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南充浩 オフィシャルブログ

アレンジすら禁止すればアパレル・繊維産業が消滅する

2015年12月2日 FLAG 0

 たまにはThe FLAGからのお題について考えてみる。

『本物と偽物がある中で、購入の際に、本物を買うメリットを感じていますか?』
http://theflag.jp/blog/36

original

基本的にはファッションはパクリ合いみたいな側面がある。
これは絶対になくならない。

例えば、ある時期から一斉にメンズウェアのシルエットがタイトになった。
この傾向はいまも根底で続いている。
2005年ごろからのはずである。

これはエディ・スリマンが発表した「ディオール・オム」のタイトなシルエットに業界各社が追随した結果である。

http://www.neqwsnet-japan.info/?p=5880

ここにも詳しく語られている。

数年前「ディオールオム」のスキニーデニムが大流行した時がありました。肌にすいつくような細身のデニムですが、アイコニックな「バックポケットの端にステッチ(タック)が一本入った」デザインがありました。

その当時はもうどのブランドもこのディティールを真似しました。どこへ行ってもバックポケットにステッチを入れる始末。こうなるともうトレンドというよりコピーです。デザインに意味ないですから。

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とのことである。バックポケットにそっくりのステッチを入れることは製品作りにおいて何の意味もない。
ここで指摘されているように単なるパクリでありコピーである。

今回FLAGではスナイデルとそのコピー問題で逮捕されたGRLについてこの課題を設定したと考えられるのだが、ステッチを除いて「ディオール・オム」をコピーした程度のことはどのアパレルブランドでも日常茶飯事である。スナイデルだってそれくらいのことは常にやっている。
逆にそういうことを一度もしたことがないブランドの方が希少性が高いだろう。

コピーを完全に禁止してしまえば、トレンドによるマス市場形成ができなくなる。

タイトシルエットは「ディオール・オム」に限定される。
というような状況になったらタイトシルエットは世に広まらない。


かつてバブル期にアルマーニがダボダボのソフトスーツを発表して、話題となり、それこそ田舎の量販店の平場までもがそれと近しいシルエットの商品で埋め尽くしたことがあったが、そういう現象は出現することはなくなる。

となると、購買層も各ブランド店を巡って買うということはなくなる。

タイトシルエットが欲しい人はディオール・オムでしか買わない。
なぜならそういうシルエットは他ブランドで発表されていないからだ。

ディオール・オムに合わせやすい他ブランドというのも存在しなくなるから、トータルアイテムをディオール・オムでそろえるしかなくなる。
金持ちならばそれも可能だろうが、一般消費者の多くはそこまでの購買能力がない。
所得が低い。

おそらく、それにつれてアパレル各社の売上高も販売枚数も激減するだろう。
そうなると、今度は生産数量が激減することになるから、生地工場も加工場も縫製工場も経営難に陥り、廃業・倒産が相次ぐだろう。

結果的に産業としては疲弊して限りなく消滅に近づくのではないか。

やみくもに些細なコピーまでを禁止することは却って業界の首を絞めかねない。

じゃあ、「本物」を買うメリットは?と問われると、それは買った人の満足感でしかない。
「超人気で、価格がバカ高いディオール・オムを私は買った」という満足感である。
それを買えるだけの収入があったということで自分の心が満たされる。
所有できたという喜びであり、それがすなわちブランドのステイタス性というものである。

ユニクロにはそういうステイタス性はない。
まあ、誰でも買える値段帯である。
「安い割に品質が良い」とか「トレンドのアレがこんなに安く買えた。しかも品質も悪くない」という満足感である。

これを全部一緒にして、比較するのはナンセンスな話である。
それこそマクドナルドとシャックシェイクを比較してワーワー言いあうような不毛な行為である。

FLAGでは、

最近の若い子の中には模倣品でも安ければいいっていう考えがあったり、ブランド名さえ異なれば、偽物を持っているという罪悪感を感じないということもあるそうです。

という警戒感を表しているが、これって何の問題があるのかと思う。

先ほども書いたようにバックポケットのステッチまでコピーした商品は、絶対にアウトである。
しかし、ステッチのないタイトシルエットのズボンなら問題はない。もしそこまで禁止してしまえば、アパレル・繊維産業自体が消滅する。

ケーブル編みのセーターがある。
ユニクロにもあるし、ラルフローレンにもある。
マックレガーにもあるし、シーズンによっては無印良品にもある。

もし、どこかがこの「ケーブル編みセーターの起源はうちだ」とウリジナル、いやオリジナルを主張したらどうなるのだろう。

そのブランド以外ではケーブル編みセーターが買えないということになる。
ガウチョパンツしかり、バルーンスカートしかり、だ。

スナイデルと全く同じ色柄、シルエット、ディティールの製品を作るのはコピーである。
しかし、一部を変えた商品までを取り締まることはできないし、するべきではない。
それすら禁止してしまえば産業自体が消滅する。

でも、「コピーされたコピーされた」と五月蠅く騒ぐブランドだって、元ネタがあってそのどこかの部分を自社ブランド用にアレンジしているわけだから、何を言っているのかと呆れる。

繰り返しになるが、完全コピーは問題外だが、アレンジすら禁止することは却って産業自体を弱める結果になる。



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