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南充浩 オフィシャルブログ

ヘップサンダルとヘボン式ローマ字とヘップバーン

2018年11月9日 考察 0

どの分野でもそうだが、その分野では「当たり前のこと」とされていることでも一般的には知られていないことは多い。
これは衣料品や繊維、ファッションに限らず、政治・経済・軍事・機械などを含めた世の中のすべてがそうである。
先日、「ラベンハム」ブランドで有名なキルティングジャケットの話題がツイッターで流れてきたときに、何気なく「元々は馬に着せるキルティングシートでしたよ」と返したところ、ファッション衣料品のプロたちが「知らなかった」と驚いたことにこっちが驚いた。
これは特別な知識でもなんでもなく、ファッション雑誌にも普通に掲載されている知識であり、昔のメンズクラブには1年間に何度も書かれたフレーズである。
こんなもんは専門的知識でもなんでもないが、それほどに全ての分野は専門知識の集合体だということだ。
先日、フォローされた方のNOTEを何気なく読んでいると、こんな投稿があった。
https://note.mu/neto_note/n/n829ff6d4ce74
奈良の方で履物の仕事をしておられるようだ。
ここで「ヘップ」について書かれている。「ヘップ」とは何かを知らない方も多いようだ。
「ヘップ」とはサンダルのことで「ヘップサンダル」とも呼ばれる。
梅田にある阪急メンズ館の隣の観覧車のあるファッションビルの名前ではない。
実は、阪急ファイブが「HEP FIVE」に名称変更されるとき、「ヘップ?なんだかサンダルみたいな呼び名にするんだな」と違和感を感じたが、その時点で「ヘップサンダル」という名称を知っている人は減っていたのだろう。

これが昔ながらのヘップサンダル


 
 
そのNOTEにも書かれているように若い人はヘップという呼び名を知らない。

私も沢山聞いて回りました。すると本当にご高齢の方にしか認知がないんですね。

とある。
当方も48歳でたしかに高齢だが、まださすがに高齢者には達していない。反対に子供のころから「ヘップ」という名前を知っていた。
それはたぶん、当方の実家が奈良だからかもしれない。
たしか、小学生のころの社会科の授業で奈良の特産品の中にヘップが含まれていたと記憶する。ヘップのほかには野球のグローブや墨、茶筅などがあったはずだ。
で、このNOTEの方も奈良でしかも履物の仕事をされているから、そのあたりで何となく親近感は感じる。ただし、イデオロギー的には当方とは合わないだろうなとも思う。(笑)
ところで、この「ヘップ」というなんとも間の抜けた名前はどこから来たのか。力が入らない「へ」という音に続いて、少しつまってから「プ」というこれまた気の抜けたような音になる。子供のころから「なんとも間抜けな名前だな」と思っていた。かっこよさはどこにもない。
そのNOTEに書かれてあるが、「ヘップ」とは「ヘップバーン」のことである。
オードリー・ヘップバーン主演の映画「ローマの休日」でヘップバーン演じるアン王女がローマの街でサンダルを見つけて履く。それでサンダルのことを日本では「ヘップ」と呼ぶようになった。
ヘップの語源がヘップバーンだとは知らなかった。略するにもほどがあるだろ。
昔の日本人の略語の作り方はどうも今とは異なっていて、ステイプルファイバーをスフ糸と略すなんてその典型ではないかと思う。ステイプルの「ス」とファイバーの「フ」でスフ。小さい「ァ」はどこへ行った?
うーん、とんでもない略し方である。
ヘップもそれに近い。後ろの「バーン」をあっさり切り捨てている。
ちなみに、レディースカジュアルパンツ(要するにズボン)の名称であり、グンゼのストッキングのブランド名でもある「サブリナ」というのも、オードリー・ヘップバーン主演の映画「麗しのサブリナ」から採られている。
このことから考えると、ヘップもサブリナも日本の造語で、恐らくこの言葉は他国では通じない。
ヘップにしろ、サブリナにしろ、当時のオードリー・ヘップバーンの人気ぶりがわかる。
ところで、ヘップという言葉は奈良県人や奈良の履物業界の人にとっては当たり前の名称だが、広くは知られていない。とくに若い人にとっては死語である。
その名称の由来がオードリー・ヘップバーンであることなんて、さらに知られていないだろう。
これほどに、特定の人には「当たり前」のことが一般にとっては「当たり前ではない」のである。だから、業界の人は「当たり前やろ」と思っている基本的な知識でも、ブログなりなんなりで発信し続ける必要がある。
「当たり前のことを書いたら同業者から笑われる」
なんてことを言う産地のオッサンはけっこういるが、オッサンの客先は同業者なのだろうか。同業者ではないはずだ。じゃあ、同業者から笑われようが商売には関係ない。そんなものは無視すればイイ。
余談だが、当方は英語が苦手でアルファベットで書くのも苦手だし、会話なんてまったくできない。そんな当方は常々、アメリカ人は「ヘップバーン」とは発音しないのではないかと思っている。外れてたらゴメン。
最近ではあまり使わなくなった「ローマ字」だが、ローマ字表記に「ヘボン式」というのがある。
これを考案した人がヘボンさんだから「ヘボン式」というのは広く知られているが、このヘボンさんは正式にはジェームス・カーティス・ヘボンさんという。
アルファベットで表記すると、James Curtis Hepburn となる。
そしてオードリー・ヘップバーンをアルファベットで表記すると、 Audrey Hepburn となる。
両方とも同じファミリーネームである。
ヘボンさんはヘップバーンさんだったというわけである。だから、アメリカ人は限りなく「ヘボン」に近い発音で呼んでいるのではないかと思う。
それにしても、オードリー・ヘボンという表記になると何とも締まらないが、これもまた「当たり前だが知られていないこと」の一つではないかと思う。
 

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【有料記事】地方百貨店を再生したいなら「ファッション」を捨てよ
https://note.mu/minami_mitsuhiro/n/n56ba091fab93
2016年に行ってお蔵入りした三越伊勢丹HDの大西洋・前社長のインタビューも一部に流用しています

 
そんなわけでヘボンさん主演の「ローマの休日」をどうぞ
 

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