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南充浩 オフィシャルブログ

製造段階の中間業者の存在が問題ではなく、アパレル側の使い方に問題がある

2015年12月10日 考察 0

 釼英雄さんが「製造段階での中間業者追放が本当に良いことなのか?」と疑問を投げかけておられる。

http://blog.goo.ne.jp/souhaits225/e/3d844c84d9fae2df87934a3568ff65d9

熊本日日新聞に掲載されたシタテルの記事についてである。
シタテルはブランドと縫製工場を直でつなぐというビジネスモデルを掲げているベンチャー企業である。

ファクトリエやヌッテなどとも根本的な主旨は同じだが、ファクトリエの場合は国内工場にこだわるのと、どちらかというと小ロット生産によって希少性を高めるという手法を採るのに対して、シタテルは海外の縫製工場も取り込み、量産体制を視野に入れているという違いがある。

ヌッテは個人の縫製師やサンプル縫製工場の組織化を目指している。

これらの取り組みはそれぞれ意義のあることだとは思うが、共通するキーワードは「製造段階での中間業者を排除する」である。

これについて以前にも書いたが、もう一度まとめなおしてみたい。

一般的に製造段階の中間業者というのは、OEM(生産請負)、ODM(デザインからの生産請負)が挙げられる。
最近では一時期OBM(ブランド構築も含めた生産請負)なんて言葉もあったが、OBMなんて究極の丸投げであり、逆にいうとこれを依頼するブランドホルダー企業はどれだけ恥知らずなのかと思ってしまう。

当然、OEMにせよODMにせよ、製造原価には彼らのマージンがプラスアルファされている。
そうでなければ彼らは収益にならない。

このマージンがあるために工賃が低く抑えられ、一方で店頭販売価格は下げられないのだというのが「中間業者排除」の理屈である。

たしかに一面的には正しい。

しかし、ブランド側が直接に国内の縫製工場と繋がるのは多大な労力が必要とされる。
OEM、ODMに頼りっぱなしのブランド企画担当者はそんな知識はまるでないのだろうけど。

例えば、ジーンズを例にとる。

ジーンズを国内縫製工場に依頼する際、革パッチ、リベット、ファスナー、ボタンなどの副資材を数量分集めてそれを縫製工場に送るのは、ブランド側の仕事である。

100本なら100本分の革パッチ、リベット、ファスナー、ボタンをブランド側が集めてそれをブランド側が縫製工場へ送付するのである。

ところがOEM、ODMに依頼するなら、そういう作業からすべてブランド側は解放される。
それはOEM、ODMが担当するからだ。
オマケに生産管理もしてもらえる。
下手をするとデニム生地の買い付け・仕入れまで任せることができる。

ブランド側がするのは生地の指定、副資材の指定、納期の設定くらいである。
あとは電話とメールとファックスでOEM・ODM窓口とやり取りすれば良い。

これだけの仕事を任せていて「そのマージンが惜しい」というのはあまりにも身勝手であろう。

さらに言えば、国内の縫製工場は本当に「ジーンズを縫製するだけ」であり、ボタンホールのカガリはまた別の工場が担当する。
直でやる場合はその作業指示もブランド側がやるのである。

あと、ジーンズの洗い加工場も国内では別である。
その指示も必要だ。

中間業者排除を謳っているブランド担当者はこれらすべてを自分でこなす覚悟があるのだろうか。

中国工場の大手や中堅ならこれらを工場に一括して任せることができる場合がある。
縫製から洗い加工までの一貫工場もあるし、窓口担当みたいな人がいて、副資材や生地の手配まで行ってくれることもある。
こちらの方こそ、パイプが太ければブランドが直につながれる可能性が国内工場よりも高い。

自前のデザイナーも生産管理担当者もコスト削減のために排除したようなアパレル企業は、OEM、ODMに頼らざるを得ないのが実情である。

しかし、製造段階での中間業者が問題であることも事実である。

なぜ問題かというと、OEM・ODM業者が1社介在しているくらいならさほどの問題はない。
問題は何重にもそれが介在しているからである。
当然、それぞれの業者がマージンを取るわけだから、製造原価を圧迫するか、それを吸収するために店頭販売価格を上げるかのどちらかである。もしくはその両方か。

これが問題なのである。

「OEM業者向けのODM」とか「ODM業者向けのOEM」とか、そんなわけのわからない多重構造がざらにある。
さらに謎のブローカーやらアドバイザーやらがそこに介在しているケースもあり、それぞれにマージンが支払われる。
この構造が問題なのであってODM業者やOEM業者の存在自体が問題なのではない。

今更、それらを完全に排除して全アパレルブランド内にデザイナーとパタンナーと生産管理担当者を抱えるなんてことは疲弊しきったアパレル企業にできるはずもない。

そして何重にも介在する謎のブローカーやらアドバイザーやら名ばかりコンサルタントの多くは、アパレル側が用意している。
彼らはアパレルの社長のお友達だったりかつての上司だったり、親族だったりする。
ブローカーやアドバイザーを何重にも介在させている元凶は決してOEM業者でもODM業者でも商社の生産担当者でもない。アパレル側そのものである。

本当に中間業者を排除して無駄な出費を省きたいなら、アパレル側がわけのわからないブローカーやらアドバイザーやら名ばかりコンサルタントを排除すべきである。

これができずして何が「中間業者排除」なのか。

また「ODM業者のためのOEM」とか「OEM業者のためのODM」なんていうわけのわからない過程が発生する一因はアパレル側にもある。

いわばお抱えのOEM/ODM業者を使いたいがために、無理に全アイテムをその業者に任せようとするからである。
大手はいざ知らず、中小業者なら得意アイテムは限定されている。

シャツならシャツ、ジーンズならジーンズ、カットソーならカットソーである。

お抱え業者がシャツ専門だったとして、ブランド側がジーンズを作りたいとなると、ジーンズの得意な業者と新たに契約しなければならない。しかし、往々にして、そのお抱え業者を優先するために、ジーンズ業者をお抱え業者の下に組み込むことがある。
これがOEMのODMとかODMのOEMが発生する原因の一つである。

本当に中間業者を排除したいなら、アパレル側がそういう意識を捨て去り、直接にジーンズ業者と契約すべきである。そうでないと、そのジーンズにはお抱え業者のマージンが乗せられてアパレルに提示されるから当然コスト高になっているからだ。

直接に契約するとそのマージンは削れる。

釼さんも書いておられるが、かつてバブル崩壊後、中間業者排除で低価格販売を実現するとして流通段階の中間業者が省かれた。いわゆる問屋を外したわけである。
これによってSPAという業態が成立したが、じゃあ問屋はゼロになったかというとそうではない。

在庫を抱えにくい小規模小売店からすれば一枚からでも卸してくれる問屋の存在は決して不要ではない。
だから問屋は今でもある程度残っているのである。

工賃の引き上げ、店頭販売価格の引き下げを模索した場合、求められるのはたしかに「製造段階の中間業者排除」である。
しかし、製造段階で中間業者が何段階にも渡って携わるようになったのはむしろ、アパレル側、ブランド側の責任である。

自らの体制を改善しないで「中間業者の排除」というのは虫が良すぎるというものだろう。

そしてそれに無批判で相乗りする業者やメディアも業界をミスリードする存在にしかならないだろう。



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