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南充浩 オフィシャルブログ

「不射の射」に通じる?「売ろう」としない販売

2012年6月20日 未分類 0

 販売員がお客に声をかけるタイミングと、その文言は難しい。
個人的にはあまり付きまとわれるのもイヤだし、尋ねたいことがあるまで放っておいてほしいと思う。

しかし、量販店のテナントでかつて販売員をしていた立場としては、お客に何らかの声はかけないといけないことは理解している。
筆者が販売員だったころは、入店したお客に「いらっしゃませ」と声をかけて、しばらくしてから「よかったら試着してくださいね」とか「よかったら広げてご覧ください」というくらいに留めていた。
最近だと「いらっしゃませ」の代わりに「こんにちは」と声をかける店もある。GAPなんかがそうだ。

ちなみに女性販売員がアニメ声で「いらっしゃいまヘェ~」とリズムを付けて叫んでいるのは聞いているだけで寒くなる。(`Д´) ムキー!

先日、あるカジュアルチェーン店で、値下がりしている半袖シャツの値札をあれこれ見ていた。
要するにどれが一番安いかを比べていたわけである。(当然、その日に買うつもりはないv( ̄∇ ̄)v)
すると、男性店員が声をかけてきてくれた。この店は普段あまりうるさい接客をしないのだが、この店員は尋ねられてもいない素材の話を熱心に語り出した。

もちろん、態度は丁寧で彼に何の落ち度もないし「何とか売ろう」とする仕事熱心な態度も理解できるのだが、尋ねられてもいないのに素材の話を延々とするという手法にはあまり好感は持てなかった。
彼の戦術に問題があるということだろう。

とここまで書いて、昨日の日経ビジネスオンラインの記事が面白かったので紹介したい。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20120614/233353/

紳士服のはるやまを展開するはるやま商事が、岡山のロードサイドに新タイプのスーツショップ「HALSUIT」を出店して売り上げを伸ばしているという話である。
前年比70%増の売上高云々という箇所は、1店舗だけの話なのであまり過剰に反応する必要はないが、それでも都会的な売り場作りの店が、ロードサイドでも支持されているというのは注目に値する。

外観はまるで貨物コンテナのよう。
内装と陳列は、都心路面店のようにコンテンポラリーである。
よくあるロードサイド店みたいに垢ぬけないビジュアルではない。

この店には有名スタイリストに弟子入りしたスタイリストが数名常駐しているという。
「なんだ。またスタイリストかよ。(゚д゚)、ペッ」と筆者はここで眉に唾をつけ始めた。(実際に唾はつけていないが)
しかし、次の一文でそのスタイリストの効果が理解できた。以下に引用する。

「研修してわかったのがスタイリストの先生と我々の圧倒的な違い。当然ですが、スタイリストには売ろうという姿勢がまったくない。顧客のイメージを作ることがすべて。研修でいっしょにデパートに行っても、売り上げを上げようと思っていないから、説得力がある。それに比べ我々はどこかに“売ろう”という感情が入っているんですね。先生によく叱られました。『売りたいという気持ちが入ってる』と。しかしこの感情は、長年店頭で接客した我々にとっては消し去っても消し去っても雑草のごとく芽生えてくる。ここがHALSUITでの接客の最大のポイントだと思います」

 現在6名いるスタイリストはほとんどが社内公募で集められたという。通常のはるやまの店舗で接客していたスタッフにはたしかに“売る”“売りたい”という姿勢が身に付いている。それを消し去るのは並大抵のことではないだろう。

 スタイリストの一人、金井卓也氏はこう語る。
「先生にはいつも『お客様は買いたいと思えば買うのだから。売ろうと思ったら駄目』と言われていました。いまも売りたいとは思いますが、それ以上にお客様に喜んでいただきたいと思っています。というのもカウンセリングを受けて購入していかれるお客様の表情が明らかに違うのです。これは以前のはるやまの店舗では見たことがなかった表情です。

とのことである。

とかく、販売ノルマに追われて必要以上に「売ろう」としがちなのが洋服小売店である。
筆者などは、ちょっと奇抜な色柄を薦める販売員に対して「この色、在庫が多すぎて減らしたいから薦めているんちゃうの?」とひねくれて捉えることもしばしばだ。

しかし、これまでのような「ガツガツした接客」に対して抵抗感がある消費者も増えている。

今回のはるやまの取り組みは小売店の接客のあり方に対して、新しい事例となるのではないだろうか。

ただ、こういう取り組みはある程度資金が潤沢な大手企業だからこそできる部分もある。これをいかに中小企業向けにアレンジして取り込むかが、その企業やお店の「センス」ということになるのだろう。

売ろうとせずに売る。何だか弓の名人の「不射の射」の寓話みたいである。

ちなみにこの記事は後篇に続くので、後篇を読み終わったあとに改めて感想をまとめてみたい。

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