どれか一つの部品が欠けても洋服は製造できないということ
2019年2月7日 産地 1
業界のプロの方々ならこんなことをわざわざ書かずとも、とっくにご存知である。
ボタンやファスナー、芯地などの副資材が欠けても洋服は作れない。
以前に羽毛原料の価格高騰で、2019秋冬向けダウンジャケットが値上がりする可能性があると書いた。原料価格が確定するのは2月末とか3月上旬になるそうだが、原料価格が大幅に値下がりする可能性は少ないと見通す業者が多い。
これに加えて、現在、ファスナーの供給が足りず、各ブランドともかなりダウンジャケット類の製造を手配しにくい状況にあるという。
ファッション好きの方にはあまり受けが良くないYKKのファスナーだが、品質は世界的にもトップクラスで、B品を出したくないブランドは軒並みYKKを使っている。
圧倒的数量を作るユニクロもYKKのファスナーを使用している。
これはアパレル業界内で以前から言われていたことなのだが、YKKのファスナー製造は昼夜交代制で行われていると言われており、その昼間の製造ラインはほとんどがユニクロ向けで占められていると言われていた。
しかし、YKKはユニクロに依存することを自社の経営を守るうえで重要なことと考えているようで、それ以外のブランド用のファスナーを夜間ラインで製造していると言われてきた。
ところが、今秋冬に向けてはこの夜間の製造ラインもタイトになってきており、中小ブランドが危機感を募らせている。
夜間のラインの多くは、ノースフェイスのダウンジャケットが絶好調に推移してきたゴールドウィンがかなりを抑えたといわれている。
この2大勢力に抑えられて、中小規模のブランド用のファスナーは製造されにくいのだという。
ある小規模カジュアルメーカーの企画担当者は「ユニクロ・ゴールドウィン問題ですよ」と話していたのが印象的だった。
何が言いたいのかというと、羽毛原料はもとよりだが、ファスナーが供給されなければダウンジャケットは製造できないということで、普段あまり気にしない副資材が一つ欠けても洋服は製造されないということを改めて感じさせられた。
今回はたまたまダウンジャケットについてだが、同じことがもしかするとジーンズやワイシャツ、スーツなどほかのアイテムでも起きない可能性はない。
当方も普段はボタンやファスナーなどの副資材なんて、と軽く見ている部分もあったが、結局はそれがないと、いくら生地があろうが、型紙があろうが、有名デザイナーがデザインしようが洋服は完成しないのである。
業界に20年以上もいながら、こんな初歩的なことを当方は見落としていた。情けない限りである。
洋服を作るにおいては、普段あまり関係ないと思われている事柄も実は密接に関係している。
例えばダウンの場合だと、以前も書いたように羽毛原料の高騰が商品価格を跳ね上げそうな気配である。また、2011年には綿花価格が高騰して史上最高値を付けたため、翌年から2014年くらいまでは、多くのブランド綿100%製品を出さなく・出せなくなっていた。
綿100%製品を販売しようとすると大幅に販売価格を上げなくてはならなくなるからで、自信のある一握りのブランド以外は、価格維持を目的にポリエステルやナイロン混の製品を販売していた。
ウールも同様で2011年頃は高騰していたため、翌年から2年間くらいはウール100%のセーターは激減して、ウール・ナイロン混、ウール・アクリル混などが増えた。
それ以降、ウールの価格は一服していたのでまたウール100%製品が徐々に増えてきたが、これも昨年から高騰し始めているため、2019年秋冬商品は値上がりするか、ウール含有率を減らすか、のどちらかになるのではないかと思われる。
原料の価格や豊作・不作はここまで衣料品に影響を与えるのだが、実はそれ以外にも服の価格や製造数量を左右する要因はまだまだあるということで、今回はファスナーの供給がダウンジャケットの製造を左右している。
だから服作りは面白いというか難しいということだが、そういうことは一般消費者はもとより、もしかすると業界内でも知らない人は多いのではないかと思う。
そして、洋服はこのような事象に左右されながら作らざるを得ないため、よほどハンドリングに長けた人が身近にいない場合、商社に丸投げするのが最もラクだと考えられるのではないかと思う。
まあ、業界内からは「昔の商社の人は工場に頻繁に足を運んでいたが、最近ではそういう商社マンも減ってハンドリングが難しくなっている」という声も聞こえてくるのだが。(笑)
そうなると、どんどんと各工程で他社への丸投げが増えざるを得なくなり、産業として大丈夫なのかと思ってしまう。
ダウンジャケットに話を戻すと、北陸の合繊産地もひっ迫しており、染色キャパが減ったという声もある。そうなるとこれもダウンジャケットを製造しにくくする要因となっている。
ファッションの楽しさは強調されやすいが、当たり前のことだが、それだけでは服は作れない。原料とか副資材、生地製造などのすべてをある程度、俯瞰してトータルに把握しなくてはならないということである。
今秋冬のダウンジャケット製造は、現時点においてはなかなか厳しそうな状況にあるといえる。
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原料の価格や豊作不作が服の製造に影響与えるとか一般人には思いもよらなくて興味深かったです。
でも、昼のラインと夜のラインをユニクロとゴールドウィンが押さえるっていう表現は本当なんでしょうか?
金属系の加工業に従事してますが、量産品だと何日とか月とか単位で同じものを流し続けるのが普通だと思うので、昼夜で作るモノを替えるとは思えないです。単純に昼に出来る量をユニクロが確保して、夜に出来る量をゴールドウィンが確保したというなら分かりますが。