繊維・衣料品業界の初歩的な常識を消費者はほとんど知らない
2021年11月25日 売り場探訪 2
我々の社会は極度に高度化かつ細分化されており、全ての分野を深く知ることは不可能である。
せいぜいが、自分と関わり合いのある業界の何分の一かを知れれば大したものだといえる。
そんなわけで、一般大衆と各業界との齟齬は開くばかりだと感じる。
繊維・衣料品分野も同様だが、食料品と同等に、毎日欠かさず触る物だから一般大衆にも必要以上に馴染みができてしまい、却って関係が難しくなってしまっているようにも感じる。
業界では初歩的常識だと思われていることが、一般的には知られていなくて、驚かされるということは日常茶飯事なのだが、先日SNSを眺めていたら次のような記事が流れてきて驚かされた。
もしかして試着の度に女の人がこうなってること、男の人は知らない?!「何これ」「これガチなん?」「知ってたけど実際に見たのは初めて」 – Togetter
まあ、内容を読んでいただければわかるのだが、女性服を試着する際につけてもらうフェイスカバーについてである。
当方はオッサンながら、新卒すぐにレディース服店で販売員を経験し、2014年から婦人服の在庫処分店で糊口をしのいでいたから、女性が試着する際、特にプルオーバー服を試着する際にフェイスカバーをしてもらうことは当然だと30年前から思っていた。
男性一般消費者とて、母親を含む女性の買い物に付き合う(付き合わされる)ことも何年かに1度くらいはあるだろうから、プルオーバー服の試着の際に、女性がフェイスカバーをつけることは広く知られていて当然だと思っていた。
ちなみに離婚してから丸8年間、当方は女性の洋服の買い物に付き合ったことは皆無で、今後も買い物に付き合う予定は皆無である。
しかし、この記事を読むと、男性一般消費者でもフェイスカバーの存在を知らないという人は相当存在することがわかり、逆に衝撃を受けた。
なぜ、フェイスカバーをしてもらうかというと、女性のほとんどは何らかの化粧をしている。化粧の厚さ・薄さは関係ない。ファンデーションだけしか塗っていなくてもそれは化粧である。
店頭で洋服が不良品になってしまうことが少なくはない。その最大の理由の一つは女性の化粧が洋服に付着してしまうことだろう。
在庫処分店に立っていると、化粧、それもファンデーションと口紅が付着して不良品になってしまった洋服の入荷のなんと多いことか。
フェイスカバーをつけていないと、プルオーバー服を試着すると、ほとんどの場合ファンデーションが着いてしまう。
これは黒い服でも誤魔化せない。黒い服にファンデーションが付着すると、その部分が白くなる。白い服だとベージュになるから、白でも黒でも付着した服はごまかせない。
洋服の販売をしていると店頭でのロス高というのが必ず発生する。店頭で何らかの理由で不良品になった物とあとは万引きである。
何らかの理由での不良品の中で、恐らく化粧の付着による汚れはトップランクではないかと思う。
不良在庫ガーとか廃棄ガーと過度に言う人は、ぜひとも店頭で商品に化粧を付着させるという行為にも警告を発するべきではないかと思う。それほどに不良品として在庫処分店への入荷は多い。
横道に少し逸れるが、ファンデーションや口紅が付着してしまった場合、食器洗い用の液体洗剤をたっぷり塗って何時間か染み渡らせてから洗濯するとほとんど取れる場合が多いと言われている。ファンデーションや口紅は油なので。
残念ながらか幸運なことか、当方は私生活でファンデーションや口紅が洋服に付着することがないから試したことはないが、食器洗い用液体洗剤は油汚れに最大限の強みを発揮するから、皮脂や油汚れには洗濯洗剤以上に効果を発揮する。
前にも書いたことがあるが、洋服の油染みには食器洗剤を塗ると落ちるが、普通の洗濯洗剤だけでは落ちない。
また、最近知ったが、白いシャツの首の内側の茶色い汚れも皮脂なので漂白剤よりも食器洗剤を塗った方がよく落ちるらしい。
ぜひお試しいただきたい。
閑話休題。
とまあ、こんな具合である。
くどくどとつまらないことを書いてきたが何が言いたいのかというと、女性は試着の時にフェイスカバーをつけるという、業界人にとっては初歩の初歩のことでさえ、知らないという人が相当数存在するという事実である。
繊維・衣料品業界は、売るためにああでもない、こうでもないと試行錯誤し、挙句の果てに横文字だらけの超小難しい施策まで導入してしまっている。それはそれで大事な部分もあるが、もしかすると例えばフェイスカバーを付けているのが普通という初歩的なことをもっと広く一般消費者へ知らしめることの方が重要ではないかと思うことが最近増えた。
前回のブログに書いた、「検品会社と検査会社の機能の違い」なんて言うのも、昔のアパレルならほとんどの人が知っていたが、今では知らないアパレルブランドも増えた。もちろん消費者は知らない。
ウールのセーターのほとんど(梳毛を除く)はほぼ100%で毛玉ができる、というような初歩的なことも消費者ばかりでなく、ブランド側が知らないということも増えた
小難しいカタカナを並べて、未来的なテクノロジーや胡散臭い感動物語での訴求ばかりに目が奪われがちだが、基本的な知識を地道に啓蒙することが繊維・衣料品業界と業界メディアには求められているのではないかと思う今日この頃である。
日本製・100枚入りのフェイスカバーをどうぞ~
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通りすがり より: 2021/11/25(木) 10:43 PM
梳毛のウールセーターも毛玉はできます。梳毛だからピリングしない、はないですね。
ウール原毛の質と、加工の有無(スケールを取るか?固めるか?)で変わります。
自分は男ですが、たまに使います。
ヘアワックス使っていて、プルオーバーのものを試着する時ですね。
ヘアワックスは目立つ汚れにはならないでしょうが、それでも汚れになることには代わりありませんからね。
振り返ってみて、フェイスカバーの存在を知ったのは、アパレル業界で働き始めたときだったようには感じます。
過去、自分が働いてた店はすべて男女どっちも扱うお店だったので、すべての試着室に置いてありました。
おそらく、自分がそういう環境にいたので知っているだけで、洋服屋で働いてなかったら知らなかったかもですね。
でも、薄っすらとですがどこかのお店で「フェイスカバーを使ってご試着ください」と言われたこともあるような。
まぁでもレアケースなのでしょう。