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南充浩 オフィシャルブログ

続・メディアの報道はあてにならないと思った話

2020年3月19日 メディア 1

先日、シティーヒルの経営破綻について「メディアの報道はあてにならない」と書いたが同じ時期にもう一つそう感じさせる事態があった。

シティーヒルの経営破綻に見るメディア報道の当てにならなさ

 

シティーヒルは2016年以降、ネット通販の成功企業の一つとして業界メディア、経済メディア、で急速に再注目された。

先日のブログにも書いたが、EC売上比率が高かったのは、ECを35店舗も持っていたからではないのか。シティーヒルのEC化比率は20%を越えていて、EC全体での年間売上高は30億円を越えていたはずだが、だとすると、各EC店舗の平均売上高は高くても1億円、低いと数千万円ということになる。

平均はあくまでも平均に過ぎないから、もっと売れていたEC店もあれば、もっと壊滅的に売れていなかったEC店もあっただろうということは簡単に想像できるが、そういう壊滅的に売れていなかったEC店を廃止しなかったのは経営者の判断ミスでしかない。

この体制では、店舗数をやみくもに増やしたからEC売上高が伸びたということになる。

 

小売店の場合、売上高を伸ばすことはそんなに難しくない。採算度外視で新規出店しまくれば実現できる。

シティーヒルの場合、実店舗137店舗で実店舗売上高が110億円内外(類推)、ネット通販が35店舗で売上高が30億円強(類推)なので、実店舗もECも採算度外視で出店しまくった結果として全社合計137億円の売上高(2019年2月期)を達成できたとしか考えられない。

シティーヒルは非上場企業なので業績の開示義務がない。そのためこれらのことを報道していたメディアはなかった。

メディアの報道だけを見ていたら、シティーヒルの経営破綻は突然に見えてしまう。「ラブストーリーは突然に」ならぬ「経営破綻は突然に」とでも歌わなくてはならない。

 

 

先日、トウキョウベースが「TOKYO BASE HONG KON G .Ltd」および「東百国際貿易(上海)有限公司」を連結子会社とすることを決議した。

トウキョウベースは2017年に香港に出店していたが、その運営をつかさどる会社はこれまで、連結されていなかった。

普段、製造業者や商社、OEMメーカーなどを回っていても、トウキョウベースの香港店が好調だという話はあまり聞いたことがなかった。

製造系の会社は「どこのブランドがたくさん作っている」とか「どこのブランドが売れていて追加生産している」という情報を広く共有している。そのため、その界隈で話題にならないブランドや店はどんなにメディアで褒められていても、実態が伴っていない場合がほとんどである。

 

しかし、メディアにはそう掲載されている。まったく実感できないのだが。

 

トウキョウベースの香港店が好調 強まる出店要請

https://senken.co.jp/posts/tokyobase-180619

 

セレクトショップを運営するトウキョウベース(東京)の香港店が好調だ。17年春にコーズウェイベイ路面に出店した「ステュディオス」(ST)はメンズだけで年間売上高が2億円弱。その近くに同年11月に出した「ユナイテッドトウキョウ」(UT)も月商2000万円ペースと上昇し、年間2億円超えの勢い

 

とある。

2018年6月19日掲載の記事である。

本当にそんなに売れていたのだろうか?当時からそんな疑問があったし、当方の周囲からも同様の声があった。

 

で、先日のトウキョウベースの発表した告知を見てみると、どうもこの「年間売上高2億円」というのは嘘ではないかと思える。

https://ssl4.eir-parts.net/doc/3415/tdnet/1807389/00.pdf

 

この当該会社の2018年2月期の売上高は、60,665千円とある。すなわち、6066万5000円である。

記事の掲載は2018年6月なので、5月か6月上旬に取材したとして年間売上高2億円とは相当に隔たっていることがわかる。

百歩譲って、2018年6月の記事なので、2019年2月期の業績予想だったとしても、件の告知によると、2019年2月期の売上高は126,326千円しかない。すなわち、1億2632万6000円である。年間売上高2億円には遠く及ばない。

この会社が年間売上高2億円にようやく到達したのは、2020年2月期のことで、2億183万8000円である。

 

シティーヒルは非上場企業だったが、トウキョウベースはれっきとした上場企業である。いくら連結対象ではなかったと言っても情報の開示ぶりが杜撰すぎるのではないか。

しかもこの会社は、2018年度から2020年度までずっと赤字続きである。

経常損益や当期損益は本業以外の要因で大きく左右されるので、ここが赤字でも仕方がない側面はあるのだが、本業の儲けを示す営業損益がずっと赤字続きなので、到底売れていたとは考えられない。

 

2018年2月期の営業損失は1722万8000円

2019年2月期の営業損失は1252万7000円

2020年2月期の営業損失は8570万9000円

 

であり、オープン当初の2018年2月期が営業赤字(もちろん、経常・当期も赤字)なのは仕方がないとして、2020年度は営業赤字幅が約5倍にも拡大している。これで本当に売れていたのだろうか?

