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南充浩 オフィシャルブログ

量産需要を獲得するためには「価格の安さ」が重要になるという話

2026年3月30日 企業研究 0

人工たんぱく質繊維のスパイバーが経営破綻し、私的整理に移ったことは以前に書いた。

その詳細についてはこのWWDの記事が伝えていることも書いた。

スパイバーが私的整理へ、川名氏の新会社に事業譲渡か

 

 

 

スパイバーの経営が行き詰まった最大の要因はこの記事にあるように

「量産化できなかった」

ことにある。

 

 

ではなぜ量産化できなかったのかを考えてみる必要がある。

そうでなければ、スパイバーの失敗は何の意味もない。

 

 

この記事は詳細ではあるが2つのことが抜けている。もしくは意図的に書かなかったのか。

1、スパイバーは当初の「蜘蛛の糸」を断念して、ブリュードプロテイン繊維に変わっていること

2、量産化できなかった理由

である。

 

 

ベンチャー好きイシキ高い系や物作りマンセー系はスパイバーをいまだに「蜘蛛の糸の凄い会社」と誤認しているように感じられるが、そんなものは2022年にとっくに断念している。

これは2022年5月の記事である。

スパイバー、たんぱく糸で再起 クモ糸やめて量産開始 – 日本経済新聞

だから「蜘蛛の糸の凄い会社」では4年前になくなっているというのが事実である。

 

 

次にブリュードプロテインを量産化できなかった理由だが、報道されていないので様々ある。

1、技術的に難しかった

2、装置的に難しかった

3、販売先が広がらなかった

という3点が考えらえる。このうち1と2は門外漢の当方からすれば全くわからない。

3はビジネス的に考えることができる。

 

 

販売先が広がらなかった理由だが、これもさまざま考えられる。

1、値段が高すぎて広がらなかった

2、物性的に使えない(使いにくい)繊維だった

という2点があるが、繊維業界からは「値段が高すぎて量産化の需要が広がらなかった」という指摘が主流となっている。

 

 

 

量産需要を獲得するためには「値段の安さ」は必要不可欠である。

ただ、着実に少しずつ販売数量を拡大していき、値段を下げるという手法をとることは理論的には可能だっただろう。

どんな商品でもそうだが、出始めのころの価格は高いが、ある程度普及すれば価格は安くなる。自動車しかりテレビしかり、パソコンしかり、DVDレコーダーしかりである。

今の液晶テレビなんて出始めのころは1インチ=1万円とか言われていた。40インチなら40万円というわけだが、今では普及し尽くして40インチは10万円を下回り、4~6万円程度で買うことができる。これが量産化した工業製品の値動きである。もちろん、糸も工業製品だから販路が広がって生産ロットが増えれば価格は下がる。

いつまでも価格が高いままだったというのは、販路が広がらなかったためである。

 

 

卵と鶏の関係みたいだが、高いから需要が伸びない、需要が伸びないから値上げできない、という悪循環スパイラルに陥っていたと考えられる。

業界人の中には「夢の云々だから高くても使え」みたいな思想の人もおられるようだが、蜘蛛の糸にしろブリュードプロテインにしろ、製品ではなく「糸」である以上、高くても売れるという図式は成り立ちにくい。

製品なら高くても数寄者やマニアが買う可能性はある。しかし、なんぼ「夢云々」言ったところで糸に過ぎない。それだけでは使えないわけで、糸は生地にして、それを洋服にしなければ使い道はない。少なくとも生地にしないと手芸用品店にすら売れない。

となると、糸の値段が高すぎるとそんな物は生地メーカーにも売れにくいということになるから、取引は広がらない。極めて当たり前で自明の理である。

 

 

 

 

記事でも触れられているが、創業は2007年。蜘蛛の糸を断念したのは2022年。ということは15年かかったということになる。

そしてブリュードプロテインへの転換発表は2022年なので、そこから4年で経営が行き詰まったということになる。

蜘蛛の糸断念前と断念後で商材が異なっているため、企業価値が変化したと考えると、4年後の経営破綻は当然だといえる。

 

 

 

もし、企業化していなければ研究としては「蜘蛛の糸」は今でも継続できていたのではないかと考えられる。

ノーベル賞の医学賞や化学賞、物理学賞などはほぼ毎年日本人が受賞できているが、30年前・40年前の研究が今評価されているから、開始から19年程度なら研究としては今でも継続できていた可能性はある。

また、企業化した際にも結果論だが、さまざまな厳しい現実があったと考えられる。

最も厳しかったのは、売り物が1つしかなかったということだろう。前期は蜘蛛の糸、後期はブリュードプロテイン、どちらかしかない。要はそれが売れなければ企業を支える収入が無いということになる。

 

 

大手合繊メーカーや大手紡績なら、収益にならない研究開発素材があると同時に、収益を支えるマスプロダクト繊維がある。

各部門に属する人からすれば「あの不採算部門を廃止すればもっと俺たちの給料は上がりやすい」と考えがちだろうが、そこは持ちつ持たれつであり、研究開発が成功すればそれが新たな売れ筋素材になるかもしれない。だが、一本足打法のスパイバーはそれができなかった。

それを資金集めだけで乗り切るのは不可能である。

もしかしたら、蜘蛛の糸の生成にある程度成功した時点で、大手合繊メーカーか大手紡績に身売りをして「一部門」になった方がよかったのではないかと思う。あくまでも結果論だが。

 

 

研究者だった創業者2名は新会社に参加しない方向だと現在報道されている。

そうなると、ブリュードプロテインの研究も量産化の研究も止まることになる。科学面でのキャリアと知見はド素人だと思われる新経営者がそれを進めることは不可能だと個人的には見ている。

恐らくは生産や分割売却を進めるか、現在残っている小規模な取引を継続する小企業として存続させるか、のどちらかになるのではないだろうか。

原材料ビジネスで量産化するためにはいかに値段が重要かという話である。

 

 

 

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