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南充浩 オフィシャルブログ

物だけでは売れない

2013年2月8日 未分類 0

 アパレルやファッションブランドに所属する人の大部分は「洋服」が好きである。
そのため、服という「物」に仕事でもプライベートでも非常にこだわるという印象がある。

「物」へのこだわりは必要だが、それだけでは服は売れない。

ちょっと考えていただきたいのだが、すごくカッコイイデザインで、使用している生地も縫製の品質も高いブランドがある。そこそこ有名だが、世界中で知られているほど有名ではない。
このブランドの商品一式をだまって飾っておいて売れるだろうか。
おそらく売れない可能性の方が高い。

以前にも書いたことがあるが、「こだわりのあるブランド」なんていうのは掃いて捨てるほどある。
逆にいえば、ほとんどのブランドは何らかのこだわりを持っている。もしくはそのようにアピールしている。
でも一部を除いて大多数のブランドは売れ行きが悪い。
だから「こだわり」だけではダメなのであり、こだわりは標準装備だと思わねばならない。
こだわり+アルファが必要となる。

なじみの深いジーンズを例に出すなら、ビンテージ系ブランドも大手ナショナルブランドも何らかの「こだわり」商品を打ち出している。それでも各ジーンズブランドは決して好調ではない。
大手ナショナルブランドは苦戦しているし、ビンテージ系ブランドだって多くは15年間売上高は伸びていない。

百貨店の売れ行きが厳しいのはいろいろな要因があるだろうが、あの「おキレイ」なだけの陳列がダメなのではないかと思う。だいたい売り場にPOPがない。
あれでは黙って商品一式を並べているのと同じであろう。
「代わりに接客をする店員がいるじゃないか」という反論もあるが、今の消費者はのっけから店員にガンガン接客してほしいとは思っていない。
ちょっと見ただけで店員に寄って来られると何だかイヤな気持ちになる。
POPも認めないような百貨店の売り場は売れなくて当然だろう。

こんなことを言うと、嘆く業界人も多いかもしれないが、もはや「洋服」がカッコイイ時代ではない。
ファッションでカッコヨサを競う時代ではなくなっている。だからファッションに興味のない人々が増えたのではないだろうか。
高級な服、最新の服を着ていることがカッコイイと思われていた時代がほんの15年ほど前まであった。
DCブームもそうだろうし、ラグジュアリーブランドブームもそうだっただろう。
けれど今、DCは存在していないし、ラグジュアリーブランド市場もピーク時より激減している。

徹夜で並んで最新モデルを買ったり、援助交際をしてまでLVのロゴが入ったバッグを買うような行動がカッコイイとは誰も思わなくなった。

販促コンサルタントの藤村正宏さんのお言葉を借りるなら

「もう、ファッションが格好いい時代は終わった。
モノでアイデンティティを表現する時代ではない。
見た目の格好良さではなく、生き方が格好いいかどうかの時代です」

ということになる。

生き方というのも極端な表現だが、まあ、思想とか哲学とか考え方とか普段のライフスタイルとかそういうことに置き換えた方が分かりやすいのではないか。
それに見た目はカッコイイに越したことはない。
問題は、DCブランド(死語)やラグジュアリーブランドでなくとも「そこそこにまとまって見える」ブランドが増えたことである。

で、それとは違うということを「物」以外の部分でも見せないと、単なる価格競争になってしまう。
それがこの15年間の衣料品デフレの原因の一つではないのか。

最近、国内の若手デザイナーズブランドが純粋な「ファッション」だけではなく、カルチャーやホビーやエンターテイメントやアートや社会貢献などと融合した形で、コレクションを発表するのは、今まで書いてきたようなことを意識的にか無意識的にか感じ取っているからではないだろうか。
純粋に「ファッション」を打ち出さない若手ブランドが増えたことに対して批判もあるが、消費者のマインドを考えるなら、そういう打ち出しを行っても責められないと思うのだが。

そして、各ショップブランドでワークショップやトークショーが行われるのもそういうマインドとリンクしていると感じる。結局、洋服だけを並べても売れないから、ワークショップやトークショーで消費者が共感しやすいようにしているのではないか。

POPも無しに「おキレイ」に並べて、販売員が丁寧に接客すれば売れると考えるのは、「良い物だから並べていたら黙っていても売れる」と製造業者が考えるのと大して変わらないということになる。

今、価格競争をせずにファッション用品を売ろうと思うなら、卸売り型であれ、SPA型であれ、そういう部分を意識する必要がある。

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