もちろん、2019年2月期、2020年2月期ともに経常赤字、当期赤字であることは言うまでもない。

 

これを見ると、業界メディア、経済メディアの報道がいかに当てにならないかがよくわかる。

 

アパレル不況とよばれる中で、業界もメディアも「新ヒーロー」の登場を渇望している。しかし、さっそうと現れた新ヒーローが強敵を一撃で撃破するなんていうのは、漫画かアニメか特撮の中にしか存在しない。

マジンガーZがぼろクソにやられたミケーネ戦闘獣を、忽然として現れたグレートマジンガーが一瞬で撃破するようなことは現実世界では起こり得ない。

 

トウキョウベースの成長に期待をするのは個人の自由だが、メディアが褒めたたえてきた「新しさ」を当方はどこにも感じない。

販売員の押しの強さなんて、レリアンの販売員だけで十分だし、80年代のハウスマヌカン、90年代のカリスマ店員と一体何が違うのかわからない。新しさどころか、業界では30年前から見かけていた手法である。

またECだってZOZOTOWNに過剰依存し続けていることも疑問でしかない。

商品の平均価格が何万円かするようなセレクトショップ(疑似SPAも含む)業態が何百億円もの売り上げ規模に成長することは考えにくく、現在の100億円規模の売上高がほぼ限界点だろう。似たような異業態をたくさん出せば、その売上高合計として何百億円に到達することは不可能ではないと思うが、トウキョウベースの抱える各業態はどれもほぼ同じに見え、ビームスやユナイテッドアローズほどの各業態の区別が見えにくい。そのため、今のままではその方式で大きな売上高に到達することは不可能に近いと個人的には見ている。

個人的には、トウキョウベースは業界の「新ヒーロー」にも「新救世主」にもなり得ないと思っている。

 

 

ディテールが精密で可動域の広い(肩部分除く)HGグレートマジンガーのプラモデルをどうぞ~

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 comment
  • 愛読者 より: 2020/04/26(日) 1:51 PM

    こんにちは。

    長くブログを愛読させて頂いております。
    いつも大変勉強させて頂いており、アパレル業界でのキャリアの初期から読んでおりますので南充浩様のブログに育てて頂いております。

    ただ、誠に僭越ながら下記については認識が間違っていると感じましたのでコメントさせて頂きます。
    (当然のことながら人格や知識量について否定したい訳ではありません)

    >平均はあくまでも平均に過ぎないから、もっと売れていたEC店もあれば、
    >もっと壊滅的に売れていなかったEC店もあっただろうということは簡単に想像できるが、
    >そういう壊滅的に売れていなかったEC店を廃止しなかったのは経営者の判断ミスでしかない。
    >
    >この体制では、店舗数をやみくもに増やしたからEC売上高が伸びたということになる。
    >
    >小売店の場合、売上高を伸ばすことはそんなに難しくない。採算度外視で新規出店しまくれば実現できる。
    >
    >シティーヒルの場合、実店舗137店舗で実店舗売上高が110億円内外(類推)、
    >ネット通販が35店舗で売上高が30億円強(類推)なので、実店舗もECも採算度外視で出店しまくった結果として
    >全社合計137億円の売上高(2019年2月期)を達成できたとしか考えられない。

    結論から申しますと、以下です。

      ①ビジネス構造が違うため、同じECとはいえ店舗全てをごっちゃにして平均を考える意味はない
      ②EC10店舗もEC1000店舗も人件費(固定費)はほとんど変わらない
      ③出店できるECモールには出店していく(EC店舗を増やす)戦略は間違いとは言えない
      ④壊滅的に売れていなかったEC店を廃止する理由がない

    よって、『壊滅的に売れていなかったEC店を廃止しなかったのは経営者の判断ミス』ではなく、『(ECの)店舗数をやみくもに増やした』のは戦略として間違いとは言えないと考えます。

    ※シティーヒル及び文章内、本コメント内に登場する企業・サービスと私の間に特別な関係はありません。同業他社にてECを管轄するポジションで働いていただけです。

    ①ビジネス構造が違うため、同じECとはいえ店舗平均を考える意味はない

    (釈迦に説法かと思いますが)シティーヒルのような企業の場合、EC売上高のほとんどは自社ECとZOZOTOWNで構成されています。
    そして、売上高とEC店舗数は概ね以下のような構成になっているはずです(イメージです)。

      ex.) 自社EC(30%,1店舗) + ZOZOTOWN(40%,4店舗) + その他(30%,30店舗)

    おおまかなビジネス構造の違いは以下です。

      ・自社EC ⇒ 固定費高い、変動費低い、在庫は自社基幹倉庫に存在
      ・ZOZOTOWN ⇒ 固定費無し、変動費高い、(基本的には)在庫はZOZOTOWNに納品したものを販売
      ・その他 ⇒ 固定費無し、変動費高いが(多くの場合)ZOZOTOWNよりは低い、在庫は自社基幹倉庫に存在(納品も可能)

