海外販売の少なさを問題にする前に、国内販売の少なさを問題にすべきでは?
2016年3月22日 考察 0
いわゆる「デザイナーズブランド」のことはよくわからない。
多少の交流のあるデザイナーもいるが、かと言って、その分野に親しみがあるとか、身近な物だとかいう印象はない。
ただ、ビジネスの観点で見ると、拡大するのはこの分野はなかなか難しいのだろうなという印象がある。
先日、こんな記事が掲載された。
記事というよりコラム、エッセイといったほうが良いだろうか。
ポテンシャルを生かしていない「まとふ」
http://www.fashionsnap.com/the-posts/2016-03-16/16aw-sichikawa-02/
なぜ「生かしていない」と主張するのかというと
しかし、同ブランドの服は、海外で殆ど売っていない。欧米はおろか、アジア諸国でも取引先はごくごく僅かである。需要はあると思うのだが、足元の国内で基盤を固めている。
とのことである。
要するに「海外でほとんど販売されていない」ことが残念だという主旨である。
この主張には首を傾げざるを得ない。
なぜかというと、「まとふ」というブランドは国内でもほとんど販売されていないからだ。
まとふの公式サイトによると、直営店が東京に1店あり、それ以外の国内店は卸売りを含めて5店舗しかない。
海外は1店舗である。
国内5店舗体制ではとても「基盤を固めている」とはいえないのではないか。
5店舗による年商はどれほどだろうか?
まさか5店舗がそろって年間1000万円もの仕入れをするとは思えない。
せいぜい、年間500万円が限度だろう。
なら卸売りも含む5店舗への年商は最大でも3000万円程度だろう。
熊本店はフルラインナップがそろうから年商規模はもっと大きいのかもしれないが、東京店と合わせても年商規模は最大でも5000万円くらいではないか。1億円を上回っていることは絶対にないだろう。
これで「基盤を固めている」といえるのだろうか。
今回は「まとふ」の記事が目についたので例に挙げたが、これが多くの国内デザイナーズブランドの現状ではないか。
国内の基盤すら脆弱なのに海外への販売が可能なはずがない。
逆に日本人は川上ショーン一郎氏の例もあるが、欧米への舶来コンプレックスが強い。
サカイのように欧米で名をはせてブランド力を逆輸入するという手は有効だと思うが、この規模の国内デザイナーズブランドがおいそれと欧米へ進出できるとは思えない。
ところが、国内もデザイナーズブランドは拡販しにくい状況にある。
売り上げ規模が小さいから小ロット生産になり、それ故に販売価格が高くなる。
たとえば、セーターが3万円とかコートが8万円~10万円とかである。
こういう価格帯の商品は「よほどの理由」がない限り、現在の日本では売りにくい。
10万円のコートというとけっこうな高額品であり、その価格帯には有名ブランドがひしめき合っている。
その有名ブランドとデザイナーズブランドが同じ価格帯であった場合、多くの人は有名ブランドを選ぶ。
三陽商会がライセンス生産していたころのバーバリーだと10万円でカジュアルコートがあった。
あまり有名ではないデザイナーズブランドとバーバリーのカジュアルコートとどちらを多くの人は選ぶだろうか。
おそらく9割くらいの人はバーバリーを選ぶはずだ。
筆者がもし10万円を持っていたら間違いなくデザイナーズブランドよりバーバリーを選ぶ。
好調が伝えられるデサントの水沢ダウンがちょうど8万円~12万円である。
筆者ならデザイナーズブランドのコートよりも水沢ダウンを買う。
いわゆるデザイナーズブランドを好む人口は限りなく少ないし、そしてその好む人たちの収入はどうかという問題もある。そういう人たちが中間層から富裕層でないとデザイナーズブランドという市場は成り立ちにくい。
もちろん成り立つブランドもあるが、それは少数で大部分が成り立たないということになる。
その少数の中にどれだけのブランドが入るかという厳しい生存競争が繰り広げられることになる。
消費者の収入は限られているから「全ブランドそろって共存共栄」なんてことはあり得ない。
そう思うと、この記事がいうように海外販売に注力した方が活路があるのかもしれない。
海外販売に注力というのは簡単だが実際にやるのは難しい。
成功するブランドもあるだろうが、失敗するブランドも多く発生するだろう。
でも記事の切り口として「海外販売がないことが惜しい」というのはどうかと思う。
国内ですら販売していないことの方が問題ではないか。そしてそれは多くのデザイナーズブランドに共通した問題点であり「まとふ」だけの問題ではない。