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南充浩 オフィシャルブログ

「高級化せよ」という提言は机上の空論になりやすいという話

2026年3月23日 企業研究 1

販促や啓蒙活動によって、今までになかった需要が喚起され市場が活発化することがある。

また予期せぬ事件や事故、災害によって需要が急増する分野もある。2020~2023年までのキャンプ市場やゴルフ市場はその典型といえる。

しかし、いくら活動をしようとも、生活スタイルの変化によって需要が減少し続けている物やサービスの需要は回復しようがない。かつての草鞋を今履いている人がいないのと同様である。健康の一環として自宅内やちょっとした散歩に履いている人はいるかもしれないが、普段の仕事や旅行にわざわざ草鞋を履く人はいない。

 

 

 

この生活スタイルの変化や社会の雰囲気の変化によって需要が減少しており、回復する見込みがほぼ無いと思われるのが従来型メンズスーツ、メンズビジネス革靴だろう。

何度も書いているように、この世に冠婚葬祭がある限り需要はゼロにはならない。しかし、オフィスのカジュアル化が進み、従来型スーツで無くとも構わないという社会の風潮が蔓延している今、わざわざ従来型メンズスーツ、ビジネス革靴を優先的に着用する人は極めて少ないだろう。

先ごろ、発表されたリーガルコーポレーションの1工場の閉鎖とリストラは経営上は仕方がない処置だったといえる。何せ、現役世代の人口減少とともにビジネス革靴の需要自体が減少しており、回復の目途は無いからである。理由は以前にも書いたようにスニーカー着用者の増加である。オンタイムでのスニーカー着用も全く珍しくなくなってしまった。

 

 

 

ではリーガルコーポレーションとしては企業存続のためにどのような方針を取るべきかだが、これはなかなか難しい。マス層の需要に合わせるのであれば、従来型ビジネス革靴ではなく、テクシーリュクス的な「見た目は革靴、履き心地はスニーカー」という商品を開発すべきではないかと当方は思っている。そして値段も割安感(激安ではなく)が感じられる設定にすべきではないかとも思っている。

ただし、この場合、完全にテクシーリュクスとの競合になってしまうため、短期間での需要は伸びにくい可能性が高い。また中長期的なしっかりとしたビジョンと分析力を持っておく必要があり、難易度は高い。

 

 

 

 

個人的に最も警戒すべきは「高級化路線を狙え」という提言ではないかと見ている。

これはビジネス革靴に限れず、他の商材・サービスでも必ずと言っていいほどコンサルあたりが提言する方策だが、簡単に成功する保証はどこにもない。

一例がこの動画である。

 

決して間違ったことを言っているとは思わない。マーケティング?の教科書では確実にそのように説かれている。

リーガルブランドのビジネス革靴は1万円台後半から3万円台とビジネス革靴の中では比較的に買いやすい価格帯に属する。個人的にも本格的ビジネス革靴を買うなら入門編としてはぴったりだと評価している。

だが、価格帯が中途半端だからもっと安くするかもっと高級路線を目指せという主張はわからないではない。従来型ビジネス革靴に低価格路線というのは成立しにくい。以前にも書いたが2990~3990円で展開していたジーユーですら今春はビジネス革靴を展開していない。それほどに需要が無く難しいということだろう。

だから、高級路線を目指せという提言は理解できる。

 

 

 

しかし、高級革靴もすでに世の中には溢れている。

また、その価格帯こそ欧米ブランドの独壇場だろう。個人的にはいくら金持ちになろうとも欧米ブランドの高級革靴なんてちっともほしくないが、高級革靴ファンは欧米ブランドを崇拝する人が多い。

リーガルコーポレーションが後発として、欧米ブランドと競合になる高級革靴ゾーンに飛び込んだとて、短期的な勝ち目はほぼ無いだろう。

中長期的な取り組みが必須となるが、何年かかるかわからない博打に大量の資金をつぎ込むことができるとは到底思えない。またそれが結実するまでリーガルコーポレーションの経営が保てるとも思わない。

