若手デザイナーは大手セレクトショップや百貨店との取引を志向すべきではない
2017年4月10日 デザイナー 0
昔は若手デザイナーと知り合う機会が多かった。
90年代後半は独立系デザイナーブームがあったから独立するデザイナーが多かった。
独立したデザイナーはだいたい同年輩か少し年上だったから、いろいろと話を聞いた。
オッサンになるとあまり知り合う機会がないし、こちらもあまり独立系デザイナーに興味がないから積極的に取材はしない。
それでもたまに知り合うこともある。
今、知り合うデザイナーたちは自分よりもはるかに年下で、中には自分の息子とさほど年齢の変わらない人もいる。(笑)
ビジネス的に上手く行っているデザイナーもいるが、大半以上の若手デザイナーは窮乏している。
40代前後のデザイナーでも上手くいっていない人が多いという感触がある。
さて、そんな中、先日、ある若手デザイナーと話す機会があった。
ちらっと販路についての意見を求められたのだが、やっぱり若いだけあって現実を把握できていないという印象を受けた。
若手デザイナーは、大手セレクトショップや有名百貨店との取引を目標に活動をしていたというのだが、残念ながらその目標が達成される可能性は極めて低い。
もし、同じ目標を持っていて窮乏している若手デザイナーがいるなら、その目標は変更すべきだとお伝えしたい。
なぜなら、大手セレクトショップも有名百貨店も若手デザイナーズブランドを積極的に取り入れられる体制にはなっていないからだ。
まず、大手セレクトショップから見て行こうか。
ユナイテッドアローズ、ビームス、ジャーナルスタンダード、エディフィス、ナノユニバース、トゥモローランドなどなどという大手セレクトショップがあるが、彼らは洋服に関しては自社企画製品比率が平均して8割から9割に達している。
よく、新聞記事などで「自社製品比率は7割」とか「6割」とか書かれているが、それは靴やバッグ、帽子などの雑貨を含めているから自社製品比率が下がっているのである。
靴やバッグ、帽子などの雑貨は他社からの仕入れブランドが多い。
一方、洋服に関しては8割以上が自社製品であり、仕入れ品はほんの1割程度しかない。
仕入れ品は「目玉商品」や「見せ玉」がほとんどで、主力となる売れ筋商品は自社製品である。
となると、さほど知名度のない若手デザイナーズブランドがその中に割って入ることは不可能に近い。
見せ玉は有名ブランド、著名ブランド、有力ブランドに決まっている。
極端な言い方をすると、「有名なあの〇〇ブランドの商品も並べている我がセレクトショップはオシャレな雰囲気でしょ?」とアピールするための「見せ玉」なのである。
これが無名なデザイナーズブランドに置き換わるはずがない。
大手セレクトショップ各社は、すでに疑似SPA業態になっている。この認識をしっかり持つべきである。
次に有名百貨店を見よう。
百貨店は商品を仕入れる際、買い取らず、ほとんどが委託販売であることは有名であり、事実である。
平場と呼ばれる売り場を委託商品で埋めている。
他方、平場以外は各ブランドの直営店がテナントとして入店している。
資本力に乏しい若手デザイナーズブランドが直営店を出店することは不可能である。
どこぞの金持ちを親族に持っているなら別だが。
つぎに、平場に仕入れてもらうにしても委託である。
そうすると、期末には売れ残った商品が返品される。
資本力に乏しいブランドがその返品に耐えられるだろうか。
有名百貨店と取引ができるとするなら、催事、ポップアップショップがせいぜいである。
ポップアップショップは1週間ほどの期間だし、売れ残ったらすべて返品されるとはいえ、投入する商品枚数も知れている。
売上高の3割から4割を百貨店にもっていかれるが、事前に出店費用を払う必要もない。
伊勢丹新宿店や阪急うめだ本店などの有名百貨店なら、ポップアップショップを開催することは宣伝広告の代わりにもなる。
だから開催しても損はない。
しかし、開催するなら、年1回か2回にとどめておくのが適切だろう。
年に5回も6回も開催すれば、儲けが少なくデザイナー側が疲弊してしまう。
なにせ売上高の3割から4割は百貨店にもっていかれるのだから。
また商品がその都度返品されるからその在庫を抱えるという危険もある。
さらに開催するためには商品が必要だからその分製造しなくてはならない。
製造すれば製造費が必要になる。
だから百貨店と付き合いたいなら、ポップアップショップを年に2回開催するのがせいぜいだろう。
若手デザイナーが卸売り先を探したいのであれば、以前に比べると随分と数は減ったが、地方の有力専門店にアプローチをかけるべきである。
地方の有力専門店も自社企画商品を作っているケースが増えたが、それでもまだ大手セレクトほどには疑似SPA化していない。十分に入るチャンスはある。
また百貨店のような委託販売ではなく買い取りの場合も多い。
地方の有力専門店は大手セレクトや百貨店ほど知名度がないから探しづらいかもしれないが、いろいろな人に教えてもらってアプローチをする必要がある。
いくら、作っている物が良かろうが、斬新であろうが、売り込む先を間違えれば1枚も売り場には並ばない。
業界の現実をしっかりと把握して、活動してもらいたい。