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南充浩 オフィシャルブログ

「良い物を作っただけ」では売れない時代

2018年11月6日 ジーンズ 0

9月に阪神百貨店梅田本店の催事「デニム博」でお会いしたジーンズブランドの一つが11月で直営店を閉店するとのお知らせがあった。
直営店の閉店だけならちょっとした事業縮小だが、ブランドそのものも廃止になるとのことで、内情は詳しくないのだが、商況的に厳しかったのだろうと推察される。
先日お会いしたばかりなのでちょっと驚いてしまった。
ジーンズを主力アイテムとしたブランドなんて正直なところ掃いて捨てるほどある。総合スーパーの洋服平場からユニクロ、無印良品、ジーユー、GAP、リーバイス、エドウイン、ディーゼル、ヌーディージーンなどなど、1900円くらいから3万円までのあらゆる価格帯に著名ブランドがひしめきあっている。
岡山県・児島には中堅ブランドが多数あるが、そこから独立したブランドや新興ブランドなども多数あり、ジーンズアパレルが多数集まっている。
そこでそうしたブランドを集めた販売店の集積場所がジーンズストリートとして知られるようになった。いわゆる児島の地場産業としてはそれなりに盛り上がった部分がある。
とはいえ、東京都心や大阪都心で売れる金額に比べるとそれほど多額の売上高ではない。
独立組や新興組のブランドは、古くからある中堅ブランドに比べると、いわくありげな物作りのイメージを打ち出している。何となく凄そうだとは感じる。しかし、それだけでは売りにはつながらない。今回のブランド閉鎖がその一例だといえる。
細かい部分を見て行けばキリがないが、例えばユニクロの3990円ジーンズでもそれなりの見え方をする。後ろのポケットに「ユニクロ」とロゴマークが入っているわけではないから、黙って穿いていたらどこのブランドのジーンズかわからない。
これが90年頃だったら、ジャスコの平場にある1900円ジーンズなんてとても穿けた物ではなかった。なにせ、それを穿いていた当人が言うのだから間違いない。
ジャスコの1900円ジーンズはリーバイスの7900円ジーンズとは生地の風合い、シルエット、重厚さがまったく異なっていた。そもそもあれはデニム生地だったのかも不明だ。
だから低価格代替品にはなり得なかった。ところが今のユニクロにしろ無印良品にしろ立派に低価格代替品となる。
何もわざわざ、いわくありげな児島の高いジーンズを買う必要がない。
だから、「作っただけ」では売れない。高いジーンズを売りたいなら、「何か」を付加できなければ3990円の低価格代替品で十分である。またライトオンやジーンズメイトに行けば、リーバイスやエドウインの在庫品が3900円くらいに値下げされて売られているからそれを買ったっていい。
断っておくが、高いブランドを否定しているのではない。2000年頃までのように、いわくありげな高い物を作っただけでは売れる時代ではなくなっているということである。
ファッション雑誌が100万部も売れ、ファッション雑誌に掲載されて、タレントがテレビで着れば、それなりの数量が売れた時代では今はない。
これはジーンズに限ったことではなく、Tシャツだろうがセーターだろうがダウンジャケットだろうが、みんな同じである。
例えば、ヘビーオンスTシャツだって1900円くらいでユナイテッドアスレというブランドがある。またユニクロにもときどきヘビーオンスTシャツは店頭投入される。だいたい1500円くらいだ。
もちろん、細部を比べると違うが、そこまでこだわりのない人ならこの辺りのブランドのヘビーオンスTシャツで十分だろう。
少なくとも当方はそれで十分だ。
個人的に評価している「ナッツ」というブランドを企画製造販売している京都イージーというTシャツメーカーがある。
ネットだけで直販しており、日本製7オンスTシャツ、日本製6オンスTシャツなどがある。
価格は最低でも3900円。
Tシャツとしては高いが、高すぎることはない。
1万円とか5000円のTシャツに比べると安いが、ユニクロや無印良品のTシャツに比べると高い。それでも自社サイトだけで年間何千枚も販売し続けているのだから、やっぱりユニクロや無印良品とは違う「何か」を消費者に伝えられているのだろうと思う。
経済学者の猿真似をして「可処分所得ガー」と叫んでみたところで何の解決にもならない。高い物を作って売りたいなら売り方を考えるほかない。
衣料品業界には、先の「可処分所得ガー」も跋扈しているが、それ以上に、いまだに「良い物を作っていたら売れて当たり前」と考えている「モノヅクリガー」や「ヨイモノガー」も数多くいる。
もちろん、それは理想だが、これだけ洋服が溢れていれば、ブランドは埋没するし、物自体の差別化・独自化も簡単なことではない。機能性を訴求するという手はあるが、機能性の多くは素材メーカーに頼っているから、その素材メーカーはいずれ他社にも売ることになる。
例えば、トルコの最大手デニム生地工場・ISKOのハイキックストレッチデニム生地はあちこちのブランドで使用されている。カイタックファミリーでも使っているし、ビッグジョンでも使っている。生地は少しずつ異なるが、消費者から見ればどれもハイキックストレッチデニム生地であり、「めっちゃ伸び縮みする」ストレッチジーンズである。
このような状況で「物」だけで差別化・独自化するのは至難の業である。どのようにしてブランドのファンになってもらうかが重要だろう。
その打ち出しの一つの方法として「モノヅクリ」を強調することは間違いではないが、モノヅクリを強調しているブランドは星の数ほどある。またその中で名声が確立されているブランドもある。後発ブランドやこれから下克上を狙うブランドは「単なるモノヅクリ」の協調だけでは埋没してしまう。
児島のジーンズストリートに割拠するブランドも「モノヅクリ」一辺倒ではいずれは淘汰されるところも出てくるのではないか。
 

【告知】
11月24日に大阪でウェブコンテンツに関する有料トークショーを深地雅也氏と開催します。
https://eventon.jp/15080/
NOTEの有料記事もよろしくです

 

【有料記事】地方百貨店を再生したいなら「ファッション」を捨てよ
https://note.mu/minami_mitsuhiro/n/n56ba091fab93
2016年に行ってお蔵入りした三越伊勢丹HDの大西洋・前社長のインタビューも一部に流用しています

 
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