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南充浩 オフィシャルブログ

ゼロにはならないが今後も国産工場は減り続ける

2015年12月3日 FLAG 0

 昨日に続いて連続でFLAGのお題を考えてみる。

ファクトリーブランドは国産比率を高めることができる?
http://goo.gl/P4zy5E

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「日本製が盛り上がっている」と言われながら、その実、日本製衣料は3%しかないというのが事実。
これは繊研新聞でも書かれていたからググれば元記事はすぐに発見できる。

数年前は4%と言われていたから、その当時よりも25%も減っていることになる。
「クールジャパンw」とか「日本製人気」とか言われながら、実情は大幅に減っていたということである。

今回のお題の設定意図が少しわからないが、まあ、文字通りに考えてみると、ファクトリーブランドを増やすことで日本製衣料を増やすことは可能だろうと思う。

しかし、問題点としてはその「ファクトリーブランド」なるものが生産比率を変えるほどは増えていないし、今後も増える見込みはないというところである。

ファクトリーブランドとは何ぞやというと、大雑把にいうと、工場が作った自社ブランドのことである。
とくに縫製工場が立ち上げたブランドというイメージが強いのではないか。

生地工場や染色加工場が立ち上げたブランドを含めたとしてもその数はそれほど多くない。

近年、自立化事業が盛んであるから、ブランド数だけは増えているかもしれないが、生産数量比まで左右するほどの売れ行きを見せているブランドはほとんど見当たらない。

それでも生地工場や染色加工場が立ち上げた自社ブランドというのは、いくつか耳にすることが増えたが、縫製工場が立ち上げたブランドというのはほとんど聞いたことがない。
そして今後も増えることはないのではないかと考えている。

生地工場・染色加工場も含めてファクトリーブランドが今のままのやり方で、大きく成長するということはちょっと考えにくい。

たしかに製造に関してはプロだが、商品デザイン、商品MD、販売、広報、販促についてはド素人である。
しかし「ブランド」を成功させるためにはそこのノウハウを蓄積するほかない。
そしてそのノウハウを蓄積するためにはそれなりの支出が求められる。

工場にデザイナーはいないから、デザイナーを雇用するか、契約するかという措置が必要となる。
当然、費用は発生する。

年間の商品展開を考えねばならないからMD(マーチャンダイザー)も必要だし、直営店なり催事をする際には販売員も必要になる。
販売促進も広報も必要になる。

すべてを外注するという手もあるが、当然のことながら費用は必要だ。
費用はピンキリだが、あまりにケチると結果は伴わない。
ノウハウのない人と契約してしまうか、ノウハウはあるが契約料が安すぎて出し惜しみされるかのどちらかになる。

そして、これまで付き合ってきた工場の体質からして、自社の現状の活動以外のこうしたことに費用を裂くことにひどく抵抗感を見せることが多い。
ひどい工場になるとそれらはタダだと思っている。

長年培ってきたメンタリティというのは一朝一夕に変わるものではない。
工場のそういうメンタリティは今後もあまり変わらないだろう。
もし、変わるとすれば経営者が代替わりしたときで、外部企業で修業してきた息子さんや娘さんが後をついだときに変わるだろう。
ただし、その時には手遅れになっている可能性も高い。

そんなわけで国産比率を高めるという目的からファクトリーブランドにはあまり大きな期待をかけすぎない方が良いのではないかと思う。

どうして国産比率を高める必要があるのかわからないが、まあ、お題に沿って考えるなら、国産工場を使用する大ブランドを育成する方が手っ取り早いし効果的だろう。

例えばエドウインや鎌倉シャツのようなブランドである。

たくさん売れる国産ブランドを育てるためには、たくさんの人々が買いやすい値段帯で提供するほかない。


伝統工芸品を気取ったようなバカ高い価格設定の商品なんて、いくら国産だろうがそんなに売れるものではない。なぜならそれを買える能力を持った人が少ないからだ。
もっと直接的に言えば、それだけの高収入を得ている人が少ないからだ。

低所得でもマニアみたいな人は買うだろうが、それは少数派である。
すべての支出を切り詰めてそれを年に1つか2つ買って満足できるような人が多数派であろうはずがない。
なら、そういう需要は大勢を左右しない。

国産比率を高めたいならエドウインや鎌倉シャツのような中価格帯の国産ブランドを多数育成することが急務である。

しかし、根本的な疑問としてどうして国産を増やす必要があるのかとも思う。
例えば製造加工場、縫製工場は年々減っている。
経営難ということもあるし、経営難でなくても後継者不足ということもある。

じゃあどうして若者が就職しないかというと、まず第一に求人があることを知らないという場合もある。
次に給料が安いからである。
就職した当初給料が安くても良いが、後々は昇給が期待できればまだ人は集まる。
昇給も期待できないような職場に多くの人は入りたいとは思えない。

そもそも、工場だけではなく、アパレル企業も若者が集まりにくくなっている。
洋服輸入会社も若者が集まりにくくなっている。
店頭販売員も集まらなくなっている。
それは給料の低さも含めた待遇面が悪いからだ。
それでもやりたいという人はいるから、そういう人を大事に育てれば良いのではないかと思う。

逆に「どうして若者はファッション業界を目指さないのか?」という視点はナンセンスである。
どうして若者はファッション業界を目指さねばならないのか?

結局、他業種へ若者が就職するということは、給料・待遇・将来性ともに他業界の方があると感じられているからである。
これは多くの親世代が共通してそう考えているだろう。
筆者の息子がもし「アパレルに入りたい」なんて言い出したら全力で阻止して説得する。

もっと言えば、金融や自動車、IT、商社などの産業間競争に繊維・アパレルは敗北したからである。
人材の確保という意味ではそういう企業と競争しなくてはならないわけで、そういう企業の方が若者にとって将来的な計算も含めると魅力的だと映っているからである。
「どうして若者はファッション業界を目指さないのか?」と言っている人々はその事実を直視すべきである。

お題の結論からいうと、今の工場のメンタリティではファクトリーブランドが大きく成長することは難しいから、国産比率を増やしたければ、中価格帯の国産ブランドの育成に努めることが即効性があり効果的だと思う。
ただし、後継者不足は今後も続いていくので、国内工場はゼロにはならないが減り続けるだろう。減り続けたどこかの時点で残っている工場が残存者メリットを享受することになる。

筆者が描けるのはそんな未来像である。


 



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