ネット通販の普及で「ストロー効果」が起きる?
2019年3月25日 ネット通販 0
EC、いわゆるネット通販をめぐる議論を見ていると、多くのアパレルが既存店売上高にネット通販の売上高分がプラスオンされると考えているように感じる。
しかし、それは一部の強いブランドだけであり、通常のそこら辺の平凡なブランドは、既存店売上高が幾分削れて、その分ネット通販売上高が伸びるだけに終わる。
ウェブ関連会社は、ECと実店舗はカニバリズムを起こさないとして、その根拠にユナイテッドアローズなどの人気ブランドを挙げるが、実はそちらの方が例外であると考えた方が平凡なブランドにとっては安全だといえる。
ユナイテッドアローズなどの人気店、とくに各地方すべてに出店しているわけではないようなブランドだと、ネット通販ができたことでそれまで近隣に店がなかった地域の消費者が購入する可能性が増える。
その分、売上高はプラスオンされる。
だから既存店が現状維持となり、ネット通販の売上高は純増するというモデルになる。
しかし、その分は必ずどこかから削られているわけで、削られているのは各地方の小規模なブティックや専門店ではないかと考えられる。
おわかりだろうか。
ネット通販が普及していない2005年頃までは、
「人気のあのブランドほしいけど、近所にないなあ。だから近くの専門店で売ってる似たようなあれにしておこうか」
という需要が確実にあった。
もちろんカタログ通販という手はあって、マルイのカタログ通販が伸びたのはそこには地元にない人気ブランドが掲載されていたからではないかと思う。
交通事情が今よりも悪かった70年代・80年代はもっとそういう需要があったのではないかと思う。だから地方の小型専門店がそれなりに潤っていたのではないか。
関西でいえば、大阪市内に出るのに時間がかかるから、地元のわけのわからん専門店で買う人が多かった。しかし、自動車が普及し、快速や急行などの電車の本数が増えればどうだろうか。
地元のわけのわからん専門店で買わずに、梅田や心斎橋の有名店に足を延ばしてそこで買うようになる。
奈良や和歌山で買わずに大阪市内で買うようになる。
なぜなら、大阪市内の方が数多くのブランドや商品が集積されているからだ。
近鉄八尾駅前に八尾西武があったが、近鉄八尾駅からは急行電車で20分弱で難波まで行ける。難波には巨大な高島屋大阪店がある。
だから電車通勤・通学している人にとっては八尾西武は要らなくなる。そして八尾西武は閉店した。
地元の駅前にある小じんまりした三信衣料よりも天王寺にある大型のライトオンの方が買いやすい。
交通網の発達によってこういうストロー効果が日本各地で生まれた。
高松で買うよりは明石海峡大橋を渡って神戸で買うというようになる。
ネット通販もそういうストロー効果があるのではないかと思う。
地元のわけのわからん店で代替品を買うよりは、ネットで憧れのユナイテッドアローズを買った方が良いと考える人が増える。
ユナイテッドアローズのない地域の人は特にそうなるだろう。
価格帯や店舗網は違うが、ユニクロも既存店舗数を維持したままでネット通販を増やしているのではない。徐々に実店舗数を減らしながら、その分ネット通販の売上高を増やしている。
とくにユニクロはネット通販への誘導を積極的に行っている。
1、店舗受け取りは送料無料
2、割引きクーポンがほぼネット通販専用になった
3、ゲームでネット専用の割引クーポンが当たる
などである。
クーポンの考え方は同じ会社なのにユニクロとジーユーは違っていて、ジーユーのクーポンはネットと実店舗両方で使えるし、買い物をするたびにポイントが貯まる。
一方、ユニクロはいくらたくさん買ってもポイントは貯まらないし、割引きクーポンはほぼネット専用になってしまった。
同じなのは店舗受け取りが送料無料というところだけである。
ユナイテッドアローズとかナノユニバースとかそういうセレクトショップ系だと、一点あたりの単価がまだ高いから送料無料になりやすい。5000円以上とか1万円以上のハードルはすぐにクリアできる。
しかし、ユニクロとジーユーの商品単価は低い。とくに当方のような値引き品ばかり買う人間にとっては、990円に値下がりしたTシャツを買うのに、400円も送料を払っていたら何のために買ったのかわからなくなる。
5000円以上は送料無料になるが、値引き品だけで5000円分を買おうとするとなかなか大変な量になってしまうし、要らない物を送料無料にするためにわざわざ買うのは馬鹿げている。
となると、店舗受け取りで送料無料を選ぶ。
これは全国に800店舗もあるユニクロだからこそできることだろう。(ジーユーで約400店舗)
郊外もそうだが、とりわけ都心一等地に店が多いことが無料店舗受け取りをやりやすくさせている。
ここが同じ800店舗あるワークマンや、1400店舗もあるが、都心一等地には店のないしまむらとの違いだといえる。
ワークマンも店舗受け取り無料だし、しまむらも少し形態は異なるが店舗受け取りシステムはある。それでも、人口の多い都心に関していえばユニクロ、ジーユーの利便性には遠く及んでいない。
自動車の普及と道路網の拡大、快速・急行電車の増発などで起きたストロー効果が、ネット通販ではそれがさらに大規模に起きる可能性があるということで、もしかしたらもう起こっているのかもしれない。
離島の不便な地域だってネット通販を使えば物が買える。送料無料にする手はいくらでもある。
四国の人が神戸まで足を延ばしても手に入らなかった商品がネット通販を使えば簡単に買える。
ネット通販とは、強力なブランドがさらに集客して強大になりやすい装置だといえるのではないか。もちろん、小規模ブランドが一発逆転はできるだろうが、それはよほど使い方の巧みな企業やブランドに限られるのではないか。漫然とサイトを更新し続けているだけでは逆転劇は絶対に生まれない。
ネット通販で薔薇色の未来を描けるのは一握りの強者だけなのではないかと思う。
そんなふうに思えてきた。
こんな本はどうかな?