大きなお世話なのだろうけど
2014年1月15日 未分類 0
前回、ユニクロのジーンズのキャッチコピーについて触れた。
1、ミリ単位の設計
2、希少価値の高い素材を使用

この2点について、1はどのブランドでもやっていることで「当たり前」、2は年間1000万本を販売する商品に希少性はなく、「表現としてはちょっとオーバーに過ぎる」というのが実情であると書いた。
しかし、好き嫌いは別として(筆者は嫌い)販促手法としては決して間違っておらず、むしろ「当たり前」として今まで説明してこなかった他ブランド、他製造業に問題があるのではないかとも書いた。
ジーンズというアイテムについては、90年代半ばから後半にかけてビンテージジーンズブームというものがあった。
希少性の高いジーンズに注目が集まった年代である。
30年前、40年前、50年前のジーンズが驚くほど高額な値段で取り引きされた。
その理由は「希少性が高い」からである。
ジーンズというアイテムで「希少性の高さ」がそれなりの価値と見なされるのはその当時の余韻が今でもわずかながら残っているからだろうと思う。
さて、今日は別の視点で考えてみたい。
ファッションブランドを構成する要素には
1、価格(高いか安いか)
2、品質(素材や縫製が良いか悪いか)
3、ファッション性・トレンド性(高いか低いか)
4、1型あたりの生産・販売数量(多いか少ないか)
の4つがあると思う。
ユニクロはこの4つだと
価格は安い
品質はそこそこ良い
ファッション性・トレンド性は低い
販売数量は多い
という性質を持つブランドだと世間的に認知されているし、ユニクロ側もそれを目指してきたはずである。
とくに価格の安さと品質の高さを重視し、それを実現するために販売数量を多く、ファッション性を低くした。
トレンドに過度に対応せずに品番数を絞り込み、その分、1型あたりの生産数量を驚異的に増やすことで価格を安くし、品質を高めたというのがユニクロの基本的なビジネスモデルである。
反対に言えば、価格の安さと品質の高さを実現させるためには1型あたりの生産・販売数量は極めて多くなくてはならないといえる。そのためには過度なファッション性・トレンド性は不要だったということになる。
これがZARAならモデルが異なる。
価格はそこそこ高い
品質はまあまあ、悪くはない程度
ファッション性・トレンド性は高い
1型あたりの製造・販売量はそれほど多くない
となる。
ファッション性・トレンド性を最重視し、そのために1型あたりの製造・販売量を少なくし、高回転で新商品を次々と投入するというスタイルである。
当然価格はユニクロほど安くは抑えられない。
筆者が今回言いたいのは、ジーンズの「希少性」をアピールすることはユニクロの本来のビジネスモデルとは矛盾するのではないかということである。
希少性と低価格は両立できない割合が高い。
ここで以前にも引用した坪井さんのブログを振り返ってもらいたい。
「何かを取れば何かを失う」のが選択
http://ameblo.jp/tosboistudio/entry-11744125040.html
ウチは、安いですよ、でも、ボロいですよ。
ウチは、最先端のオシャレですよ、でも、来年は着れませんよ。
ウチは、最高のサービスで気持ち良くなりますよ、でも、高いですよ。
ウチは、いまセールですよ、でも、いつものように対応しませんよ。
ウチは、いろんなモノがあって選べますよ、でも、専門知識はないですよ。
ウチは、フレンドリーですよ、でも客に対する態度はなってませんよ。
ウチは、探検気分が味わえますよ、でも何がどこにあるか分かりにくいですよ。
ウチは、商品保障は10年ありますよ、でも値引きはしませんよ。
ウチは、専門的ですよ、でも品揃えはそれ以外はないですよ。
ウチは、上得意さんを大事にしますよ、でも一見さんには冷たいですよ。
などなど、そういうことです。
何かを取ったら、何かは取れないのですから、自分は何を取って、何を手放すかの
意思を明確にしておくということです。
私が経営者さん達と話していて困るのは、
「専門的なんだけど、品揃えもたくさんある。」とか、
「売上も大事だが、粗利率も大事だ。」とか、
「高額商品も大事でが、低単価商品も負けたくない。」とか、
「探検気分を味わえるんだけど、クレンリネスも行き届かせたい。」とか、
「大型店なんだけど、小型店のような魅力」とか、
「どこよりも安いんだけど、どこよりも最高のサービスで」とか、
そういう
「走るんだけど、歩け。」
みたいな訳の分からないことを真顔で言われる時です(苦笑)。
訳が分かりません(笑)。
である。
今、ユニクロがしようとしている打ち出しはこれに近いと感じる。
「価格が安いですけど希少性があります」というのは、どう考えても矛盾に満ちた取り組みである。そこにユニクロブランドの根幹である「欠品させません」が加わると最早矛盾のカオス状態である。
低価格で希少性がある物を作るとする。
それは例えば、何年間もデッドストックになっていたような生地を二束三文で引き取って製造すれば良い。
しかし、そのデッドストック生地はあくまでもデッドストックであり、残っていた数量以上には存在しない。
当然、製造した100枚なり1000枚なり10000枚が完売した時点でお終いであり、次の企画に移らなくてはならない。
なぜなら同じ生地はもうこの世に存在しないからだ。
となると、形はそのままで素材は変えることになる。
その10000枚で売り切御免となり、その後は別生地品番としてまた10000枚を製造・販売することになる。
これはユニクロの根幹であるビジネスモデルではない。ZARAやH&Mに近いビジネスモデルである。
ユニクロサイドの気持ちはわからないではないが、希少性を謳うなら低価格と欠品させませんというスタイルは捨てざるを得ない。
また、欠品させないことを最重点課題とするなら希少性はすてるべきだろう。
低価格を最重視するなら希少性を謳うことは難しいだろう。
筆者はユニクロがすべてを手に入れようとする姿勢に対してちょっと危険な兆候を感じる。
まあ、人様の会社なので大きなお世話なのだろうけど。