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南充浩 オフィシャルブログ

商品の同質化が深まれば価格競争は激化する

2016年3月18日 考察 0

 以前にも書いたことがあるが、筆者は大学を卒業してから2年半ほど洋服の販売員だった。
94年ごろに入社したその会社は、各店舗にPOSレジを設置していた。
22年前としては最新鋭の機種だっただろうと推測するのだが、本部へのデータ送信はインターネットではなく専用端末やら専用回線やらで行っていたという記憶がある。

今の若い人たちには想像できないだろうが、この当時インターネットは一般的には存在していなかった。

一般的に普及し始めたのは99年とか2000年ごろである。
ちなみに94年とか95年当時は携帯電話もない。
ポケベルの末期である。

携帯電話がないから待ち合わせはいつもちょっとスリルがあった。
本当に相手が時間通りに現れるのかどうか。

相手が予定通り来なかったら連絡を取り合う手段もない。
電車が遅れたとかくらいなら大したことはないが、もし相手が日にちを間違えていたらそれを確認修正するすべはない。
今から思うとみんなどうやって連絡を取り合っていたのか不思議だが、まあそんな時代だった。

このPOSレジの導入によって、それまで勘とどんぶり勘定に頼っていた売り場が、売れ筋をきちんと科学的に把握できるようになった。
人間の印象なんて実にいい加減なもので、インパクトの高い商品が1個売れただけでもそれを「売れている」と勘違いしてしまう。
実際に数量が出ているのは何の変哲もない長袖Tシャツだったりするのに。

この当時、気を付けて他社店舗のレジ周りを見ていたが、POSを導入していない店舗も多数あった。
そういう意味ではこの会社は量販店のテナントチェーンの割には進んでいたといえる。

その後、20年くらいはもうPOSレジには触っていないのだが、今は随分と進化しているのだそうだ。

単に売れた数量を品番・色別・サイズ別に把握できるだけでなく、次の売れ筋の予測機能まで搭載されているという。
蓄積されたデータによって、これが売れたから次はこれ、という予測をPOSがしてくれるわけである。

その情報を丸呑みにするかどうかは別として何とも便利な時代になったものだ。

先日、先輩業界紙記者と偶然会って、雑談をした。
2月、3月は展示会シーズン真っ最中だが、どのブランドの展示会でも提案アイテムがほぼ同じだという。
販路が同じならその傾向はますます強まるという。

例えば、百貨店向けキャリアミセスというジャンルなら、各社・各ブランドがこぞって同じ物を提案している状況にあるということになる。
落ち感のあるワイドパンツ+丈の長い羽織物、しかも色柄もほとんど変わらない。

そんな感じである。(あくまでも例)

もともとトレンドの情報源は各社同じなのだからある程度似るのは当然だが、2005年ごろまではそれでも各社ごとにアレンジしようという工夫はあったように感じる。
ブランド名を隠してしまえばどれも同じに見えるという状況ではなかったという記憶がある。

A社はワイドパンツにビビッドなカラーを差し込む
B社はワイドパンツにあえて柄物を投入する
C社はワイドパンツをあえて外してタイトなボトムスを提案する

というような状態だった。

筆者も記者時代よりも少なくなったとはいえ、展示会をいくつか見て回る。
各社の同質化はより深まっているように見える。

理由は様々あるだろうが、その中の一つにPOSへの過剰依存があるのではないかと感じる。
とくに予測機能まで搭載されていれば、そのデータに頼りっきりになるのは無理もない。
しかし、POSの予測だってプログラミングが同じなのだから、その結果もほとんど同じになる。

アパレル各社は売れゆきが苦しいから、確実に売れるものを欲しがり、冒険をしたがらない。

となると、POSデータが示す現在の売れ筋と予測データを丸呑みにしてしまうのも、当然といえば当然だろう。
突拍子もない斬新なアイテムの投入は失敗する可能性があるからどの会社もやりたくない。

かくして同質化はさらに進むというわけである。

いわゆる「実績主義」「前例主義」というやつである。
ちなみに、平安時代の貴族も「前例主義」にとらわれ過ぎ、力を失って武士の台頭を招いたとされているが、現在も平安時代も人間の心理はさほど変わらない。

しかし、商品の同質化が進めば、人は安い方の店で買う。
同じ物をわざわざ高い金を払って買いたい人間はよほどの金持ちくらいである。

そして価格競争がさらに進む。
安い物しか売れないと嘆いているアパレルは多いが、その原因の一端はアパレル側にもある。

POSへの過剰依存は危険だと思うのだが、これを修正することは容易ではないだろう。



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