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南充浩 オフィシャルブログ

高価でニッチな「本物」だけで良いのかな?

2013年1月22日 未分類 0

 先日、こんな記事について議論しておられるのをお見かけした。

本場結城紬の検査厳格化 生産履歴を全面記録
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG1202Q_S3A110C1CR8000/

茨城県結城市などの特産品で、生産技法が国の重要無形文化財に登録されている高級絹織物・結城紬(つむぎ)を代表する「本場結城紬」の検査基準が、2月から厳格化される。生産履歴を全面記録して類似品との違いを際立たせ、高級品としての価値を守るためで、茨城県と協議していた。

 本場結城紬検査協同組合関係者によると、製品の織り手が受検する際、染色したり糸を紡いだりした人など、生産に携わった全業者の登録番号の記入が義務化される。これまでなかった糸取り業者の記入欄が新設され、記入を徹底する。

とのことである。

これに対して「意図はわかるが、結城紬の本質を消費者に訴求する前に、文化財指定技術で作られた物だけが本物であとはニセモノという認識が強くなる。果たしてこれは産地の活性化になるのか?メーカーや小売がどんなに説明しても、本場結城紬以外はニセモノと解釈される」との意見を呈された着物関係者がおられた。

門外漢を承知で言わせていただくなら、その方のおっしゃりたいことには賛同できる。
普段、1反何十万円もするような和装生地には縁のない生活をしているが、着物というジャンルはこれだけ着用者が減っているのに、間口を広げる方向には動いていないのだなという感想を持った。

ある和装業界のコンサルタントによると、呉服小売市場規模が2800億円、レンタル着物市場が2000億円なのだそうだ。小売りとレンタルがほぼ拮抗している。6対4くらいの比率である。
この数字から推測すると、「着物を買うには高額すぎるし、何年かに1度しか着用しないからレンタルで済ませましょ」という消費者がかなり増えているのではないか。

先述の意見に対して業界からは「厳格に定めた本物を守る必要がある」という意味合いの反発があった。
もちろんこちらの意見も良く理解できる。

これって和装に限らず洋装向けの生地や、ほかの伝統産業でもよく見かける構図だなと思う。

ある伝統技法がある。それを簡易にしてコンテンポラリーなヒット商品が生まれる。
そうすると、それがあたかも本物の伝統技法そのもののように認識され、本場の方々の不満(?)が溜まる。

ひどく大雑把にまとめるとこんな感じだろうか。

着物の着用者が減り続けている原因に関しての個人的な感想をいうと、

まず製品の価格が高い
次に現在の生活スタイルに適していない

が挙げられると思う。

10万円の着物というと業界ではかなり低価格に分類される。
もちろん、洋装とは製造工程から生産ロットまで違うので一概に比べてはいけないのだが、それでも洋装に慣れきっている大多数の消費者からすると高い。
10万円のスーツといえばけっこうな高級品だし、10万円のコートといえばそれなりのステイタスである。
バーバリーやアクアスキュータム級のコートが買える。

現在の生活スタイルに適していないという指摘もある。
まず着物では自転車に乗れない。自動車の運転だってやれなくはないが、やりづらいだろう。
それを緩和するには、いわゆる着付けから解放された着こなしが必要になるのだが、それとて業界からは反発の声があるようだ。

例えば、上は短衣にして下はジーンズやスパッツを穿いたりすれば良いと思う。
足元だって歩きにくければブーツかスニーカーでも良いのではないかとも思う。
でもそういうハイブリッドなコーディネイトに反発の声があることも事実である。

ただ、門外漢から言わせてもらうと、価格を下げて着こなしの自由度を広げて、間口を広げないと着物の着用者はますます減るのではないかと感じられる。

閑話休題

先ほどの「本物」論争であるが、これは和装だけの話ではない。
大ごとにならないだけで、ジーンズだってスーツだってシャツだって各洋装アイテムにも同じ問題がある。
また、伝統産業の技法を活かした洋装ブランドにも同じ反発もある。

例えば、沖縄の染色技法「びんがら」を活かしたとされる某カジュアルブランドがある。
しかし、本場の方からすると「あれはびんがらではない」ということになる。

ジーンズだってそうで、トレンドブランドを捕まえて「こんな縫製ではジーンズとは呼べない」とおっしゃる方もいる。
最近のジーンズは生地が薄くなっている。定番でも12オンスくらいだろう。それに対して「定番デニム生地は13・5~14オンスでないと認めない」という意見もある。

そういえばツイードという生地もそうかもしれない。「本物のツイードはもっと固くて重い。最近みたいに柔らかくて軽いのはツイードではない」とおっしゃる方もいる。

しかし、物は考えようで、廉価版・簡易版のおかげでそれぞれのアイテムや技法や生地の知名度が高まっている部分も間違いなくある。

このあたりが難しいところで、本来は「簡易版・廉価版は入門編ですよ。本物は別にあります。そこもぜひ一度覗いてくださいね」というような案内が徹底できれば理想なのだろう。

理想を言うのはたやすいが、なかなか難しい問題である。

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