 

 

 

そして何より、リーガルコーポレーションに高級価格帯を強化するという意思は無いと思われる。

スニーカー選びで非常に参考になるYouTubeチャンネルを運営している方のブログだが、こう書かれている。

2237 リーガルを支えた新潟チヨダ、操業停止へ。絶望。 – シューフィッター佐藤靖青(旧・こまつ)@毎日靴ブログ

リーガルはいくつかの工場でつくられてますが

最高級モデルを担っていたひとつが

新潟にある「チヨダシューズ(株)」。

 

とのことで、今回閉鎖となった工場は高級ゾーンを担当する工場だと言われている。

いくら、人員を他工場で吸収するとはいえ高級ゾーンの工場を閉鎖するということは、高級ゾーンには力を入れないという方針であることは疑いようがない。

だから「高級ゾーンへシフトせよ」という提言は、教科書としては正解だが、リーガルコーポレーションを取り巻く環境を考慮すると机上の空論に過ぎないということがわかる。

さらに付け加えるなら、動画の終わりの方でコンサルの方と撮影スタッフが「ゴム底革靴は抵抗があって、やっぱり革底ですね」と言っておられるのだが、この感覚は愛好家・マニア・数寄者の感覚としか言いようがなく、日常的に業務として外回りや立ち仕事に革靴を履かねばならないマス層の感覚とは大きくズレている。「高級化を目指せ」という提言はこういったマニア層にしか刺さらないため、ある程度のマス層にも訴求したいリーガルコーポレーションには全く当てはまらないだろう。

 

 

 

革靴に限らず、業績が傾くと「高級化しろ」という提言が溢れる。特に衣料品業界にはそういう外野からの声がコンサルも含めて多い。

しかし、高級化すれば欧米の高級ブランドやメゾンブランドとの競合が待っている。ブランドのステイタス性ではるかに劣る国内メーカーが勝てるとは全く思えない。

腰を据えて高級化に取り組めるのは資金繰りにゆとりのあるブランド、企業に限定されるということは内外野ともに強く認識すべきである。

 

・お知らせや仕事の依頼がありましたら、Gメールまでお願いします。

minamimitsuhiro0423@gmail.com

 

 

 

 

 

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 comment
  • とおりすがりのオッサン より: 2026/03/23(月) 11:33 AM

    今朝、旧Twitterを見てたら、911テロの時にビルから逃げる時にリーガルの革底のローファーを履いていたビジネスマン氏が、他の人達は靴が脱げたりスニーカーでガラスを踏み抜いたりしてるのを横目に、自分の靴は脱げずにガラスも踏み抜かず逃げられた、という逸話とホコリまみれのままの靴の写真が出てました。

    でも、そこの返信には、ジョンロブの革靴履いて逃げた人(自身の時?)が、コンビニで店員のスニーカーと交換してもらったとかいう話もかいてあったりw

    まぁ、革底のほうが丈夫だといっても、それでスニーカーやめる人もいないでしょうけども。

    ちなみにリーガルは、すでに高級路線も結構やっていて、シェットランドフォックスブランドはリーガルブランドよりちょっと高級だったりしますし、マスターリーガルという6万円くらいの高級路線もあったり、さらにハンドメイドの20万30万とかの注文靴もリーガルトーキョーブランドで銀座の店舗のみであったりしますね。

    というように、ブランド多すぎ、靴の種類多すぎというのが問題なのではないかと。
    靴なんて、それじゃなくてもサイズ展開が0.5cm刻みでいっぱい作らなきゃならないし、木型もサイズごとに全部別だしと大変なのだから、もっと品数少なくしたら良いだろうにと素人は思います。
    ビジネス用の革靴なんて、ストレートチップとウィングチップとパンチドキャップトウの3種類を黒と茶で出しておくくらいで良いのに。なんなら、パンチドキャップトウも要らないかも?w

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