中間業者の存在よりもアパレルの不可思議体制の方が問題
2015年12月11日 考察 0
工場の工賃上昇と、店頭での商品販売価格を値下げするためには「製造段階の中間業者追放で解決できる」とする風潮には疑問を感じる。
また「中間業者追放でブランドが工場とダイレクトにつながれて、国内製造業が立ち直る」という楽観論にも疑問を感じる。
OEM・ODM業者の存在が悪なのではなく、それを何重にも介在させるアパレル、ブランド側に問題があるということを昨日のブログで書いた。
製造段階の中間業者の存在が問題ではなく、アパレル側の使い方に問題がある
http://blog.livedoor.jp/minamimitsu00/archives/4542589.html
今日はその続きを書きたい。
工場の工賃を上げられず、店頭の値段も下げられないのは、根本的にアパレル、ブランド側の責任だと考えている。
特殊事例かもしれないがこんなこともある。
学生時代の同級生で繊維・アパレル業界に入社した人が何人かいる。
学生時代はさほど仲良くなかったが、社会にでて20年強過ぎると、さほどでもなかった彼らがやけに懐かしく思える。彼らも同様に感じてくれているのだろう。
道端で会うと立ち話をしてお互いの近況を報告する。
そんな中の一人に、そこそこの大手アパレルに15年くらい勤務して退職した人がいる。
そのそこそこの大手アパレルだが、一般的に知られていないが、企画製造した製品がいったん、創業者一族が経営する管理会社に納入され、その管理会社から改めて製品がアパレルへと卸されるという。
管理会社が3%を上乗せしてアパレルへ卸すのだそうだ。
製品の原価率は業界平均30%とされているので、30%だと仮定する。
このアパレルの年間売上高が1000億円だとするなら、製品原価は300億円ということになる。
この300億円の3%だと、管理会社の年間売上高は9億円になる。
3%の手数料というのは率でいうならそれほど大きくは見えないが実際の金額に換算するとかなり大きい。
年間売上高が5億円でも1500万円である。10億なら3000万円だ。
年間売上高が5億円とか10億円しかないアパレルにとっては、150万円くらいの金額ならどうということはないが、1500万円とか3000万円というとかなり大きい金額である。
これが例えば9億円近くあるとするなら、相当に大きいといえる。
この管理会社の3%を廃止するだけで、工賃の上昇か、店頭販売価格の引き下げくらいはできるだろう。
もしかしたら年間1億円程度の新規プロジェクトを立ち上げられるかもしれない。
これが特殊事例なのか他のアパレルにも似たような話があるのかはわからない。
しかし、このアパレルの場合は、OEM/ODMの締め出しとか、納入業者への値下げを画策する前に、この管理会社の取り分を減らすことの方が先決だろう。
管理会社を温存したままで、「中間業者の排除」とか「納入業者へさらなる値下げ」とか社員の首切りリストラなんてことを行うのは筋道がおかしい。
まず管理会社の取り分を減らす、もしくはこの管理会社を解散させることが最重要課題である。
今回は特定の1社の特殊事例かもしれないが、他にも似たような不可思議体制のアパレル企業はあるのではないか。
的外れな悪玉論をぶち上げる前にこういう不可思議体制をなくしていくべきであろう。
昨日にも書いたが、最早、現在のアパレルでOEM/ODMなしに製品を企画生産できる企業はほとんどない。
昨今人気の高いセレクトショップオリジナル品だが、あれだってすべてOEM/ODMをフル活用した産物である。
セレクトショップには基本的にデザイナーもパタンナーもいない。生産管理担当だっていない。
じゃあ、そんな企業がどうやって製品を企画生産しているのかというと、OEM・ODM、商社の製品製造部門によって実現できているのである。
中間業者を排除したらセレクトショップはオリジナル品を作れなくなる。
仕入れ比率が高い小規模セレクトショップならそうなってもほとんどダメージはないだろうが、ユナイテッドアローズやビームス、トゥモローランド、エディフィス、ジャーナルスタンダード、ナノユニバースなどの大手セレクトショップは大打撃を被る。
なにせ彼らの洋服の自社製品比率は最低でも7割を越えているからだ。
その7割の商材が作れなくなったら、企業自体がクラッシュするのは目に見えている。
ベンチャー企業やメディアは的外れな「中間業者排除」なんて風潮を煽るより先に、アパレル、ブランド側は自社の不可思議体制にメスを入れるべきである。
それを放置したまま、悪玉を作り上げて不満をぶつけたところで根本的には何一つ改善しない。