鷲は羽ばたけず ~青山商事がアメリカンイーグルから撤退~
2019年6月10日 企業研究 0
業界では常々噂されていたが、ついに青山商事が国内のアメリカンイーグルから撤退することが決まった。
青山商事は7日、「アメリカンイーグル(AMERICAN EAGLE)」国内事業を米アメリカンイーグル アウトフィッターズ(AMERICAN EAGLE OUTFITTERS、以下、米アメリカンイーグル)へ譲渡する検討に入ったと発表した。最終合意に至った場合、米アメリカンイーグルとの契約期限である2022年2月を待たずに事業から撤退する。
とのことで、業界内の噂では、不振なので青山商事はもう何年も前からアメリカンイーグルを手放したがっていたといわれる。
日本1号店オープンは2012年4月末だったから、10年も持たなかったといえるが、オープン当初のことはよく覚えているから逆にもう7年も経ったの?という感想である。
今回はアメリカンイーグルの敗因と、紳士服チェーン店のカジュアル業態の苦戦について考えてみる。
1、アメリカンイーグルの敗因
関西でも何店舗かオープンし、当方が愛用する、あべのキューズモールにもオープンしたから定期的に覗いていたが売れている気配はまるでなかった。そもそもアメリカンイーグルで買わねばならない物などなかった。
当方はオッサンなのでメンズアイテム主体でいうと、アイテムがベーシックアメリカンカジュアル一辺倒だった。
ジーンズ、シャツ、Tシャツ、ポロシャツ、セーター、こんな程度でしかもデザインはどれもベーシックアメカジだった。それが悪いとは言わないが、ベーシックアメカジブランドなら最早、日本には掃いて捨てるほどある。アメリカブランドの雰囲気が欲しければ例えばGAPで事足りてしまう。
アメリカンイーグルに対する当方の印象は、GAPと似ている、である。
しかも価格は激安ではない。GAPの投げ売り商品の方がよほど激安である。上陸してからの月日はGAPが圧倒的に長く20年を越えている。
ということは、GAPの方が親しみがある上に、投げ売り商品は安いのだから、似ていて、馴染みが薄くそれほど価格メリットもないアメリカンイーグルは売れなくて当然だといえる。
そもそもどうしてこのブランドが日本で売れると思ったのか、そのあたりの判断基準がよくわからない。不振が続いたことも今回の撤退も当然の結果に見える。
また、アメリカンイーグルは華々しい第1号店オープンのあとは、あまり話題にならなかった。言ってしまえば「ニュースを作り出すこと」が下手くそだったといえる。
オープン当初はSNS時代を象徴するかのような施策があった。例えばこれ。
「AMERICAN EAGLE OUTFITTERS 日本1号店オープンに向け、PRアンバサダー77人募集」
https://www.fashion-press.net/news/3465
デニムを中心とするアメリカ発の人気カジュアルファッションブランド、「アメリカンイーグルアウトフィッターズ(AMERICAN EAGLE OUTFITTERS)」が、ソーシャルメディアキャンペーン「AEO77アンバサダープロジェクト」を2012年4月18日(水)の日本1号店オープンに向け開始する。
との内容で、これは朝の情報番組でも盛んに採りあげられていたからよく覚えている。
しかし、その後、パッタリとこの発信は見かけなくなった。もしかしたら続いていたのかもしれないが、当方のSNS上には上がってこなくなったし、アメリカンイーグルに対するニュースもほとんど報道されなくなった。
アンバサダーどこ行った?
先ほど挙げたようにGAPがあれば要らないと感じるブランドな上に、発信までが途絶えてしまえば、業績を拡大向上させることは不可能である。
アメリカンイーグルは負けるべくして負けたといえる。
2、紳士服チェーン店のカジュアル業態の苦戦と失敗
先ほど挙げた記事には、青山商事のカジュアル業態がなくなることも書かれている。
青山商事は今年2月にカジュアル業態「キャラジャ(CALAJA)を完全閉店するなど、カジュアル事業からの撤退を進めており、不調が続く主力の紳士服の立て直しに注力する方針だ。
とある。
いつ閉鎖されてもおかしくなかったキャラジャがようやく今年2月に閉鎖となった。
94年10月に1号店がオープンしたキャラジャは当初は順調に店舗数を増やしていた。94年というのはユニクロが中国地方以外へ拡大し始めた時期だからちょうどそれに追随したといえ、そういう着眼点というか機敏さは青山商事にはあった。
しかし、ユニクロとは水を開けられるばかりで、徐々に店舗数を減らし続け、2009年か2010年にたまたまロードサイドでキャラジャの店舗を見かけたが、「劣化版ユニクロ」みたいなブランドになってしまっており、「ああ、これは売れないな。回復することはない」と思ったことを覚えている。
で、最後の方には3~4店舗まで減らしていたが、こうなるとスケールメリットはゼロだから閉鎖は時間の問題だったといえる。
それにしても紳士服チェーン店各社は2000年代後半からカジュアル強化に乗り出しているがことごとく失敗している。
AOKIは2007年にカジュアル衣料専門店「マルフル」を買収している。しかし、その後鳴かず飛ばずでエムエックス名前を変えられ、AOKIに吸収されたあと、エムエックス自体が解散となって事実上消滅している。
また、はるやまは積極的に買収攻勢をして、トランスコンチネンツ、ストララッジョ、テットオム、イーブスを手に入れたが、すでにテットオムとイーブスの売却を今年発表している。またトランスコンチネンツも鳴かず飛ばずが続いている。
テットオムは岐阜本社のアパレル物流会社、ジーエフホールディングスに、イーブスは岐阜本社の低価格アパレルのBMホールディングスに売却されている。
まだトランスコンチネンツが残っているとはいえ、さっぱり名前を聞かないので勢いはまったくないのだろう。
こう見ると、青山、AOKI、はるやまという紳士服チェーン大手の3社ともにカジュアル強化は失敗に終わっているといえる。
2007年くらいから、スーツ需要が多かった団塊世代が定年退職を迎えはじめ、その時点からメンズスーツが売れなくなることは各社ともに予想していた。なにせ着用人口が激減するからだ。定年後完全リタイアしてもわざわざスーツを着る人はそんなにいない。
それゆえに各社は
1、カジュアル強化
2、レディーススーツ強化
3、異業種への進出
という3つの施策に取り組み始めた。
2のレディーススーツ強化はある程度成果があったといえるが飽和点に達している。3はAOKIのように結婚式場やカラオケボックスへの進出である。
しかし、1のカジュアル強化は3社そろって失敗している。
やはり、販売期間が長いメンズスーツというアイテムを長年扱ってきた会社や社員が、スーツに比べると販売期間が短く、小回りが求められるカジュアルアイテムを扱うことは、能力的に無理があったのだと当方は見ている。
さらにいえば、メンズスーツ(とくに紳士服チェーン店の商品)は「必需品」としての側面が強いが、カジュアルは低価格といえども「嗜好品」としての側面が強い。そこの落差が紳士服チェーン店各社がカジュアルに失敗した理由ではないか。
さて、紳士服チェーン店各社はカジュアル失敗で苦しくなってきた。レディーススーツの市場はあらかた獲得してしまったので、伸びしろは少ないだろう。結婚式場やカラオケなどの異業種への参入も競合他社が多いから容易ではないだろう。
「本業のメンズスーツを立て直す」という話だが、メンズスーツの着用人口が減っているうえに、職場のカジュアル化も進んでいるから立て直すことはかなり難しいだろう。
今後、各社がどのような施策を採るのか、外野から眺めていたいと思う。
そんなアメリカンイーグルの並行輸入品をどうぞ~