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南充浩 オフィシャルブログ

「みんなのスーツ」にメンズスーツ業界のジレンマを感じた話

2026年3月5日 企業研究 0

昨年11月に青山商事から「みんなのスーツ」が発売された。

その後、3ヶ月が経過したが売れ行きはどうなのかと思っていたら、こんな記事が掲載された。一言でまとめると出だしの売れ行きは好調である。

 

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青山商事が2025年11月に発売した「みんなのスーツ」のことで、発売3カ月で2万着を売り、当初計画を3割上回る数字をたたき出した。同社には上下で1万円を切るヒット商品「ゼロプレッシャースーツ」(21年発売)があるものの、2万着販売に約1年半かかった。みんなのスーツの売れるスピードが、いかに速いかがよく分かる。

 

とある。需要の母数自体が減少し続けているメンズビジネススーツというジャンルにおいて、3ヶ月で2万枚売れるというのはかなりの好調だといえる。1か月で7000枚弱売れているということになる。

で、この記事は「売れた理由」をまとめているのだが、なるほどなあと思わせる。

まず、価格がそれなりに安いという点はあるだろう。上下セットで1万3000円弱である。だいたいユニクロの感動ジャケット+感動パンツのセットと同じくらいの価格である。

もちろん、これよりも安い商品はある。ワークマンのアクティブワークスーツはもっと安いし、ジーユーのセットアップは定価で8000~9000円くらいである。とはいえ、びっくりするくらいの価格差でもない。

 

 

 

で、この記事がまとめている理由は大きく3つある。

1、サイズ表記がS、M、Lであること

2、ズボンのウエスト部分の両脇がゴム入りで動きやすいこと

3、スーツっぽい縫製仕様でシルエットが綺麗なこと

である。

 

このうちで、2はもう説明するまでもなく「楽」であることが評価されていることがわかる。

個人的には1と3がミソなのではないかと思う。

 

 

まず、1のサイズ表記の問題だが、文中でも触れられているように通常の既製スーツの場合、Y、A、AB、B(BBの表記も)という4つのシルエットに分類される。

Yは細身、Aは標準、ABはややゆとり、Bはゆとりという具合である。

このシルエットとズボンのウェストサイズが掛け合わされて販売されている。Y体で、ウエスト76センチならY5、A体でウエスト80センチならA5という具合だ。ウエストはだいたい2cmピッチでサイズ展開が刻まれている。だから、青山、Aokiなどの既成スーツ屋はサイズ展開が異様に多くなるわけである。

ちなみに当方ならA5 かA6である。Y体を着ると2005年当時のピチピチスーツみたいにピチピチになってしまう。

 

 

 

サイズ展開が多いと既製スーツ屋は在庫管理が大変で売れ残り在庫リスクも大きくなるが、消費者側も選ぶのがめんどくさいということになるし、既製スーツのサイズ展開の知識が無い人も多い。

そうなると、通常のカジュアル服で慣れているS、M、Lのサイズ表記がわかりやすいということになる。

 

 

 

次に3の縫製仕様である。

パターン通りに縫い合わせればどの工場でも同じ物ができると考えている消費者は多いと思う(業界人でも知識の無い川下担当者とか読モ、インフルエンサー辺りはそう考えていることが多い)が、工場や縫う人が変わると同じ商品でも雰囲気がガラっと変わる。

余談だが、ジーンズカジュアルのジョンブルがレディースの縫製工場をレディースアパレル担当工場に変更したことがあった。そうすると、それまでと似たようなデザインの商品なのに、レディースブランドっぽい仕上がりになった。以前はアメカジっぽい仕上がりの商品だった。

縫製工場を変更するだけでこれほどに変わるのである。

 

 

だから縫製仕様というのは結構重要なのである。

2010年代後半から増えてきた低価格カジュアルセットアップという商品だが、出来上がった商品のシルエットが平面的である物が多かった。実際、自分でも値下がりしたアンドエスティでテイラードジャケットをいくつか買ってみたがいずれも平面っぽいシルエットだった。(リングヂャケット監修商品以外)

それをスーツがメインである青山の工場らしく、スーツ仕様の縫製でスーツっぽく見えるようになっているという。これは他ブランドの低価格セットアップ商品には真似しづらい部分だろう。

 

 

 

表題にもあるように苦境のメンズスーツ業界にあって、期待の新商品が登場したというのは喜ばしいことだが、懸念も大いにあると感じる。

メンズスーツ自体の需要総数は現在の生活環境下では減ることはあっても増えることはまずない。そうすると、この「みんなのスーツ」は通常の既製スーツや低価格オーダースーツの需要を横取りしているだけではないかという懸念が浮かんでくる。

みんなのスーツは売れれば売れるほど、通常の既製スーツや低価格オーダースーツの売れ行きは減る可能性が高いのではないかと思えてくる。

 

 

さらに付け加えれば、みんなのスーツが売れれば売れるほど、客単価は低下しやすい。

通常の青山の既製スーツなら最低価格が2万円弱する。これが1万3000円弱に引き下げられてしまう。通常の既製スーツの中心価格帯は2万円台前半~3万円台半ばではないかと思われるのだが、その場合だと客単価は1万円以上下がることになってしまう。

 

 

メンズスーツの需要そのものが減少せざるを得ない生活環境になって、それを打破するための一つの方策として「みんなのスーツ」の発売は正解だと当方は思う。

しかし、同時に既存スーツの需要を食ってしまい、客単価を1万円以上下げるという負の要素も大いに持っている。ここにメンズスーツ業界の抱える大きなジレンマがあるといえる。どちらの見方も間違っていないからこそ、解決不可能なメンズスーツ業界の厳しさが浮き彫りになっている。

どちらを選んでも何らかのダメージを受ける以上、青山商事は腹をくくってどちらかを選んで微修正しながら突き進むほかないだろう。そしてそれは青山商事に限らず、Aoki、はるやま、コナカと言った他のスーツ販売チェーン店大手も同様である。

 

 

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