異業種がブランドを買収する背景
2019年3月26日 企業研究 0
アパレル業界は参入障壁が低いことで有名である。
どの業務をやるにしても国家免許が要らない。
供給過剰といわれている美容師だって歯科医だって国家資格が必要だが、アパレル業を始めるには何一つ必要ない。必要なのはカネだけである。
だからこそ、斜陽産業と呼ばれているにもかかわらず、新規参入があとを絶たない。
逆に斜陽産業だから、これまであったそれなりに有名なブランドがそういう新規参入へ売却されることが続いている。
2005年頃、関西を中心とする「クリアー」という人気セレクトショップがあった。ヴィクという会社が運営していたが、ヴィク自体はもともとはアメリカ村でサンヴィレッジという有名ジーンズショップを運営しており、クリアーは後発で開発された業態だった。
人気だったものの、その後、振るわなくなり、ついには全店閉鎖になってしまった。
そこに至る経緯や内情は省略する。
クリアーは2014年秋に、商標権を買ったOEM企業が復活させた。
それから4年半が経過したが、正直なところ、店頭を見ると上手く行っていないように見える。定価がだいたい1900~5900円と安めだし、そこからさらに毎月ほど「安売りセール」を行っている。
以前のクリアーは少し高めでステイタス性があったが、今のクリアーは低価格ブランドの一つになっている。
詳しい財務状況がわからないながら、傍から見ていて「このまま安売り屋を続けていて大丈夫なのか?」と心配になってしまう。
先日、はるやまホールディングスが「テットオム」と「イーブス」の2ブランドの売却を発表した。
はるやまHDが子会社テット・オムを売却
https://www.wwdjapan.com/833558
紳士服のはるやまホールディングス(HD)は22日、子会社のテット・オム(東京、山本剛士社長)の全株式をアパレル物流のジーエフホールディングス(東京、児玉和宏社長)の子会社に売却すると発表した。売却価格は非公表。
とのことである。
はるやまHDは事業の選択と集中で経営効率を高める。
とあるが、3~5年前に様々な不振ブランドを複数買収しておいて、今更「選択と集中」とは何を言っているのかと笑える。最初から「選択と集中」をしておけよという話だ。
そしてもう一つ。こちらはなぜかあまり大々的に報道されなかったが、
はるやまHD、100%子会社BASEの全事業を譲渡
https://www.excite.co.jp/news/article/Fisco_00093500_20190220_006/
100%子会社株式会社BASEが営む衣料品及びその関連洋品の販売事業の株式会社BMホールディングス新設予定子会社への譲渡を決定した。
BMホールディングスは、カジュアルウェア、ラウンジウェアなどの企画・製造・卸販売を中核事業とする株式会社ブルーメイトの持株会社。
BASEという社名は聞きなれない方が多いが、これは遊心クリエイションが解散後、譲り受けた「イーブス」を運営する会社である。
たった3年ほどで手放すことになったのだからよほど不振だったのではないかと思われる。それにしても2月の記事だがどうして業界ウェブメディアはあまり報道しないのだろうか?誰かに忖度しているのだろうか?
またこれも今年2月に発表されている。
マークスタイラーが「パメオ ポーズ」を事業移管
https://www.wwdjapan.com/811647
マークスタイラーは、ウィメンズブランド「パメオ ポーズ(PAMEO POSE)」を2019年3月1日付でタニモト(岡山市、谷本昌宏社長)に事業移管する。移管に伴い「パメオ ポーズ」の一部を除いた事業部員および販売員はタニモトに移籍する。またECはタニモトからの委託として、マークスタイラーのECサイト「ランウェイチャンネル(RUNWAY CHANNEL)」で引き続き販売する。
とのことで、タニモトとは業界でも聞きなれない社名だが、企画生産や問屋的な機能の会社だとのことで、ちゃんとしたブランドを所有するのは恐らく初めてのことになるのではないかと思う。
2010年頃までは、アパレルからアパレルへというブランド譲渡がほとんどだった。一部に、再生屋への譲渡はあったが。
しかし、今年に入ってのブランド譲渡は、イーブスを譲り受ける岐阜のBMホールディングスが量販店向けアパレルであることを除けば、テットオムが物流会社、パメオポーズが裏方企業への譲渡である。
4年半前にクリアーの商標を買収したのがOEM屋だったことを合わせると、不採算ブランドや小規模ブランドをアパレル以外の企業が買収するケースが増えてきたように感じる。
アパレルブランドを運営するには、先にも書いたように特別な資格は何も必要としない。むしろカネさえあれば誰でも参入できる。しかし、安定して運営するにはそれなりのノウハウが必要となるが、OEM屋や問屋は衣料品業界といえども、ブランドビジネスのノウハウは欠けている場合が多い。クリアーの低価格路線はそれを実証しているといえるのではないかと思う。
テットオムに至っては物流会社に売却されている。ここも恐らく、アパレル物流に関してはエキスパートだが、ブランド運営のノウハウはないと考えられる。
アパレルがブランドを買わなくなった理由としては、企業体力が弱っているから、不振ブランドを立て直す労力や小規模ブランドを成長させる労力を惜しむのだろうと考えられる。
その一方で、OEM屋や問屋、物流会社が不振ブランドや小規模ブランドを買収するのは、参入障壁の低さに加え、やはり「ブランドビジネス」というものへの憧れがあるのではないかと思う。
いまだに「アパレル関係の仕事をしています」といえば、胡散臭い目で見られるにせよ「最先端のビジネスですね」と返してくる他業界の方が多くいる。
業界内部にいれば「どこが最先端なのか。ひどく属人的でアナログな世界なのに」と苦笑するほかないが、そういうイメージを持っている他業界の人はいまだに少なからずいると感じさせられる。
それゆえに、これらのブランドをアパレル以外の企業が買収するようになっているのではないかと思う。
しかし、ブランド運営に資格は何も必要としないが、特別なノウハウは求められる。異業種の参入は今後もあとを絶たないだろうが、安定的にブランドを運営できる異業種企業は、今後も恐らくほとんど出てこないのではないかと思う。
そんなテットオムのトラベラーズジャケットをどうぞ~