    その他のEC店舗(ex.marui,magaseek,locondo…etc)については、ほぼ変動費(販売手数料等)の支払いしか発生せず、また物理的な在庫の納品も(多くの場合)ありません。
    ECと一口にいっても事業構造が異なることと、(後述する理由も加えて)、店舗の平均を考える意味はありません。

    自社ECを複数運営しているのでればそれの平均を考える事には意味がありますが、『固定費のある自社EC』と『固定費のないその他EC店舗』を混ぜて平均を考える理由はないです。
    (リアル店舗⇔自社ECよりも、自社EC⇔その他ECの違いのほうがが大きいです)

    ②EC10店舗もEC1000店舗も人件費(固定費)はあまり変わらない

    現在ほとんどの企業が、その他EC店舗の維持運営には専用のシステムを導入しております。
    シティヒルの場合、記事中にもでてくるW’s PartnersのExlogというシステムを導入していたはずです。

    このシステムで商品・在庫・値段・受注・出荷といった情報を各EC店舗と連携しており、
    商品情報の公開から商品がユーザーの手に渡るまで、人の手が介する事はほぼありません。
    Exlogを含め各社ベンダーが提供するシステムの多くは、15前後のECモールと接続可能で、いわゆる一元管理が可能なものです。

    大元となるデータは自社EC運営を行っていれば必然的に用意されるものです。(商品情報、画像、在庫、他)

    同じECモールに複数ブランドを展開する場合、ECモール数 × ブランド数となりますので、35店舗というのはそれほど多くない印象です。

    システム利用料についてもW’s PartnersのExlogの場合従量課金となっており、売上に占める割合は1%~2%程度です(商材単価による)。
    私でも35程度のEC店舗でしたら単独で管理可能であり、EC10店舗もEC1000店舗もあまり変わりません。

    また、EC店舗数が増えたからと言ってそれぞれに在庫を預ける必要はなく、あくまでも『売れたら売れたものだけモールに出荷』し、売れた金額分の販売手数料を支払います。

    ③出店できるECモールには出店していく(EC店舗を増やす)戦略は間違いとは言えない

    D2Cを標榜する零細企業やUNIQLO等のグローバルブランドが自社ECオンリーで高い収益力を維持する等の戦略もありだと思いますが、多くの既存中堅アパレルの場合そもそも(リアル店舗においては)SCに大量のテナント賃料 + 販売手数料を支払っており、
    更に(ECにおいては)ZOZOTOWNに~35%程度の販売手数料を支払っています。
    言い換えれば独自に集客するノウハウを持たず、プラットフォーム依存のビジネスを展開しています。

    そのため、(ZOZOTOWNに出店しているのであれば)ZOZOTOWNよりも販売手数料が低く、かつ固定費の発生しないECモールには出店しない理由がありません。
    そのため、シティヒルに限らず多くのアパレル企業がEC店舗を限界まで増やしております。
    加えて、それぞれのECモールがそれぞれでユーザーを抱えているため、データを横流しするのみで出店する価値はそれなりにあり(リスクゼロ)、これが昨今のECモールの均質化(どこみても同じものが売っている)の要因です。

    その他ECモールへの大量出店は、例えるならマイナーミュージシャンでもiTunes以外に20~30程度の配信プラットフォームと契約する状況と似ています。
    仮にd music、レコチョク等を経由しての売上がそれほど大きくなかったとしても、固定費無し&手間なしであればやらない理由はないはずであり、現実にそうなっています。
    (経済条件が同等もしくは有利なら、iTunes以外で売れてはならない理由はないはずです)

    ※プラットフォームに依存しないビジネスへの転換云々~自社EC比率の向上云々~については否定しません。ZOZOTOWNに出店する戦略を採用するのであれば、その他ECモールにも出店するのは必然であり、それが10店舗であれ1000店舗であれ数そのものは問題にはならないということです。

    ④壊滅的に売れていなかったEC店を廃止する理由がない

    上述の通り、仮にマルイweb channel等の売上が月商100万円だろうと月商10万円だろうと、売れた分にのみ販売手数料がチャージされる仕組みなので、損益分岐点や採算を検討する必要がなく、一度出店したら退店する理由はありません。
    ※自社EC重視への戦略転換の為の退店はありえますが、壊滅的かどうかは関係ないです。
    ※固定費は全くゼロではないですが、あっても数千円~数万であり無視できるレベルです。低レベルのブランドでも固定費の回収難しいとかはあまり聞きません。

    リアル店舗の場合には人件費・家賃に代表される固定費があるので採算について入念な検討が必要であり、
    10→1000と店舗数が増加すれば比例して費用も増加しますし、店舗ビジネスの採算が合わなくなった場合のインパクトも100倍かと思います。
    ECの場合は単にシステムでデータを横流しするだけで出店と維持が可能なので、10→1000となっても発生するコストはせいぜい1.2倍とかそんなものです。何かが起きてEC全体の売上が半分になっても、退店する選択はほぼないです。

    ※ブランド全体としてビジネスが壊滅的だった場合にでさえ(であるならばなおさら)、大量出店は全然あり得る選択だと思います。

    以上となります。

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