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南充浩 オフィシャルブログ

GASが日本撤退 ~完全にコモディティ化したジーンズというアイテム~

2020年6月15日 ジーンズ 0

イタリアのジーンズブランド「GAS」の日本法人解散が決まった。

これによってGASジーンズは日本撤退となる。

 

イタリアのジーンズ「ガス」が日本撤退

帝国データバンクによると、イタリアのジーンズブランド「ガス(GAS)」を運営するGAS JAPANが4月30日に開催された株主総会で解散を決議した。

 

とある。

ジャパン社の創立は2006年とのことなので、今となっては懐かしいプレミアムジーンズブームの真っ最中ということになる。

 

国内のジーンズメーカーにとっては恩恵がほとんどなかったプレミアムジーンズブームは2005年~2007年がピークだった。これがジーンズの最後のブームとなったといえる。

2008年からスキニージーンズに切り替わっていくが、スキニージーンズの時代になると、一部の例外を除くと高額品はあまり注目されず、むしろ、低価格品がメインとなった。

これにはさまざまな理由があると考えられるが、一つには、スキニージーンズにはストレッチデニム生地が不可欠だが、このストレッチデニム生地は綿100%デニムで求められたような「風合い」は必要なく、綿紡績よりは合繊メーカー寄りの素材だったということが考えられる。

綿100%デニムがメインのころは、いわゆる、国内のデニム生地工場による「職人のナンタラ」とか「手作業wwのナンタラによる風合い」みたいなものが、95年のビンテージジーンズブーム以来、非常に重視され続けてきたのだが、合繊ライクなスキニージーンズブームによって、国内デニム生地工場を使う必要性が低下した。

すでに国内で使われる合繊の原糸は中国や台湾製がメインになっているし、細かい職人の云々が必要なければそのまま中国や台湾で作った生地を使って、中国で縫製し、洗い加工を施せばいいということになってしまう。もしくはトルコ製生地を中国やアセアンで縫製すればイイということになる。

その結果、製造コストが低まり、ユニクロを中心とする各低価格ブランドでも製造・仕入れが可能になった。

そして低価格な1990~4990円くらいのスキニーが広く普及することとなった。

スキニーを穿いていた女性、男性の多くは、ジーンズブランドが得意とするような細かなディテールの違いや本物志向には無縁であるため、一部のブランドを除くと高額なスキニージーンズはあまり売れなかった。

 

プレミアムジーンズブランドにストレッチ素材が皆無だったとはいわないが、すでに低価格化してしまった状況下で、2万円~3万円台という異様に高額なジーンズは、よほどのステイタス性を持った一部のブランド以外は急速に忘れ去られていった。

GASもその一つだったといえる。

実はGAS日本法人が解散し、日本から撤退するという噂は半年くらい前から耳にしていた。理由は売れ行き不振だからである。

逆に記事には書かれていないが本国だってそんなに順調ではないはずだ。

 

 

(ジャパン社の)13年12月期の売上高は約25億円。

 

とあるが、7年前のことで、2015年以降めっきり露出が減っていたため、直近の売上高はもっと低下していたと考えられる。

一時期はSafariなどのファッション雑誌に盛んに掲載されていたが2015年以降めっきり掲載されなくなった。恐らくは売上高低下のため、宣伝広告費も大幅に削られていたのだろうと思う。

当方もGASジーンズを扱っていた業者は顔見知りだったが、そういえば2015年か16年くらいからまったく接触がなくなった。

 

綿100%デニム生地が中心のころ、2008年以前は、正直に言ってユニクロでさえ、生地にはチープ感があった。いくらカイハラ製を謳ったところでナショナルブランドの8000円以上の商品で使われている生地に比べると、それこそ「風合い」とか「色合い」で見劣りした。

しかし、スキニージーンズ以降、とくにユニクロが発売したウルトラストレッチジーンズはトルコのISKO社の生地を採用しており、低価格でありながら肉厚でキックバック性が高かった。

当方も黒のウルトラストレッチスキニージーンズを持っているが、ジーユーの1990円ブラックスキニーと比べると生地の分厚さとストレッチ性の高さ、それから保持力は段違いである。

この商品が3990円なら、もうそれで十分だと思わせてくれるほどである。

 

こうなると、素材に蘊蓄を垂れて高額設定で販売するという「従来のジーンズ村」の手法はこと、スキニージーンズに関しては通用しなくなるのは当然だといえる。

 

先日、ある小規模な小売業者の経営者とお会いしたが、GASジーンズ日本撤退の知らせを受けて

「数年前に仕入れたことがあるが、恐ろしく品質が低かった。今のご時世、あれで3万円前後の価格では売れない」

とのことだった。

結局、この業者は、7割引きにして売り切ったという。

7割引きだからだいたい9000~1万円くらいで、それがGASのジーンズに対する今の我が国市場の評価であるといえる。

 

スキニーブームも2016年頃に完全終息したが、その後、やはり高額なジーンズが復権する様子はほとんど見られない。一時期どん底だったリーバイスが回復した程度だろうか。

理由は

 

1、若者のジーンズ離れ

2、80年代・バブル期ファッションのリバイバルで、フラットな風合いの空紡糸デニムが注目されている

3、製造のノウハウの長年の流出によって、どんなブランドでも相応のジーンズが製造できるようになった

 

という3点が大きいのではないかと思う。

補足しておくと、2の空紡糸デニムが注目されるとどうして高額ジーンズブランドが注目されないのかというと、80年代の空紡糸デニムというのは、コストダウンされているためである。低価格ブランドで採用しやすい。また、洗い加工を施しても、ビンテージ風デニム生地と違って、ヒゲやアタリは出にくい。いわば「のっぺり」と全体的に色落ちする。

かつてのビンテージジーンズだと、凝った洗い加工を施すことで、高価格化させることができたが、今のジーンズでは凝った洗い加工を施しても見え方がそれほどではないから、必然的に洗い加工も安い加工で済ませるようになり、なおさら低価格ブランドに適するということになる。

さらにいえば、今の若者は、ビンテージコテコテ感のあるヒゲやアタリ加工を好まない。

 

そして、長年の製造ノウハウの流出が続いたことで、低価格ブランドでも相応のジーンズが作れるようになってしまっている。

 

従来型のこだわり高価格ジーンズブランドは、数億円~十数億円レベルの小規模な売上高で利益率を追求するという運営方法しか残されていないだろう。そして、かつてのようなジーンズブームの再来はもう考えられないから、「従来のジーンズ村」は方針をアップデートすべきだろう。従来型の売り方では今後淘汰されるだけである。

 

 

そんなGASジーンズをどうぞ~

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