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南充浩 オフィシャルブログ

大量生産が前提の「川上」に支えられる零細・小規模な衣料品ブランド

2020年6月16日 製造加工業 0

年商1億円~30億円程度の小規模・零細なアパレルブランドが大量生産を避け、受注販売に特化することは悪いことではない。そんなブランドも数多く現れている。

それは彼らのビジネススタンスだから、当方は好まないので買わないが、それを欲しいと思っている人にそれなりの高値で売りつけることも悪いことではない。

そんな彼らのスタンスが、最近の過剰在庫問題についての一つの解決策であることも理解している。

しかし、違和感しか覚えないのは、そんな彼らが「過剰在庫=大量生産=悪」という画一的な図式を声高に叫んで、正当な大量生産までを否定しがちな部分である。

過剰在庫=悪かもしれないが、実際は過剰在庫は必ずしも大量生産とイコールではない。過剰在庫≠大量生産、大量生産≠悪である。

大量生産であっても売り切ってしまえば問題がない。それすらも否定するなら、服を新調するのは金持ちか貴族しかできなかった時代に戻るしかないし、その時代に戻ることが正義だともまったく思わない。

 

ユニクロの大ヒット商品ヒートテックは2003年に初登場したが初年度は150万枚が売れたと言われており、シーズン途中で完売となって品切れが続いた。

機会損失を招いたという点においては悪かもしれないが、これなんかは売り切れているわけだから例え150万枚という大量生産であってもまったく悪ではない。

 

 

アパレルメーカーや小売店、SPAブランドなどの過剰在庫体質を改革すべきだという意見がよく見られる。その根本的な思想は理解できるが、単にすべてを受注生産方式に移行すれば解決するとはまったく思わない。それこそマーチャンダイジングの精度を上げること、見切り処分を早く的確にすることで、不良在庫が何年も滞留することを防ぐべきだろう。

さらに言えば、アパレルメーカーやSPAブランド、小売店だけでは生産調整は難しい。ほぼ不可能ではないかと思っている。

なぜなら、「川上」と呼ばれる糸や生地製造の段階はとてつもない大ロットで動いているからである。

 

先日、某大手合繊メーカーの社員とお会いした。

インナー(いわゆる肌着系)向け担当の方だが、

 

「10万枚以下のロットは細かすぎてやりたくない」

 

という本音を聞けた。

 

ちまちまと50枚、100枚しか作っていない小規模ブランドの人からすると、あまりに壮大な数量過ぎて実感がわかないだろう。

多分、小規模ブランドの中には「1000枚くらいからやればいいじゃないですか」と思う人もいるだろう。

だが、生産設備や人員数、原料の確保などを考えると、この大手合繊メーカーにとっては10万枚以上が適正規模なのである。

そう、ちょうど小規模ブランドにとって1型50枚が適正規模であるのと同じである。

逆に川上から言わせれば「1型50枚なんてやめて1型1000枚くらい一気に作ればいいのに」ということになる。立場と視点を変えるとそうなる。

 

某零細ブランドの人が

 

「あるデニム生地メーカーに『5000メートルのオーダーをくれればオリジナルのデニム生地を生産してあげる』と言われました。数量が多すぎると思いませんか?」

 

と嘆いていたことがあった。

しかし、残念ながらデニム生地工場の立場とすれば5000メートルでオリジナルのデニム生地を作るには少なすぎる数量である。はっきり言えば、このデニム生地工場はかなり良心的といえる。

なぜ、5000メートルが必要かというと、デニム生地をオリジナルのブルーに染色するためには、ロープ染色を施さないといけないのだが、ロープ染色機でオリジナルのブルーに染色するには最低でも5000メートルくらいの量が必要になる。それ以下なら、オリジナルのブルーに染料を調合するのはひどいロスになる。だいたいデニム生地工場には一口にブルーと言っても数百色のブルーが存在するのだから、その中から零細ブランドはチョイスすれば良いだけの話であり、チンケな「オリジナル性」にこだわる必要性は皆無である。

5000メートルのデニム生地から100反の反物が作られる。100反のデニム生地から製造されるジーンズはだいたい2000~2500本ほどである。

2500本のジーンズを売りさばくことができるなら、オリジナルのブルーを作っても良いだろう。

 

しかも「川上」は我が国だけではなく、アジア各国に存在し、海外の「川上」は我が国の何倍もの大ロットである。

我が国の最大手デニム生地工場カイハラは、海外の大手デニム生地工場に比べると、その生産量は半分くらいでしかない。

 

そんな「各国の川上」をどうやってコントロールするつもりなのだろうか。チマチマと1枚・2枚の受注生産を受けながらエコガーと言っている間に、世界各国の「川上」では何万メートルもの生地や糸が生産されている。

それらをすべて停止させて糸作りや生地作りを家内制手工業に戻すなんてことはまったく現実的ではない。

 

そもそも、零細の受注生産ブランドが1か月未満の短期間で製造して購入者にお届けすることができるのは、糸や生地、副資材(ボタン、織りネーム、タグ、下げ札、ファスナー、ホックなどなど)、ミシン糸が常に大量に生産され備蓄されているからではないのか。

 

個々のブランドのスタンスとして完全受注生産に特化することはビジネスモデルの一つとして存在する意義はあるが、その自分たちのスタンスを業界全てに広げようとするのはエゴかポジショントークのどちらかでしかない。そして、皮肉にも短期間で生産納品ができているのは、「川上」の大量生産・大量販売システムに極度に依存し、守られているからだといえる。

 

 

 

そんなカイハラのデニム生地を使用したBMCのジーンズをどうぞ~

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