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南充浩 オフィシャルブログ

製造業の自社企画製品が売れにくい理由

2018年11月8日 考察 0

昔、といっても9年ほど前、ある繊維産地で産地合同ブランドなるものを見た。
正直に言って、生地自体は良かったが商品デザインはまるでダメだった。どうしてそういうことになるかというと、生地産地の人は生地の製造はプロだが、色柄も含めたデザインはプロではないからだ。
そして見た目のデザインが悪いのに、高い販売価格が設定されている。
これではだれも買わなくて当たり前だ。
まず、物を作るならターゲットを決めて、販路を決めなくてはならない。それを決めたら次は価格設定である。そしてデザイン。
この順番で決めていくべきだと思う。
例えば、若い女性に向けてという設定をするのに、老人が喜びそうなデザインにしたって無駄だ。
しかし、産地の人たちの商品作りを見ていると、
1、まずとりあえず何か作る
2、何を作るか決めずに「何か作ること」だけを決めているから、適当に今ブームの物を作る
3、専門のデザイナーに依頼せずにオッサンらが勝手にデザインするから不格好になる
4、専門のデザイナーに頼んだ場合、依頼の仕方が悪くて不適格だからピントのズレた商品デザインになる
5、原価を積み上げる方式で作るからやたらと高い物になる。
まあ、だいたいこの手順を踏んで失敗に終わる。個人的経験でいえば99%は失敗に終わっている。
どれもこれも改善しなくてはならないが、価格の問題も大きい。
いまだに「安物は悪」に凝り固まっている人もいるから処置なしだ。
 
先日、ある工場の社長と話した。自社製品も順調に売れているが、価格の問題は大きいという。
商材にもよるが、1万円台半ばを越える商品は衝動買いされにくいという。激安商品を除けば衝動買いしやすい価格は3000~9000円くらいだという。高くて1万円が限界である。
この体感は実は、当方の消費感覚に近いから、即座に飲み込めた。
実はその工場の社長も「自分が買いものするときはだいたいそういう感覚になる」とのことなので、これがマスゴミマスコミお得意の庶民感覚ではないかと思う。
しかし、一方で社長は「商品を作るときには、この材料でこの仕様で1万9000円なら安いやろと思ってしまう」ともいう。これは作り手感覚だろう。
この作り手感覚が悪いとは言わないが、その考え方での値段設定を広くマス層に受け入れさせることは難しい。
例えば売上高を5億円とかその程度に小さく設定してやるなら可能だが、高い商品をマス層に買わせようとすることは、至難の業だ。
それができているのは欧州ラグジュアリーブランドしかない。
産地の工場がラグジュアリーブランドと同等のプロモーションができるだろうか。当方はそんな産地企業は見たことがない。
ところが、産地企業は平気で

〇〇という高級糸を使って、〇〇という手の込んだ織り方をした生地を作って、その生地を〇〇という手の込んだ縫製をしたから5万円

みたいな価格設定を行う。これが原価積み上げ方式である。
某産地で2011年頃、国内で売れないから海外向けに高額品を作って輸出しようという思い付きが議題に上ったことがある。
ストールを5万円くらいで作って海外富裕層に売るという噴飯物の計画だ。
もちろん立ち消えになったが、実行していたらすさまじい赤字になっただろう。絶対に売れない。
まず、産地のオッサンがデザインしたモサっとしたデザインが支持されない。そしていくら富裕層とはいえ5万円のストールは買わない。これがラグジュアリーブランドなら話は別だが、〇〇産地ブランドなんて売れるはずもない。
しかし、これを他の物作り企業は笑えない。
ほとんど同じような考え方で商品を作って価格設定をしている。そして失敗している。
一方で、当方と交流のあるセメントプロデュースデザインはそういう考え方で商材は作らない。
産地の技法を生かしてデザインをするが、販売価格はギリギリ衝動買いできる範囲に抑える。抑えるために不要な工程や仕様は省く。
だからモノヅクリガーという人からすると許容できない商品ということになるが、実際にどちらが売れているかといえば、セメントプロデュースデザインの商品の方が売れている。
そうするとまたぞろ、モノヅクリガーとかホンモノガーが湧いて出るが、いくら本物でもデザインがダサくて高い商品なんて買いたい奴はごく少数のマニアしかいない。
だったらそのマニアに向けて売っていればいいだけのことなのに、そのマニアな嗜好をマス層に押し付けようとするから受け入れられない。
それだけのことだ。
物事は何でもそうで、マニアなり同好の士と価値観を共有してればよいのである。
先日、大阪の中崎町にJOJOバーなる「JOJOの奇妙な冒険」ファン向けのバーがあることを教えてもらった。そこに行くと、JOJOの話題で客同士が盛り上がるのだそうだ。
しかし、会社の飲み会とか取引先との懇親会で、JOJOの細かい話をしても盛り上がらないだろう。なぜならJOJOマニアでない人の方が多いからだ。にもかかわらず、一人でJOJOの細かい話をし続ければ、「あいつは変人」「あいつは変態」と見なされて敬遠される。
モノヅクリガーとかホンモノガーがやってることはそれと同じである。
取引先との懇親会で、「JOJO第5部のあのセリフ痺れましたね。なぜなら理由は云々で」と熱弁を振るっていることに等しい。一般人からしたら「なんのこっちゃ?」である。
いかに愚策かがお分かりになるだろう。
 
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【有料記事】地方百貨店を再生したいなら「ファッション」を捨てよ
https://note.mu/minami_mitsuhiro/n/n56ba091fab93
2016年に行ってお蔵入りした三越伊勢丹HDの大西洋・前社長のインタビューも一部に流用しています
 
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