の意見としてはたしかに「正論」である。

 

筆者がこの記事の中で注目したいのは、

「国内生産は海外と比べてもコストは高い。注文から納品までの時間短縮などで廃棄ロスや機会損失を大幅に削減してコスト上昇を相殺できるとみる。」

という正論の部分です。

つまり、国内での安定生産をこれから「腰を据えて継続する」上でカギを握る、損益の話です。

 

とある。まあ、後は興味のある人は元記事を読まれればいいと思うが、要するに値下げ販売をしない短納期生産を実現するためには国産が有効だということが書かれてある。

売る側の理論としては「正論」だが、老齢化した工場経営者・工員の引退・死去による国内工場数の減少をどう食い止めるのかという問題には全く答えていない。

売る側の論理はわかった。しかし、売る側の正論だけで工場が増えるのなら世の中のサプライチェーン構築に誰も苦労しない。

じゃあ「正論」を唱えている人は工場経営もしくは工員を増やす方策があるのだろうか?

 

これでもう丸5年くらい専門学校で非常勤講師をしているし、その前は1年半、大阪文化服装学院の夜間クラスで非常勤講師をさせてもらった。

毎年、さまざまな若い学生に会うが、中には口下手で対人関係が苦手なので工場で働きたいという学生もいるが、少数派である。

東京のマンモス専門学校、大阪の最大手の専門学校でも比率は似たようなものだろう。

とすると、そういう彼らが後継工員になったところで、今ある国内工場は維持できない。

そして、今でさえすでに国内生産キャパは満杯になっている。

 

ここからどのようにして工場の生産ラインを増やせるというのだろうか?

もちろん、国内工場は遠い将来でもゼロにはならない。しかし、2021年水準の生産キャパを維持できるのは最長で10年間だろう。それ以降は今よりも生産工場は確実に減る。なぜなら、今の老経営者・老工員が確実に死去するからだ。

次の10年間では工場数はさらに減るだろう。

 

ブランド側の「正論」とやらはわかったが、じゃあ、国内生産キャパを拡大とは言わないまでも、どのように何十年間も維持させるのか、その対策が立てられないなら「国産増加」は画に描いた餅に過ぎない。

それこそ、「パンが無ければお菓子を食べればいいじゃないか」という理屈と同じだ。(ちなみに、史実ではマリ・アントワネットはこのような発言をしていないとされる)

 

ニアショアリングとはオフショアリングの反対語で、人件費の安い海外にリスクを取りながらアウトソーシングする後者に対して、前者は同じ国または近隣国にアウトソーシングをするという意味です。

ちなみにZARAを展開するインディテックスグループは、古くから、トレンド商品は近隣国で生産し、コスパで勝負のベーシックはアジアにアウトソーシングするというポリシーを貫き、ここで言う、ニアショアリングとオフショアリングを商品特性ごとに使い分けてグローバルで成功している先進事例です。

 

とあるが、これは詭弁に過ぎない。

ZARAの本拠地スペイン工場だが、スペインは他の西欧諸国より低賃金国である。またZARAのニアショアリングのスペイン以外のメインは東欧・中欧諸国で、ここも西欧諸国よりも低賃金国家である。

ということは、我が国アパレルが近隣のアジア諸国で生産させているのとなんら変わらない。

 

国産増加計画を発表したTSI、ワールドが国産工場を少しくらいは維持できる方法を当方は思い付いた。

相次いで首切りを繰り返しているが、解雇対象の社員を国内工場へ出向させたり転籍させればいい。業務に慣れるまで何年間かは確実にかかるが、もし慣れれば工場の生産ラインを少しは維持できるだろう。

昔、業績の上がらない営業部長を直営のうどん屋に異動させていた大手アパレルもあったが、それと同じである。

 

国内生産ラインの維持、工場数の維持、工員の継続的育成というのは、ブランド側の「正論」とやらで解決できるようなことではないということである。

 

そんなTSI傘下のアヴィレックスの商品をどうぞ~

 comment
  • メーカー勤務 より: 2021/12/28(火) 8:57 PM

    解雇対象者を物流に斡旋する話は聞きますが、縫製工場は聞かないですね。
    やはり仕事そのものの専門性が高く、解雇対象とされるような人に任せられない(工場側も使いづらい)事は大きいでしょう。
    私の意見としては、技能研修制度で従事していた外国人の中から優秀な人間を跡継ぎとして育てる仕組みがあればいいと思っています。
    もちろん技能研修制度自体賛否分かれるものであり、またコロナで技能研修生自体がいなくなってしまったので実現はかなり難しいと思いますが・・・

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