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南充浩 オフィシャルブログ

「若者のトレンド離れ」ではなく「ファッション業界の若者離れ」では?

2012年9月10日 未分類 0

 何でもかんでも「若者の○○離れ」で片づける風潮が強くうんざりするのだが、若者のたばこ離れから始まり、酒離れ、新聞離れ、テレビ離れあたりは良いとして、暴走族離れや海離れにまで至るともはや笑うしかない。

そんな中、「若者のトレンド離れ」という論考を見つけた。

<FBのNew Normal (新しい常態・新しい常識) ①> 「トレンド離れする若者たち」
http://yoko-ohara.com/archives/359

「トレンド離れする若者たち」はその代表的な潮流でしょう。日本では「ファッションのリーダーは若者」、とくに、服飾関連の専門学校や大学に通う学生の数が世界でも突出している日本は、クリエーターの予備軍としても、トレンドの牽引力としても、またファッション市場としても、若者が重要なポジションを占めてきました。

とある。
個人的に驚いたのが、ファッション専門学校に通学する生徒の総数は、15年前の2万3000人から、現在の1万2000人へと半減したと言われているが、それでも世界的に日本の生徒数は突出しているということである。
ファッション専門学校生の就職難が言われているが、一つにはカリキュラムの古さ、教える側の古さにも原因があるが、総数1万2000人程度で「世界でも突出した」と言われるなら、それは人員の供給過剰なのである。

日本のアパレル商品の「デフレ化」が叫ばれて久しいが、これももしかしたら商品量の供給過剰、ブランド数過多が原因の一つにあるのではないだろうか。

その若者たちが、以前のようにファッション、特にファッション・トレンドに興味を示さない。かつての若者が、デザイナー・ブランドにあこがれ、無理をしてでもトップ・ファッションを身につけようと努力したのと比べると、服飾を学ぶ学生ですら、最先端トレンドやクリエーションへの関心が薄れて、ファスト・ファッションやユニクロを愛用し、街の人気ショップで買ったもの、あるいは古着やリメイクものを身につけている。これは大変な変化です。もちろん、ユニクロもファスト・ファッションも、ファッションの重要な一部ですが、ファッション・トレンドの牽引力であった若者、特にファッションを職業にするために勉強している人達がこのように変化していることは、経済的に余裕がなくなった昨今の環境条件を差し引いても、若者の意識と価値観が明らかに変化していることを示すものでしょう。

とあり、さらに

あるデザイン学校の生徒に「TGCは何の略語か?」を尋ねたところ、80%以上が Tokyo Girls Collection と正解したのに対し、「コムデギャルソンのデザイナーは誰か?」の質問には、正解が10%以下だったそうです。かつてはファッション・デザインを学ぶ人の全てが憧れた川久保玲の名前を知らない、とは驚くばかりです。これは一体、進化なのか退化なのか、の問題提起もありました。

有名デザイナーやトレンドがファッション・ビジネスの全てではないことは言うまでもありません。しかし、これまでこの産業の中核であったデザイナー・ブランドやトレンドへの若者の関心が低下していることは、ファッション業界にある者にとっては、まさに驚きであり、将来への不安を掻き立てます。

と続く。

危惧や不安を正直に吐露していらっしゃることは伝わってくるが、それでも筆者には「古き良き時代を懐かしんでいるにすぎない」と感じられてしまう。

まず、トレンドっていうのは何を指しておられるのだろうか?
文脈からすると世界のトップメゾンブランドが毎シーズン提案するトレンドを指しておられるように感じる。
「トレンド離れ」というが、日本のアパレル業界にも毎シーズントレンドはそれなりに存在している。
例えば、レディースのポンチョはトレンドアイテムだろう。
一昨年秋冬から続いている息の長いトレンドアイテムである。

今秋冬はさすがに値崩れを起こしそうだが、それでも一定数量は売れそうなので「トレンド」であることは間違いないだろう。

今秋物の立ち上がりを見ていると、メンズ、レディースともにデニムシャツを多く目にする。
これも「トレンド」であろう。
2008年からジーンズが若者の間で売れていないが、これも「トレンド」である。

現代の若者にもそれなりに「トレンド」はある。

長らくデザイナー・ブランドやトレンドが産業の中核にあったと言われるが、日本においてデザイナーブランドが産業の中核だったことがあるのだろうか?売上高の規模で見るなら、小さすぎてとても中核とは思えない。
とくに中堅から若手といわれるデザイナーのブランドは売上高が極小であり、彼らは自分のブランドの売上高ではなく、大手アパレルの外注デザインを請け負って暮らしている。

某染工場社長によると、東京コレクションに連続出展している中堅ブランドでも年商は2000万円ほどしかないという。念のためにいうと年収ではなく、年商である。

彼らは製品を作らねばならないので、最初に製造費が必要となる。
アパレルやブランドは先にお金が出て行くのである。さらにコレクションショーを開催するには1回数百万円~一千万円の経費がかかる。どうやって資金をねん出しているのかと部外者でも不安になる。

文中に出ているコム・デ・ギャルソン以降、ビジネス的に大成功した日本のデザイナーブランドはお目にかかったことがない。
こういう現状で若者に「デザイナーズブランドに関心を持て」と言ってもなかなか関心は持てないのも不思議ではない。

さらに、トップブランドを着用しなくなったというのも自然な流れで、ユニクロの出現以来、低価格衣料のレベルは上がっている。ユニクロは低価格高品質だが、ファストファッションと呼ばれるブランドは低価格で高トレンドである。パっと見ただけでは、名のあるブランドとさほど遜色は無い。もちろん、縫製や素材は劣るが。
ならば、無理をしてトップブランドをそろえる必要も無い。これが自然な考え方だろう。

反対にトップブランドは品質が下がっている。百貨店ブランドでも原価率は20%を切るようになってきており、物によってはユニクロの原価と変わらない商品まである。
こういう状況でトップブランドに関心を持つはずがない。

結局、若者がだらしないのではなく、彼らがトップブランド、デザイナーブランド、トップブランドのトレンドに興味を示さなくなったのは、アパレル業界がふがいなかったからではないのだろうか。

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